④税制におけるケインズ主義と新自由主義の対立

 

 もともと、税は、歴史的に見ても、支配者が領民を搾取する主たる手段でした。労役や兵役まで税に含めれば、支配者が領民を搾取する手段を総称して税と呼んだと言うべきでしょう。

 その君主政治に対して、人民から反逆が起こり、国民主権が唱えられ、今度は国民のための税金という位置付けになったというのが、近代に生まれた近代国家の歴史です。

 そして、すべての国民を主人とする為にはいかなる税制が妥当であるかが議論されて成立したものが近代税制(ケインズの主張する税制でもある)と呼ばれるものです。

 それでも、国民国家の最初の形態はフランス革命に見られるようにブルジョワ階級が権力を握り、国家は資本主義の下準備的な役割を果たしました。

 しかし、社会主義や共産主義的な労働運動が盛んになると、資本主義に移行しつつあるにおいて、労働運動を抑えるために、様々な所得再分配政策が行われるようになりました。

 第二次世界大戦が終わるまでに、ブルジョワ階級は資本家として巨大な力を持つようになり、同時に、資本主義は労働運動とも高度な協力関係を構築して行くようになりました。

 資本家と労働者の高度な協力関係とは、労働法や社会保障制度などの導入、そして、近代税制の制定などです。

 各国とも、資本家と労働者の関係はバランスの取れた良い方向に向かうものと思っていました。

 ところが、1989年に冷戦が終結し、資本主義が社会主義勢力の圧力から解放されると、社会主義恐れるに足らずと見て取った投資家、債権者からなる資本家または富裕層が、政治家に所得再分配政策を止めさせ、労働者を搾取する手段の一つとして、再び税制を利用し始めたのです。

 とは言え、富裕層が直接その税で搾取するのではなく、管理通貨制度の下でインフレの抑制手段としての税という位置づけが明確になったときに、その負担を労働者に押し付け、労働者・低所得者・貧困層にお金を持たせないことによって、インフレを回避するという方法に出たのです。

 このことは、新古典派の経済学者たちによって、政治家に吹き込まれ、低所得者や貧困層の負担の増える住民税均等割り・消費税・固定資産税増税などによって、具体化し、実行されました。

 つまり、どのようなことがあろうとも、インフレを回避し、デフレを維持するための税制が新自由主義税制なのです。

 実際、現在の日本の税制では、極限まで労働者・低所得者・貧困層から、税金および社会保険料・国民保険料で、お金を搾り取っています。

 逆に、近代税制は低所得者に対する所得再分配型の税制であり、そのまま、ケインズの提唱する税制でもありますが、ケインズは所得再分配型の税制によって、平等の達成という理想の実現のみならず、経済成長も達成されると言っています。

 近代税制は、所得の不平等を問題としており、その解決方法を、富裕層に対する強制的な応能税による所得の回収と、労働者・低所得者・貧困層に対する所得再分配を主張しています。

 この近代税制の精神は、日本において、まだ国税の法人税、所得累進課税、相続税に残っています。

 国民が、誰からも騙されず、自らの為に守らなければならないものは、法人税、所得累進課税、相続税の3つの税金を強化する近代税制なのです。

 そして、まさに日本で行われているのはケインズ主義を破壊し、新自由主税制を完成させ、富裕層の負担すべき法人税、所得累進課税、相続税などの応能税を減少させ、そして、低所得者や貧困層に負担のかかる応益税の強化しようとしているのですす。まっちく逆なのです。

 応益税は課税が簡単なため、地方税に移管されています。だから、地方税はほとんどが応益税です。(ただし、住民税の所得割は所得を基準としていますから、応能税になります。)

 したがって、現在、ほとんどの地方税は富裕層から低所得者や貧困層への所得再分配の機能を持たず、むしろ、低所得者や貧困層から貨幣を回収する税金となっています。

 応益税とは、低所得者や貧困層から貨幣を回収するための税金に化しているのです。

 これは、どんなレベルの低い経済学者にとっても常識というべきものとなっています。

 

 なぜ、応益税が地方税に向いているかというと、利益や所得を計算して担税力を把握する必要がありませんから、地方自治体程度の能力でも簡単に課税することが出来るからです。

 ゆえに、地方自治体の能力が低いからこそ、地方税が増加することは、税金を支払う担税力を計算しない税目が増え、そのために低所得者や貧困層の負担が増えているのです。

 地方税が応益税の固まりであるがために、地方税の比重が高くなれば高くなるほど、所得再分配の機能が失われ、地方住民は貧困化して行きます。

 三位一体改革における、利益や所得を把握する能力のある中央政府から、利益や所得を把握する能力のない地方自治体へ、税収のシェアを増大する税源委譲政策は、税金から所得再分配機能を排除するために、行われました

 国民にとって、法人税、所得累進課税、相続税は所得再分配を実現し、自分達の生活を守る最後の手段ですから、国民を奴隷階級に再編し、食い物にしようとする新自由主義者にして見れば、法人税、所得累進課税、相続税こそ、最も破壊しなければならない税金なのです。

 よって、そのシェアを引き下げる口実として、地方の自立などと言い、国税を減税し、地方税を増税したのです。

 確かに、現在の国税は応能税がほとんどであるために、景気動向に対して税収弾性値が働き、景気が過熱した時は税収が増え、不況の時は、税収が減ります。

 よって、税収は不安定になります。

 しかし、これは、ビルドインスタビライザーと呼ばれ、好景気の時や不景気の時の国民の負担に配慮するためにも、景気の安定化のためにも必要な景気安定化機能なのです。

 法人税、所得累進課税、相続税こそが、国民が心をにして守らなければならない国民を幸福にする税制なのです。

 景気が過熱した時は財市場の貨幣の量を減らさなければならないので、ビルトインスタビライザーによる自然増収によって貨幣の回収量が増えるのは好都合であり、不況の時は貨幣供給量を増やさなければならないので、税収の減少による貨幣回収量が減るのが好都合です。

 したがって、景気のコントロールのためには、景気動向に対して硬直的な税体系である応益税は、むしろ、まったく無いほうが良いのです。これはすなわち、応益税は、現在、地方税に移管されていますから、地方税はまったく無いほうが良いということでもあります。

 ところが、これに対して、富裕層は、自分たちにかかる税金である法人税を下げ、所得累進課税を緩和させたいために、地方の自立などという、訳の分からない理屈を唱え、自民党に国の役割放棄せようとしています。

 そして、国税を出来るだけ減らし、地方税に移管した方が良いなどと言っています。地方税は応益税であり、応益税は安定財源になるので好都合であるなどと言っているのです。

 そして、小泉純一郎氏および竹中平蔵氏は三位一体改革で財源を国税から地方税に委譲するなどと言い、そのとき、応能税を応益税に転換し、国民にとって最も大事な近代税制に致命的な打撃を与えたのです。

 

 

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