④国債および当座預金付利子制度による間接金融の妨害
本来、金融緩和とは、デフレ不況期に中小企業融資をサボっている金融機関から無理やり利子の付く国債を買い上げ、利子の付かない現金に戻してやり、嫌が応にも中小企業金融に精を出さざるを得なくさせようとする政策です。
そのとき、金融機関が中小企業に融資出来なければ利子収入を失い、経営が悪化しますから、金融機関は経営を悪化させまいとして、必死に中小企業融資をしようとします。
だから、金融緩和とは、政府が金融機関から国債による利子収入を奪って経営を悪化させる政策であると言うことが出来ます。
金融機関としては、景気の良いときは、市場に良い投資先や融資先があり、その方面に資金を回した方が儲かるので、国債を安く売ってでもその資金を調達し、中小企業や国民に融資します。
逆に、デフレ不況のときなど、市場に良い投資先や融資先がないときは、国債が高くて儲けが少なくても、国債を買いたがります。
国債を安く買えれば(それは長期金利が高いと言うことですが)、満期の買い上げのときの利幅が大きくなり儲かります。国債を高く買えば(それは長期金利が低いということですが)、満期の買い上げのときの利幅が小さくなり、あまり儲かりません。
そこで、日銀は、デフレ不況のときには、無理にでも中小企業や国民に融資させようとして、金融緩和を行い、利子の付く国債を取り上げ、あるいは、国債では儲からないように長期金利を下げるのです。
金融機関も、その金融緩和政策によって景気が回復し、融資のリスクは低くなるだろうと予想しますが、そのためにはどこかの金融機関が先陣を切らなければなりません。金融機関にとって先陣を切るというところが少し冒険になります。
そこで、政府は金融機関を奮い立たせるために、金融緩和と同時に積極的な財政政策を行い、景気回復を継続させるという固い決意を示さなければならないのです。
ところが、今の日本では、金融緩和をやりながら、積極的な財政政策どころか、まったく逆の財政緊縮による政府財政の健全化を言い出す始末で、さらに、その上に、政府が地価下落政策で担保力を破壊し、BIS規制を金融検査マニュアルで金融機関の信用創造の活動さえ妨害している有様です。
自民党政府は精神分裂症でも患っているかのようです。
このような、政府の本心がどこにあるのか解らない状態で金融緩和を行われたのでは、金融機関はまったく融資することが出来ません。
今の日本政府は景気回復のために、金融機関の融資を活発にさせる政策をやっているというポーズを取りたいだけで、本気で、金融機関の融資を活発にさせようとは思っていません。異次元の金融緩和とかいうスローガンは政府(日銀)の品性下劣な猿芝居のようなものです。
そのことは金融機関も良く判っていて、政府の猿芝居に付き合う代わりに、何らかの見返りを求めて来ます。
だから、政府は、金融機関から不満が出ないように様々なサービスをしているのです。
つまり、証券市場への参入が許可されたことや、利子収入には消費税をかけないこと、そしてもう一つ金融機関が日銀当座預金に預金している超過準備預金に対して利子をつけてやっていることなどがその工作です。
超過準備預金は、金融機関が中小企業や国民への融資をサボった結果出来るものなのですが、これに利子を支払ってやるとは、中小企業や国民への融資をしないことを褒めてやって、奨励しているようなものです。
金融機関が日銀に持っている当座預金は、2008年10月までは無利子でした。無利子が常識です。
ところが、2008年10月、麻生政権によって、超過準備預金に対して日銀が0.1%の利子を付けてやる補完預金制度が導入されたのです。正に品性下劣と言うべきでしょう。
補完預金制度(当座預金付利子制度または超過準備預金付利子制度)は、金融緩和による金融機関の損失を補償してやるという意味であり、金融緩和の効果を相殺するものです。
補完預金制度というと何のことか良く分かりませんから、ここでは、俗に言われている当座預金付利子制度または超過準備預金付利子制度という呼称を使います。
当座預金付利子制度の理由付けは、金融機関同志で1日限りの融資をし合うコール市場における無担保コール翌日物の金利(コール市場の金利)の下限を設定するためであるとも言われていますが、これはウソです。
日銀が金融機関に融資するときの利率の「基準割引率および基準貸付利率」(以下、便宜上、「日銀貸出金利」と呼びます。)は、2001年以降はだいたい0.5%以下で推移していましたが、コール市場の金利がこの0.5%以上だと、金融機関は他の金融機関から借りずに日銀から借ります。
よって、コール市場の金利は必然として「日銀貸出金利」以下となります。
しかし、コール市場の金利が余りに低くなると、金融機関(主に信託銀行)が他の金融機関(主に都市銀行)に融資する意欲が削がれる恐れがあるため、コール市場を活発にし、金融機関同士の金融取引を安定させるためにも、コール市場の金利が0.1%を下回らないよう下限を設けるというのが、2008年に導入された超過準備預金付利子制度の理由付けです。
つまり、コール市場の金利が当座利子率の0.1%を超えないと、金融機関は当座に置いたままのほうが利益になるため、他の金融機関に融資しないので、コール市場の金利は必然的に0.1%以上に誘導されるというわけです。
こんな無茶苦茶な理由付けが通るはずはありませんが、日本の経済学者の誰も文句を言いませんでした。
コール市場の金利が0.1%を下回るということは、それでも貸す銀行があるということで、市場原理としてはそれで良いはずです。0.1%を下回って融資すると言っているのに、融資する意欲が削がれるというのは矛盾ではないでしょうか。
その前に、たとえ、金融機関(主に信託銀行)が他の金融機関(主に都市銀行)に融資しなくても、日銀が貸せば良いわけで、何の理由があって、金融緩和の効果を相殺してまで、コール市場を活発にしなければならないのかサッパリ判りません。
日銀が貸せば良いと言えば、ああ言えばこう言うというパターンで、金融市場の運営を民間の手に委ねるためだとか言うのでしょうが、その場合でも、なぜ、民間の手に委ねなければならないのか判りません。
矛盾だらけの理屈です。最後には、連中は「うるさいことを言うな」とか言うのでしょう。
超過準備預金付利子制度が続けられている本当の理由は、これによって、金融機関に対して、地価の下落によって困難となっている中小企業金融に手を出さなくても、日銀が金融機関の収益の安定を確保してやるという、政府(日銀を含む)と金融機関のズブズブのなれ合い関係で、金融機関に新しい利子収入をプレゼントするためです。
これは、すなわち、間接金融を機能停止させるための、政府と金融機関の同盟です。
この制度は、所得再分配派の仮面をかぶっているが、実際は筋金入りの新自由主義者である麻生内閣の2008年11月から始まりました。
麻生内閣は、公共投資の拡大などの所得再分配政策を行うとウソを言いながら、それはやらずに、裏でこっそり金融機関を中小企業金融から切り離す工作をやっていたのです。
麻生太郎は完全なペテンです。安倍政権と麻生政権に共通する性格はどちらも厚顔のペテン師であるということです。
このことは、2009年以降、日本の超過準備預金が激増していることと関連しています。
国民が金融機関に持っている当座預金の金利は0%、普通預金の金利は0.01%、定期預金ですら、0.02%とかですから、この当座預金の金利の0.1%が、どれほど格別な優遇か判るでしょう。
それでも、金融機関は満足することは無く、しばらく、日銀の保護の下でヌクヌクとしながらも、金融緩和政策が終わると、さっさと、リスクがなく、より大きな利益の出る金利0.6%の国債を再び買い込みます。
つまり、どうなろうとも、金融緩和によって金融機関に提供された資金が、中小企業融資に向かわないように工作されているのです。
当然、超過準備預金付利子制度はやりすぎのサービスであり、中小企業金融を活発にするために、ただちに廃止すべきです。
ようやく、日銀は2016年1月29日のマイナス金利導入を発表しましたが、当座預金の付利が多くの金融機関の大きな収益源であることから、在来の準備預金額についてはそのまま0.1%の付利子は確保してやり、従来からの所要準備預金額に相当する額や、定期的に見直す一定額(マクロ加算残高、現残高30兆円)などに対してはゼロ金利を、これら以外で、今後増える当座預金については0.1%のマイナス金利を適用するというものです。
しかし、量的緩和については、その効果が限界に来ており、「今後増える当座預金」は、実は、今後は増えないという見方もあります。
「今後増える当座預金」が、実際は、今後は増えないのであれば、まぼろしのマイナス金利となります。こんな政策はイカサマです。よくよく、自民党政府はウソつきと言うべきでしょう。
金融機関に本当に圧力をかけるつもりがあるのなら、「今後増える当座預金」をマイナス金利とするなどという猿芝居のような話よりも、すべての超過準備預金に対する0.1%の付利子をただちに止めるべきなのです。