⑥クラウディングアウト現象は起こらない

 

 クラウディングアウト現象とは、政府が財政政策で投資の過剰な状態を創り出したときに、金融機関の融資金利が上り、民間の企業が投資し辛くなるという現象、つまり、民間の投資が締め出されるという現象です。

 これについて、ごく簡単に、その矛盾を指摘すれば、金融政策において、(景気が過熱しているときには、金融機関はその儲けに便乗するために独自に金利を上げて行きますが、それでも景気の過熱が止まらないので)、政府が金融政策として金利を上げる金融緊縮政策を行うわけですが、これは、金利の上昇が不十分であれば、投資の過剰という現象があり得るということを意味していますから、必ずしも、金利が市場原理的に上がっても、民間投資を減少させるとは限らないことになります。

 これでクラウディングアウト理論は否定されます。

 しかし、もう少し、それが経済のどのような機能や仕組みを背景としているのかを説明します。

 クラウディングアウト理論がIS‐LM分析によって補強されていることについては、IS‐LM分析自体が変な理論であることを前に述べましたが、いずれにせよ、どちらも同じ失敗を犯しています。

 IS‐LM分析は、財政政策でIS曲線を右にシフトさせれば、必ず利子率が上昇し、クラウディングアウト効果やマンデル・フレミング効果が起こり、財政政策は無効になると言っています

 また、金融緩和によって金利を下げ、LM曲線を下にシフトさせたときは、企業は投資を拡大し、逆に、金融緊縮によって金利を上げ、LM曲線を上にシフトさせたときは、企業は投資を縮小すると言っています。

 これらは、IS‐LM分析はケインズモデルであると言っているくせに、ケインズとは全く異なる理論です。

 ケインズは、金利rが上がっても、それ以上に資本の限界効率つまり投資の収益期待が高まれば、企業は投資を拡大するので、投資は金利の一次的な関数にならないと言っています。

 それにも関わらず、IS‐LM分析では、投資は金利の一次的な関数であるので、金利が上がれば投資は減少してしまうと言っているのです。

 常識で考えて見ても、政府が投資をして景気が上がっているときに、金利が上がったからといって、投資を手控える企業が存在するとは思われません。企業は、政府投資による景気の上昇に乗り遅れまいとして、むしろ、投資家は金利の上昇をものともせず投資を拡大します。

 だから、政府はよりいっそう金利を上げる金融政策を行って、過熱を鎮静化させなければならないほどなのです。

 しかし、銀行は、金利の上昇によって、融資のリスクを考慮しても有り余る大きな利益を得るからには、リスクの高い事業にも融資を拡大しようとします。これは、クラウディングアウト効果とは逆の動きになります。

 そもそも、金利というものは銀行の行動だけにまかせておくならば、景気にブレーキがかかるほどに上がるものではありません。そんな馬鹿なことは銀行もしません。

 多くの場合、政府が景気の過熱を抑制するために金利を上げるのですから、景気に影響するほどの金利の変動の大部分は政策的に変化するのです。つまり、IS‐LM分析とは異なり、現実の金利の変化は政府の政策に一義的に依存します。

 よって、IS‐LM分析のように、金利を自然現象として捉えることがすでに間違っています。

 通常、不景気な時に、政府が積極的な財政政策を行うときは、同時に金融緩和も行うのが常識で、政府支出を増加すると同時に、金利を下げ、民間企業にも投資させようとします。

 逆に、景気が過熱している時は、金融緊縮を行い、物価上昇率以上に金利を上げる政策を採用します。それでも足りなければ、市場から貨幣を回収する課税強化を行います。

 景気の過熱とは、名目賃金の上昇スピードが物価の上昇スピードに追い付かない状態を指します。

 だから、物価の上昇スピードを緩やかにし、名目賃金の上昇スピードが物価の上昇スピードに追い付くようになれば、過熱状態から脱したと言えます。

 ところが、たとえデフレであろうと、積極的な財政政策に反対する立場があります。

 すなわち、いわゆる財政均衡派ですが、彼らは政府に積極的な財政政策をやらせたくないので、IS‐LM分析を盾にとって、財政政策と金融政策をセットでやるという常識は存在しないかのように主張するのです。

 そして、今や、財政均衡派は、実際に金融政策が効果を出せなくなるように資産制度と金融制度を改革し、間接金融(金融機関による融資)が機能しなくなるような(地価下落政策による担保の縮小およびBIS規制による資産の厳しい評価体制)という仕組みを作ってしまい、金融政策が、国民所得に対して何の意味もなくなるように破壊してしまいました。

 財政均衡派は、かつて資産制度および金融制度が健全であり、間接金融すなわち信用創造が機能していた時には必死に金融緩和に対しても反対していました。

 そして、バブル崩壊を口実に固定資産税増税による地価下落政策(資産制度の変革)やBIS規制(金融制度の変革)を仕掛けて、実際に、金融緩和が効かないように金融制度を変えて来たのは財政均衡派とまったく同じグループです。

 地価下落政策やBIS規制は、信用創造を停止させるための手段であり、財政均衡派は、信用創造が機能しなくなるや否や、金融緩和に同意しても良いと言い出したのです。

 このような連中はリフレ派とも呼ばれますが、リフレ派が金融緩和を提唱するのは茶番にすぎません。

 また、クラウディングアウト理論やマンデル・フレミング理論については、財政政策をやるときはクラウディングアウト現象やマンデル・フレミング現象が起こるので、金融政策も同時にやらなければならないという理論であると言う者をたまに見受けますが、そもそも、クラウディングアウト理論やマンデル・フレミング理論は起こらないのですから、クラウディングアウト理論やマンデル・フレミング理論を認めさせる代わりに、財政政策と金融政策を同時に行うべきとすることで、同じ主張になるという理屈に同意すべきではありません。

 クラウディングアウト現象やマンデル・フレミング現象が起こらないということと、それらが金融政策でキャンセルされるということは同じことではありません。

 IS‐LM分析をケインズモデルだとウソをついて発表したのはジョン・ヒックスです。ヒックスは新古典派経済学の代表的な人物であり、ケインズが怒ってIS‐LM分析を批判したのは、IS‐LM分析はケインズモデルとは似ても似つかないものだったからです。

 なにしろ、ジョン・ヒックスはあえてケインズのいろいろな分析を無視したくせに、それを可視化したとウソをつき、経済学からケインズ的な議論を排除しようとしたのですから、ケインズが怒って当然です。

 いまや、クラウディングアウト理論とマンデル・フレミング理論は、積極的な財政政策に反対する新古典派の代表的な反ケインズ理論となっています。

 クラウディングアウト現象は、数理的理解と称して次のように説明されています。

 例えば、財政政策を行い、GDPを⊿Y単位増加させようとするときは、IS曲線を⊿Y単位右に平行移動しようして、LM曲線との均衡点がLM曲線上のP点からQ点に移動した場合、(IS曲線およびLM曲線を直線と見て)線分PQの長さを⊿M単位とし、線分PQの水平方向からの傾きの角度をθとした場合、GDPは(⊿Msinθ)単位しか増加しないことになっています。

 IS曲線を⊿Y単位右に平行移動しようしても、(⊿Y‐⊿Msinθ)はクラウディングアウトのために増加しなかった部分だと言うのです。

 しかし、これはグラフの幾何学模様からもたらされた錯覚です。なぜなら、財政政策に対して金利はそのような増え方はしないし、GDPもまたそのような増え方をしないからです。

 経済学で用いられるグラフや数式は視覚的に理解しようという試みの一つにすぎないのに、このような間違ったイメージが一人歩きします。

 IS‐LM分析が、⊿Yを生み出すはずの乗数効果は、金利の上昇の影響で(⊿Msinθ)単位だけしか生み出せないと言っていることに対して、ケインズは、金利は投資にこのような一意的な影響を与えないと言っています。

 ケインズによれば、実際の民間投資とGDPの変化は資本の限界効率に牽引され、資本の限界効率は他の複雑な要因に左右されます。

 金利は資本の限界効率とは異なるもっと別の要因(つまり完全に意図的な政府政策)に左右されます。

 このように、ケインズは、経済成長と金利、資本の限界効率と金利は、どちらも、互いに一意的に結びついていないと言っています。

 例えば、こんな話を考えて見ます。『一つの企業が融資を受けて投資しようとした場合、それによって、金利が上がり、その金利の上昇により、他の企業の投資への参入が阻害される。』こんな話が成り立つでしょうか。

 小泉構造改革は2001年から2006年の間に行われましたが、その期間、アメリカでは住宅バブルでした。だから、小泉構造改革という経済成長にとってマイナスの制度改革を行っていても、アメリカの消費の増大に便乗して輸出を増やすこと出来、経済成長して、好景気なときと同様に財政は黒字になったのです。これと同じことが国内でも起こります。政府が投資を増大して景気が良くなれば、企業は政府の巻き起こした好景気に便乗し、投資を増やします。

 『政府』『一つの企業』に置き換えて、『一つの企業』が同じように投資をした場合を考えれば、同様のことが起こり、むしろ、政府であろうと、企業であろうと、誰かが積極的に投資を行えば景気が良くなるということの方が常識的に思われます。

 政府が国債を発行して政府支出を行うことは、企業が融資を受けて投資することと全く同じです。

 そもそも、デフレの時は民間が債務を拡大して投資しないので、政府が投資すべきだと言っているのに、政府が積極財政をやれば金利が上がり他の企業が債務を拡大出来なくなるので積極財政をしてはならないというのは手品のような理屈です。

 

 

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