③富裕層を優遇すればトリクルダウンが起こるというウソ

 

 いま、自民党政権において、労働者の賃金を上げるために法人税を減税するという言説が広まっています。自民党の力説するところでは、企業の純利益を守ってやれば、企業はその純利益によって人件費を上げたり、雇用を拡大したりして、経済は最も調和の取れた成長をすると言います。企業の自由意志で賃金や雇用を増やすことをトリクルダウン理論と言います。

 これはこういう理屈です。例えば、純利益が100万円あったとします。今、法人税が40%課税され40万円を差し引いた60万円が株主の取り分になっています。しかし、この純利益100万円に課税しなければ、株主はすべてを自分のものとせずに、おそらく株主は60万円くらいを受取り、残りの40万円賃金に上乗せして支払うであろうというのです。

 しかし、政治家がのようなことを観測で述べるというのは変です。なぜなら、いくらかでも賃金に上乗せして支払わせたいのなら、それを条件に、法人税減税を提案しなければならないはずだからです。

 例えば株主は減税されても今の取り分を60万円からふやしてはならず、減税された分はすべて賃金に回さなければならないと言う条件です。

 ところが、自民党の法人税減税では、無条件で企業の純利益への課税を減税してやれば、株主の善意(自由意志)で、純利益の中から賃金に上乗せして支払うので、企業に任せると言っているのです。

 富裕層の善意(自由意志)によって低所得者や貧困層への分配が起こるという理論は、トリクルダウン理論と呼ばれます

 自民党の言っている法人税減税の趣旨はトリクルダウン理論そのものです。

 もともとのトリクルダウン理論は、法人税減税に限らず、富裕層が豊かになるために富裕層の税負担を減らし、競争や雇用の規制緩和を行って、富裕層が利益を上げられるようにしてやれば、富裕層は積極的に消費や投資を行うようになり、それによって、低所得者や貧困層も豊かになれるという理論です。

 もちろん、このようなことは真っ赤なウソであり、決して起こりません。

 富裕層は、稼いだお金を貯めこむだけであり、あるいは、景気が上向くときに、便乗して投資するだけです。

 トリクルダウン理論は、大変幼稚な理論であり、一旦、すべて富裕層のものにしてやれば、富裕層は寛大であり、善意の人たちなので、投資家の寛大さや、善意によって、世の中の望ましい姿が実現され、富は低所得者や貧困層へこぼれ落ちるので(トリクルダウン=こぼれ落ち)、国民は豊かになれるという根拠のないものです。

 こうしたトリクルダウン理論のおとぎ話には明確な目的があります。

 それは、国民に、富裕層の金儲けを認めさせることです。

 その富裕層の金儲けはありとあらゆる手段で行われますが、大抵は国民が被害を受けるものです。

 一つは効率化です。効率化という言葉は生産量に関するものか、利益に関するものかはハッキリさせないままに使われますが、実際は利益に関するものです。投資家にとっては利益が重要なのであって、生産量はその手段にすぎないからです。

 最も効果のある「効率化」が賃金と仕入費の削減であることを考えれば、むしろ、効率化はマクロ経済にとって好ましいものではないことは想像が付くでしょう。

 政府は企業の利益などに関心を持つべきではなく、生産量を重視しなければならないはずです。

 効率化は分配を損ない、消費を減少させ、ひいては生産量を減少させますから、決して好ましいものではありません。

 ところが、不思議にも、政府が「利益」を重視すると言い出し、「効率化」を合言葉に、中小企業、零細企業、個人商店は存在自体が非効率とされ、経済活動が不利になるように制度が変えられて行きました。

 特に消費税や固定資産税が強化され、中小企業は、固定資産税の強化による担保力の破壊およびBIS規制の強化によって中小企業金融などの資金調達は困難となりました。

 また、消費税(付加価値税)によって労働者の賃金が削られ、全ての中小企業、零細企業、個人商店、労働者は、大企業が効率的に利益を得るように再編されて行きました。(構造改革)

 最初に行われたことは、政府の政策において、富裕層を有利とし、低所得者や貧困層を不利とする税制の導入です。

 すなわち、富裕層の税負担を減少させ、低所得者と貧困層の負担を増加させようとしていることです。

 自民党は、法人税減税の代替財源として、消費税増税、固定資産税増税、所得税の住民税化(フラット化)、社会保険料の増額等を行いました

 法人税の減税は、税金の無い世の中を目指すということではありません。依然として、政府は財政均衡主義であり、法人税を減税した分を補うために、低所得者と貧困層からの税収を増やしたのです

 なぜ、わざわざ、おカネの有り余っている株主の負担を減らして、お金を持たない低所得者や貧困層から税金を取るのかというと、証券市場で頑張った者たちが報われ、証券市場で頑張らない者たちは、報われるべきではないという世の中を創るためです。

 つまり、体を使って働くことしか能のない労働者は非効率であり、頑張っていると評価するに当たらないと言っているのです。

 自民党は最近トリクルダウンという言葉を使わなくなりました。国民の多数は、すでに、トリクルダウン理論が言うように、強欲な富裕層の手から富が低所得者や貧困層にこぼれ落ちるなどといったおとぎ話のようなものはあり得ないと判ってしまったからです。

 というよりも、むしろ、国民に「富裕層を儲けさせることは時代の流れで仕方のないことだ」という洗脳が成功し、認識が定着したので、言う必要がなくなったと言った方が良いかも知れません。

 国民は、マスコミのプロパガンダで一時期トリクルダウン理論を信じていました。だんだん違うのではないかと思い始めても、一旦出来上がった価値観や世間の空気に抗し切れず、「頭を使って頑張った者が報われるべき」という認識に洗脳されています

 「富裕層を儲けさせることは良いことだ」という主張は一貫して続けられ、こんどは、(証券市場で)頑張る者が報われる社会でなければ、経済成長は止まり、世界の発展から取り残されると言っています。

 富裕層とは、投資家(株主)と債権者を指します。自民党政権は富裕層に儲けさせましょうと言うばかりで、決して、儲かった富裕層から税金をもらいましょうとは言いません。

 代わりに、低所得者や貧困層に対しては、負担を法律によって具体的に強化し、消費税増税、固定資産税増税、所得税の住民税化(フラット化)、社会保険料のアップを推進します。

 さらに、悪質なのは、自民党は、富裕層の利益の増大を手助けし、雇用の規制緩和や派遣労働の拡大などによって賃金を引き下げ、経費の節減を奨励していることです。

 しかし、法人税減税によって企業の純利益を優遇したのでは、人件費や設備投資費を支払おうとする動機が高まるはずはありません。むしろ、人件費や設備投資費を削ってますます純利益を大きくしようとします。

 逆に、法人税の増税を行えば、企業内部においても、課税対象から人件費や設備投資費が控除されるので、人件費や設備投資費の増大にインセンティブを与えます。

 そして、法人税の増税を行えば、有りもしない富裕層の善意によるトリクルダウンではなく、国家権力の強制力によって消費税、固定資産税、住民税(フラット化)、社会保険料を軽減または廃止することが出来るようになり、それによって正真正銘の低所得者や貧困層に対する所得再分配を行うことが出来るようになります。

 よって、法人税の増税こそ、人件費や設備投資費の増大を奨励する最も効果粋な政策になります。

 消費税は付加価値にかかる付加価値税ですから、付加価値の主たる要素である人件費の削減に、一層のインセンティブを与えるというトンデモナイ税金です。

 消費税の存在はこのような猛毒を持つものなので、一刻も早く廃止すべきです。

 法人税減税と消費税増税は、どちらも単独でそれぞれ人件費の増大にマイナスのインセンティブを与えます。

 だから、法人税減税と消費税増税が同時に行われれば、相乗的に人件費の削減が推し進められ、国民は貧困化するのです。

 逆に、法人税増税や所得累進課税の強化を行えば、結果として、所得から貯蓄に回す流動性選好(投機的貨幣需要)が縮小します。流動性選好(投機的貨幣需要)の縮小はケインズ経済学の主たる目標です。流動性選好(投機的貨幣需要)の縮小とは、取引的貨幣需要の増大であって、すなわち、消費の増大、投資の増大であって、国民は豊かになります。

 ケインズの夢を叶える意味でも、むしろ、法人税増税や所得累進課税の強化を行わなければなりません。

 また、法人税増税と所得累進課税の強化だけでなく、相続税も高率の課税をすべきです。例えば、相続資産に対する最高税率90パーセントの累進課税を行うと、富裕層は子孫にその富を継承できなくなります。そうなると、おそらく、富裕層の子孫もほとんどゼロから始めなければならなくなります。

 ケインズは、「利子生活者の安楽死」というシンボリックな比喩をもって、そうすべきであると言っています。

 税制、社会保障制度、雇用制度を組み立てる上で重要なことは、富裕層の子がまた富裕層になり安楽な生活がれるという怠惰なドリームを創ることではありません。

 重要なことは、低所得層の子供がサラリーマンという労働者になったときに、幸福なサラリーマン生活が送れる社会となるかどうかです。

 

 

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