⑤格差を縮小させれば経済は自然に成長する

 

 「格差を縮小させれば経済は自然に成長する」というのは、ケインズ経済学の定理です。

 紀元前500年において、孔子によって、「少なきを憂えずして等しからざるを憂う、貧しきを憂えずして安からざるを憂う。けだし、等しければ貧しきことなく、和すれば少なきことなく、安ければ傾くことなし。」と指摘されています。これは、ピンハネが無くなり、格差が是正されれば、貧困は無くなるという意味です。

 つまり、格差の縮小は貧困の解決策でもあります。

 そして、貧困の解決策が、ケインズの理論において、経済成長政策になります。

 格差を縮小させるための政策は所得再分配政策と呼ばれますが、所得再分配政策には、税制や社会福祉政策といった長期的な制度作りに関する財政政策と、公共投資のような毎年変わる短期的な財政政策とがあります。

 税制や社会福祉政策といった恒久的な制度作りに関しては、国の形作りとも言うべきもので、その国が何を目指しているかの設計図にもなります。

 自民党政権は「瑞穂の国の資本主義」と言い、あたかも所得再分配に力を入れるように錯覚させながら、消費税増税、TPPへの加入、解雇の規制緩和、社会保険料の増額、社会福祉の削減といった全く逆向きの政策を推進して来ました。こういうウソをつく政権は、日本の政権史上始めてです。

 しかし、考えて見れば、安倍政権成立のときに安倍晋三氏がウソをつかなければならなかったということは、少なくとも、そのときはまだ、日本国民や政治家の間に、格差を縮小し、平等を目指すべきであるという倫理観が残っていたということでもあります。

 よって、自民党政権は「瑞穂の国の資本主義」というウソをつき、貧困化を肌身に感じている国民を騙さなければならなかったのです。

 現在も、自民党は、消費税増税は社会福祉の財源を創るためだとか言い、実際は、低所得者や貧困層か所得奪い続けています。

 また、TPPは経済を発展させ、国を強くするためだとかいうウソを言い、日本の経団連などの一部の大企業が輸出しやすいように、相手国に規制を緩めてもらうために、国内の農業をはじめとする大事な国内産業に対する補助を打ち切り、国民を破滅させようとしています。

 防衛費増大も、アメリカの時代遅れの軍需品を輸入するためのもので、それによって、むしろ国内の防衛産業は国産化の基盤を失います。

 これに対して反論する経済学者はテレビやマスコミにほとんど出してもらえませんから、自民党のウソは誰からも指摘されることがないまま、国民の中で盤石の支持基盤を持ち続けています。

 富裕層は所得再分配の問題を議論することを忌み嫌っています。そして、儲ける者がいなくては経済成長することが出来ないなどと逆向きのことを言い続けています。

 または、ソ連をはじめとする社会主義国の失敗を例に挙げて、平等を目指したのでは国は滅びるとか言っています。

 しかし、ソ連は平等を目指したから破綻したのではなく、政治的方法を間違い、平等への志向を放棄したから破綻したのです。その証拠に、ソ連でも共産党的特権階級であるノーメンクラツーラ(貴族官僚または赤い貴族)が誕生したことで、国民からの信頼を損ないました。

 マルクス主義的平等の実現という理想に対して、マルクス経済学というサプライサイド経済理論(いわゆる社会主義計画経済)とプロレタリアート一党独裁という政治理論は共に役に立たなかったのです。

 すなわち、マルクスの平等への志向は、マルクス自身の経済理論の間違いから、ノーメンクラツーラ(貴族官僚または赤い貴族)の発生を防止することが出来ず(平等化の失敗)、また、経済を成長させることもまた出来なかったのです(経済成長の失敗)

 資本主義というシステムはおそらく人類史上最後の経済システムです。資本主義は民主主義を含み、その民主主義と共存し得るという意味において、資本主義を超える経済システムは、今後も出て来ないでしょう。

 しかし、その資本主義にも、その欠点ばかりが出てしまう最悪の形態(新自由主義的資本主義)から、その利点を生かす最善の形態(ケインズ型資本主義または修正資本主義)まで、いいろな形態があります。

 資本主義を最善に導くために不可欠のものが税制、社会保障制度、インフラ投資政策、不動産などの私有資産政策、間接金融の体制保全などによる所得再分配政策です。

 所得再分配は、高所得者や富裕層から低所得者や貧困層への所得の再分配を言います。

 それによって、格差と貧困化の問題を是正することが出来るだけでなく、また、結果として経済成長をもたらします。

 これらは恒久的に子々孫々にまで残さなければならない体制であり、これらを築き、そして、残すための戦いが人類の永遠の課題なのです。

 所得再分配政策をないがしろにしては、国の姿勢が問われるだけでなく、実際にも、ほとんど全ての国民は人間の尊厳をもって生きていくことが出来ません。

 所得再分配型の社会とは何を意味するか、それは労働者の労働が報われる社会であり、特に、低所得者に対しては、消費税(付加価値税)、住民税、源泉所得税、健康保険税、年金保険税などの名目で、不当な税金を賃金から削り取られるような制度がなく、あるいは、労働者や低所得者が成り上がろうと思ったときに、必須の投資の財源の提供源である間接金融が健全に機能し、誰でも、一念発起の事業に対して投資の資金を調達することが出来るような社会を言います。

 特に、幅広い国民のために役に立つ資本主義を目指すならば、間接金融の機能は絶対に必要です。

 もし、このような税制や金融制度の一つでも欠けるのなら、国民は命をかけてでも取り返さなければなりません。

 しかし、実際は、もはや、自民党政府が全て破壊し尽くしており、すでに手がつけられないほどになっている体です。

 しかし、革命政府が生まれ、数百の革命担当官を創設し、ひとつひとつ改革して行くならば、数年間で見違えるほど日本の社会は変わるでしょう。だから、悲観する程ものではありません。国民にやる気があれば、欠陥はすぐに回復されます。

 バブル崩壊以来、バブルを口実に、右に列挙したことはすべて行われて来たのですが、そのため、日本国民の貧困化が急速に進みました

 現に資本を持っている者しか投資が出来なくなり、大企業の株主以外の国民は所得を奪われるだけになっています。

 所得再分配型資本主義は、平等の達成と経済成長の持続という二重の幸福をもたらし、その反対の新自由主義的資本主義(市場原理主義または金融資本主義または自由貿易主義)は、格差の拡大と経済成長の停止という、二重の不幸をもたらします。

 なぜなら、ケインズ経済学は「所得再分配だけが唯一の経済成長政策である」と言っているからです。

 格差が拡大すれば経済成長は止まり、格差が縮小すれば経済成長が持続するという因果関係が存在し、必然として、二重の幸福か、二重の不幸かの二者択一の選択しかありません。

 それにも関わらず、今まさに、日本は最悪の形態である格差の拡大と経済成長の停止という二重の不幸を選択しているのです。

 格差が縮小すると経済成長が始まるというメカニズムは、乗数効果の考え方から簡単に説明することが出来ます。

 日本の平均の消費性向は0.7と考えられています。これは、国民の全体の所得の内、税負担と貯蓄の合計が30%であり、消費に使われるものの合計が70%であるという意味です。(ケインズは、所得の内消費に使われなかったものが貯蓄であると定義しています。)

 限界消費性向も消費性向と大体一致すると言われていますので、日本の平均の限界消費性向も0.7と考えられます。高所得者の限界消費性向はこれより低く、仮に0.6とします。低所得者の限界消費性向は、仮に0.8とします。(所得の内残りの20%は税金と社会保険料で回収され、手元に残ったお金は生活費に全部使っているということになります。)

 国家の平均の消費性向とは、国民各個人の消費性向を平均したものではなく、全国民の所得合計に対する消費性向を言います。

 租税乗数の考え方では、消費性向0.6の家庭に増税すると、増税した額に対して「Y=0.6/(1‐0.7)=2」倍のGDPが失われると言われていますが、実際はそうはならないでしょう。

 高所得者の所得から貨幣を回収する法人税や累進所得税の増税を行うと、所得から税金等強制貯蓄0.3、自由貯蓄0.1、消費0.6に分配されていたところに、増税によって税金等強制貯蓄が0.4に上昇した場合、所得の減った分0.1に対して0.6の消費を取りやめるとは限りません。

 つまり、所得が税金等強制貯蓄0.4、自由意思による貯蓄0.06、消費0.54に分配されるようになるとは限らないということです。貯蓄を減らして、消費は減らさないかも知れません。そうすると、おそらく失われるGDPはありません。

 しかし、ある程度の贅沢を止めて、ある程度の消費を減らす可能性はあります。しかし、消費を減らす割合は低所得者が全額消費を減らすことに比べれば、比較にならない程わずかであると思われます。

 低所得者の所得から貨幣を回収する消費税や所得税の増税を行うと、すでに税金や社会保険料などの強制貯蓄分0.2を支払った残りの純所得0.8は全部使っていますから、増税が0.1行われた場合、貯蓄性向(税金・社会保険料の強制貯蓄であり、自由貯蓄ではない。)は0.3となり、確実に限界消費性向0.8は0.7にまで下がり、増税された額について、全部まるまる消費が減ります。

 だから失われるGDPは、増税された額に対して「Y=1/(1‐0.7)=3.33」倍となります。

 増税に対する、高所得者と低所得者に対するダメージの違いはこれほど大きなものになります。

 逆に、低所得者に対して0.1単位減税すると、限界消費性向は0.8以上に上がります。ただし、0.9になるかどうかは分かりません。なぜなら、消費性向0.8で生活できていたとすると、減税によってそれが消費に使えるようになったとしても、少しは貯蓄に回そうと考えるかも知れないからです。しかし、普通は、少しは贅沢をしたいと考え、消費を増やすでしょう。

 だから、高所得者に対して増税し、その分、低所得者に対して減税を行うと、高所得者が消費を減らす分より、低所得者が消費を増やす分の方が格段に大きくなります。これほど大きな違いがあれば、それだけで景気回復効果があります。

 つまり、高所得者への増税と低所得者への減税の組み合わせは、それだけで景気回復政策となるのです。

 逆に、高所得者に対して減税、低所得者に対して増税を行うと、格段の景気悪化効果があります。

 ただし、ここで言っている高所得者や低所得者といった格差は所得格差のことです。ストックとしての貯蓄の格差は、インフレを進行させれば放っておいても縮小されますから、ここでは触れる必要がありません。

 あるいは、世界にどんなにすごい金持ちが居ようと、労働者の賃金を上げてくれるのなら、労働者は金持ちを恨んだり、文句を言ったりしません。

 しかし、必然として、所得格差の是正は、貯蓄格差の是正に向かいます。

 なぜなら、所得が労働者に多く配分されるようになるということもありますが、所得格差の是正は必然としてインフレを伴う好景気をもたらすからです。

 高所得者から低所得者への所得再分配は同時にインフレを起こし、インフレは、富裕層の実質的な貯蓄の価値および実質的な債権を減少させ、低所得者や貧困層の実質的な債務を減少させます。

 反対に、富裕層は自分たちの実質的な貯蓄の価値と実質的な債権を守ろうとし、そのためにデフレを維持しようとします。

 デフレは、富裕層にとっては好景気なのです。ゆえに、デフレの継続は、富裕層の悲願でもあります。

 日本で、その富裕層の夢が今実現しています。そして、その代わりに低所得者や貧困層は食うや食わずの貧困からさらなる貧困へと転落しています。若い者は結婚も出来ず、将来に夢を持てない中学生・高校生の自殺が増えています。

 デフレを維持する手段は簡単です。労働者の賃金から消費税(付加価値税)、住民税、社会保険税を搾り取り、労働者にお金を持たせないようにすることです。

 また、建物の固定資産税で課税標準額を再建築価格にすると、地価が下がっても建物分の税額を下げずに取り続けることが出来ますから、それは、土地利用のインセンティブを下げ、地価を下げ続け、国民の担保力を奪い、間接金融を機能不全にすることが出来ます。

 間接金融は中小企業の投資のほとんど唯一の財源ですから、間接金融の機能不全は中小企業の競争力を落とし、中小企業の労働者の賃金を下げさせます。

 労働者にお金を持たせないようにするために、富裕層(投資家と債権者)の代理人である自民党政府は、消費税(付加価値税)、住民税、社会保険料(税)によって財政均衡主義を採用し、さらに、建物の固定資産税を増加させて担保力を奪い中小企業金融を停止させたのです。

 日本のデフレは、国際環境や自然環境によって起こったものではなく、経団連の代理人である自民党が幾重にも手間をかけ、経済の制度的枠組みをデフレ向きに仕上げて来た結果です。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング