②地価の上昇は所得再分配の役割を果たす

 

 世界中の国々の中でも、日本だけが地価を下げ続けた結果、所得再分配と逆のことが起こりました。地価の下落で国民は担保力を減少させ、民間にとって債務の拡大が困難となり、それによって投資や消費のための資金が止まったのです。

 また、政府でも民間でも、いかなる債務もインフレで返済することが「資本主義的な債務返済」の基本なのに、地価の下落によって信用創造が止まり、インフレは起こらなくなり、政府債務も民間債務も返済が困難になりました。

 民間は、自分の私有財産を融資の担保に差し出すことで、投資の資金を手に入れます。

 担保との交換で貨幣(マネーストックとなる貨幣)が金融機関から出てくるというイメージです。これは売買であろうと、単なる土地担保による借入であろうと、資産価値と交換で貨幣が市場に出てくる機能は同じです。

 そして、地方における財産のほとんどは土地ですから、地価の上昇は地方の住民の資金調達力を増大させ、逆に、地価の下落は地方の住民の資金調達力を奪います。

 いくら、土地を持っていようとも、その土地が二束三文でしか売れないのなら、大した担保とは見なされません。

 これは、土地の主たる所有者であるその地方の住民にとって由々しきことです。

 土地が創り出す景色の魅力も財産には違いありませんが、お金と交換出来るということが経済における資産の意味です。

 景気を回復させようと思うならば、民間債務の拡大が必須であり、民間債務の拡大は、担保力によって行われます。

 もし、地方に力を付けさせたいと思うならば、地方住民に担保力を取り戻させることは必須の条件です。そのためには、地方の地価を上げなければなりません。

 地価の上昇によって経済成長の分け前に与かれるのは地主だけで、貧乏人は関係ないのではないかと思われるかも知れませんが、大抵の地主は中途半端な中間層であり、消費性向は高いのです。

 また、例え、資産を持たない貧乏人であろうと、地元に活気のある中間層が増えれば、経済活動で所得を得るチャンスが回ってきます。

 雲の上の金持ちは地元の商店の品物を買ってくれませんが、近所の金持ちは地元の商店の品物を買ってくれるのです。

 また、貧乏人でも、大衆的な資産である土地の売買を繰り返すことで、中間層に成り上がるチャンスが巡って来ます。

 景気が良いときに、小銭を貯めた成功者がまず土地を買いたがるのは、まことに健全な経済活動の基本です。日本の高度成長は土地の売買の繰り返しで達成されました。

 それでは、どうすれば、地価が上がるかというと、それは明白で、地価の上昇を起こさせるには、まず、現在行われている建物固定資産税を廃止し、土地の有効利用への(理由のない不当な)負担を排除することが最も重要な条件です。

 その場合、国家が固定資産税の総収入額10兆円のうち5兆円程度の税収を放棄することが必要と考えられます。(地方自治体は、現象面は地方自治体であっても、本質面は国家の一部であり、地方税収も、国家によって宛がわれたものですから、本質面は国家がやっている国民からの通貨の回収手段の一部にすぎないので国家の税収と同義です。)

 それにより、地価は全国で、ただちに100兆円、長期的には500兆円の上昇が期待されます。

 これが、国民から取り上げた担保力を、再び、国民へ返還することになり、そのことがほとんど全ての国民に対して土地の有効性を解き放ち、すなわち所得再分配(キャピタルゲインによる所得再分配)を行うことになります。地価の上昇は紛れもない所得再分配政策なのです。

 金融緩和が効果を上げるメカニズムは信用創造のメカニズムに依存しています。

 信用創造は、金融機関が土地資産を信頼し、地価を積極的に評価することから始まります。いつの時代でも、土地は担保の王様なのです。

 地価が上がってはじめて、金融機関の融資(信用創造)が活発になります。

 その融資によってはじめて、中小企業に資本が分配され、国民全体がお金を使えるようになり、デフレは終息し、景気を回復基調に乗せることが出来るのです。

 アメリカの住宅価格の暴落で、サブプライムローンが破綻したときでも、米国政府は、住宅価格が下がることは良いことだとは言っていませんでした。米国のマスメディアも、不動産価格の上昇なくしては米国経済の回復はないと断言していました。そして、米国の政府もマスメディアも、一丸となって、地価が下落しないよう懸命に対処したのです。

 地価を上げるのは、土地担保が信用され、金融機関の融資が行われ、マネーストックが増え、最後には国民に対する所得再分配が実現することが目的です。

 日本の経済学者は知識をひけらかしたいだけですから、マスコミによって株価主導の経済学がクローズアップされると、地価のことを忘れ、株価についての議論しかしなくなりました。他人と違うことを言っても、他の経済学者から馬鹿にされるだけだと恐れているのです。

 念のために言っておきますが、アメリカの経済学者がすばらしいと言っているのではありません。しかし、少なくとも、アメリカの経済学者は、間接金融を憎む投資家の傀儡であったとしても、何をどう言われようとも地価を見捨てなかったと言っているのです。経済学者のプライドにかけて、そんな恥知らずなことはしなかったのです。

 どこの国でも、土地は、所有者が地表面や地中を農作物の耕作、建物の建設、鉱物の採掘などによって活用できる現物資産というだけでなく、市場において貸したり売ったり出来る取引資産でもあり、それゆえ、金融機関が査定する場合の国民の信用力の中心的な役割を担っています。

 稀な例として、金融機関は、成長可能性という将来値上がりが期待される株式を信用することはありますが、あくまで稀な例にすぎません。

 大概の場合、株価などというものの将来性は海のものとも山のものともつかないものです。たまに、金融機関には融資対象企業の将来性についての目利きが大事だとか言うアホな政治家がいるのですが、誰であろうと、企業の将来性についての目利きが出来る者が存在するのなら、この世に失敗する企業は無くなります。みんながその人に自分の会社の将来性を聞きに行けば良いからです。しかし、どこにもそんな人はいません。

 国民の担保力を言う場合は、間違いなく、現在持っている土地のことを言います。

 かつて、資産3分法と言われ、資産は、預金・土地・株式の3つに分けて保有すれば、景気の動向に耐えられると言われて来ました。しかし、内閣府の平成21年度国民経済計算確報内閣府経済社会総合研究所の統計によると、21暦年末日本国民の正味資産(国富)は2712.4兆円、この内、家計の総資産は2403兆円で、非金融資産950.1兆円(内、土地733.1兆円)、金融資産1453.0兆円(内、現金預金803.5兆円、株式97.5兆円、保険・年金準備金392.7兆円)となっています。資産3分法と言っても、資産保有形式としては、土地733.1兆円、現金預金803.5兆円が主で、株式97.5兆円はあまり重視されていません。日本全体でそうなので、これが地方に行くと、ますます株式保有は一般的ではありません。

 したがって、実態としては資産2分法なのです。

 現在の日本では、地価が税制によって、大規模にスポイルされていますから、それならば、現金や預金で保有すべきということになります。

 デフレ期の現在、現金と預金は最も安定した資産形式であると言われていますが、しかし、現金と預金もまた、いつかはインフレがあるので不安定なのです。長年保有し続ける場合、そのリスクが高まるために、現金と預金を土地、株式に代えておくのですが、それが資産3分法の意味です。
 しかし、地価のことを口にすることがはばかられるようになったからには、この現金と預金の価値を守り続けて行かなければなりません。

 すなわち、現金と預金のインフレに対する弱点を現実のものとさせないようにしなければなりません。

 よって、富裕層だけでなく小銭を貯めた中間層もインフレを恐れるようになったのです。

 現在の日本では、富裕層だけでなく、小銭を貯めた中小企業の経営者ですら、インフレが到来することによって現金と預金の実質価値が目減りしないかと心配しています。

 土地資産の保有が不利となり、現金と預金の重要性が高まれば、そして、少しお金が溜まり始めたら、小銭を貯めた者たちはインフレを嫌い、デフレを継続してもらいたいと願うようになります。

 この富裕層の不安によって、まず政治家とマスコミが、それに従う公務員が、そして、終には一般国民のすべてがデフレ容認へと傾斜してゆきます。

 この人間の心理は経済成長の戦略を考える上で見過ごしに出来ません。

 なぜなら、経済学の知識の無い者でも、本能的に、デフレとなる政策かインフレとなる政策かを嗅ぎ分け、デフレとなる政策の方に賛成してしまうからです。

 例えば、地方税(住民税、固定資産税)の増税や、消費税の増税、公共投資の削減などの緊縮財政政策に賛成します。

 アメリカや中国は、この日本の土地政策と経済成長の関係をつぶさに観察しており、「日本化」を恐れて経済政策を行っています。

 日本はどうかといえば、権威主義に凝り固まった政治家や経済学者の誰もが、自分自身の頭が悪いことが露呈しないかとオドオドし、あるいは、国際投資家というスポンサーが牛耳るマスコミから干されまいとして、地価の下落によって信用創造のシステムが崩壊していることを目の当たりにしながら、その話題に触れようとしません。

 資本主義国として発展しようと思うならば、私有財産制は資本主義の根幹であり、土地は私有財産の中心に位置しますから、国家が土地保有を軽視するような税制を採用すれば、たちまち私有財産制は崩れてしまいます。

 ですから、特に、所有を課税理由とする日本型およびアメリカ型資産税においては、資産の略奪にならないよう、慎重に作り上げられなければならないのです。

 EU諸国では、資産保有という財産権を尊重し、賃貸価格などの収益面に課税するなどの配慮をしているのですが、日本のような保有に対する課税であれば、それが重税化した場合は、資産の価値そのものを損ない、結果的に、私有財産制にダメージを与えます。

 しかし、日本の経済学者の誰一人としてこの話題に触れようとしないので、その体たらくは、おそらく世界中の経済学者たちから、嘲笑されているものと思われます。

 日本では、あらゆる新聞紙面で、地価が下がれば不動産が安く買え、投資が活発になるということが言い立てられ、ほとんどの経済学者もこれに同調しています。

 事実においては、地価は下がりましたが、投資は活発になっていません。理由は簡単です。誰も価値が下がり続けるような資産を買いたいとは思わないからです。

 また、銀行も価値が下がり続けている土地を担保として融資しませんから、中小企業は投資の資金を調達出来ません。

 かつて、米国政府は、日本国内に米国企業が進出できないのは日本の高地価と言って、日米構造協議で日本の地価を下落させることを要請しました。しかし、地価が下落した現在、日本の国内に外資は少なくなり、こんどは、その理由を日本の法人税の高さや人件費の高さと言っています。

 つまり、アメリカの要望」は際限がなく、つまるところ、日本経済の弱体化そのものなのです。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング