状況分析と労働組合の進むべき道

 

 経営者と労働者の利害は総論で一致していますが、各論では対立しています。

 つまり、経営者は、労働者に働いてもらわなければならないし、労働者も働きたいので、そこは一致していますが、経営者にとっては、好きなときに解雇出来たほうが良いし、安い給料で長時間労働をさせたほうが儲かります。そこでは経営者と労働者は利害が対立します。

 中小企業の経営者といえども大企業と同じです。大企業と同じように労働者を自由に解雇したいと思っているし、賃金を下げたいと思っています。

 そして、雇用と職務内容の決定権を持つ経営者のほうが圧倒的に優位にありますから、法律その他の規則によってその優位性を規制しなければ、経営者は好き放題にします。

 好景気なときはその欲求は薄れますが、景気が悪くなると、まず、労働者にそのしわ寄せを解雇や賃金カットで押し付けようとします。

 つまり、労働者は、現場においては、ラスボスの投資家や債権者と対立しているのではなく、同じ生産者階級の中小企業経営者と対立しているのです。

 ほとんどの経営者が、雇用への投資がマクロ経済で見れば経営者自身の利益になって帰って来るというメカニズムを理解している場合でも、自分だけはそういう賃金の分配の努力から免れたいという人間の身勝手さを持ち、労働者の敵になります。

 だから、マクロ経済のメカニズムを理解していようとしていまいと、経営者にマクロ経済を意識した行動を期待することは無理です。

 そこで、労働組合という仕組みが必要になって来ます。

 労働者の権利を守る手段は、労働組合による経営者との団体交渉ですが、今のところ、労働組合は、冷戦終結によって後ろ盾を失いましたから、「革命を起こし共産主義を実現する」という戦略を放棄せざるを得なくなり、そのことによって、政権与党の自民党が労働組合に気を使わなくなり、労働組合の力は弱まっています。

 いまや、自民党政府の強固な意思をもって、労働組合は解雇の自由化、派遣労働の拡大などの雇用形態の規制緩和の圧力によって窮地に立たされ、連合などのように、経営側との取引で自分の組合員を守るのがやっとの状態であり、日本全体の労働者と連帯することなど、もう望んでいません。

 ここでもまた、与党であれ、野党であれ、労働者を守るはずの政治家の後押しが弱くなっていることの悲哀を感じなければなりません。

 やはり、どうしても、政治家に雇用政策においては労働者の待遇を良くし、税制においては税金や社会保険料の負担を軽くする所得再分配政策のための行動を起こしてもらわなければならないのです。

 この労働組合の政治的な弱体化が日本国民の広範囲に格差と貧困が拡大している原因です。

 労働者は経営者に対して、労働三法の厳格な適用を行わせ、正規労働から派遣労働への転換を止めさせ、一連の経営者の身勝手な行為に対して打ち勝たなければならないのですが、そのための闘いとは、「雇用に関する立法運動」や「社会運動」を含む複雑な戦いであり、自らの経営者とケンカさえすれば解決できるような単純なものではありません。

 労働組合は、労働者の権利を守るための立法を実現させる運動主体としても、権利を行使する運動主体としても、唯一その役割を担う機関です。

 したがって、労働組合はこれからも現体制に対する異議申し立て機能として、または、その戦いのための知識やノウハウの集積の場として、最も大きな、そして、中心的な役割を果たさなければなりません

 来るべき労働組合運動において、その知識やノウハウの中核を成すものがケインズ経済学です。

 なぜなら、労働者や労働組合が強い立場を持つためには、完全雇用が達成されていなければならないからであり、そして、それを主張する者はケインズ主義者しかいないからです。

 ここでいう完全雇用とは統計的に100%の雇用率の達成を言っているのではなく、100%の雇用率に匹敵する人手不足状態のことを言います。すなわち、安い賃金で働く者がいない状態ではなく、高い賃金でも働く者がいない状態です。

 労働組合、完全雇用を達成するために、経済政策の全てに意見を持つことが必要です。労働組合の政治目標は完全雇用の達成以外にありませんなぜなら、完全雇用状態になって初めて労働者は要求を一人前に口にすることが出来るからです。

 そして、また、ケインズ経済学による限界消費性向を上げる政策でしか、真の(新古典派のインチキな完全雇用状態では無いところの)完全雇用の達成は出来ません。

 労働組合側にも反省すべき点はあります。中国の戦略に乗って、尖閣諸島防衛のための国防力強化を帝国主義と結びつけ、訳の分からない基地反対運動を繰り返して来たのは事実であり、こうした国益を無視した運動が、国民の中に不信感を生じさせたことも事実です。

 労働組合は労働者の地位向上のための「雇用に関する立法運動」や「社会運動」と、その敵となる者たちとの闘いだけをやっていれば良かったのに、帝国主義打倒とか、プロレタリアート一党独裁とか、世界の武装集団との連携とか、余計な運動を拡大したために、労働組合自身が国民の支持を失い、自ら墓穴を掘ってしまったのです。

 安倍政権によるTPP参入、企業競争力強化、雇用形態に関する規制緩和、消費税増税の方が、安保法制より完全な労働者への敵対行為なのに、そのこととは戦わなくて、いまどきの労働組合は一体何と戦っているのでしようか。労働組合のこうした体たらくには腹が立ちます。

 領土囲い込み型帝国主義は大体もう終わりました。国際金融資本は、領土を囲い込むのではなく、グローバリズムという名において国境を無くそうとしているのです

 ゆえに、今は、国境を超えた自由貿易(TPPなど)、国内市場の大企業による独占や寡占をもたらす規制緩和(国家戦略特区など)、担税力と不整合な課税(消費税・固定資産税・社会保険料)などが実施された新しい状況下における新しい敵、すなわち、自民党の諸々の国民貧困化政策と闘う時です。

 労働者が対立すべきは、グローバリズムという名の下の株価至上主義であり、つまり輸出企業の価格競争力を目的とする労働者の賃金の引き下げ、デフレ維持のための財政均衡主義であり、そして、公共投資などによる雇用政策を止めて、完全雇用を達成させようとしない政治家です。

 ところが、現在の労働組合は、階級対立の分析において、絶対的搾取階級のブルジョアジーVS絶対的被搾取階級のプロレタリアートなどというマンガのようなマルクス主義史観から抜け出すことが出来ず、いまだに左翼平和主義史観で、日本軍国主義との闘いなどという見当違いな方向に走っているので、国民に愛想をつかされており、馬鹿にされているのです。

 それどころか、現在の労働組合は、ほとんどどうしようもないほどの反日的な勢力であり、帝国主義論争に上乗せして、南京事件や従軍慰安婦といった濡れ衣を日本人に着せ、日本国民の誇りを奪おうとさえしています。

 さらに、これに加えて、日本国民に宗教的敬虔さを持てと言い、日本だけに非武装中立主義を要求し、中国の侵略を背後から支援しようとしています。

 これでは、一般的な日本の国民は恐ろしくて、労働組合を支持することは出来ません。現在の日本の労働組合は、自分から国民の支持を排除しているのです。

 そして、そのどうにもならないところへ、新自由主義や新古典派経済学が、マスコミなどの企業競争力強化とか自己責任とかいうプロパガンダによって、自由自在に日本の労働運動を解体しています。

 いまや、労働組合自身が、自民党および経団連などの国際金融資本と結託し、日本の国家解体の片棒を担いでいます。

 労働組合は、本当に政府や企業に所得再分配を行わせたいならば、新自由主義の自民党と闘うと同時に、自民党と異口同音に財政均衡しか言っていない共産党や民主党とも闘わなければならないです。

 現在の日本では、共産党も含めて、あらゆる左翼政党もまた自民党と同様に国際競争力至上主義、株価至上主義、新自由主義、自由貿易主義、そして、財政均衡主義なので、財政均衡主義を敵だと言えば支持政党が無くなるのは判り切っています。

 しかし、それこそが、財政均衡主義に反対する理由でもあります。

 財政均衡主義は国民貧困化のための主たる手段でありゆえに、財政均衡主義を打倒して、通貨を自由に発行できるようにし(現在の財政法や日銀法においては財政赤字を拡大して)、税制や社会保険法などの制度的枠組みを改革し、低所得者および貧困層に、法的で永続的な制度を以って、減税や賃金による所得再分配を実行しなければなりません。

 それが正しい財政政策なのですから、必ずそうしなければなりません。適当なところで手を打っていたら、労働者はいつまで経っても貧困から抜け出せません。

 少なくとも当面は労働組合には一定の支持政党が無く、選挙の都度決めるようにした方が良いものと思われます。

 なぜなら、特定の支持政党を持たない方が、政治家の労働者を説得しようとする動機が高まるからです。そういう意味では、労働組合の政治的立場は浮草であることを組合員にも政治家にも周知させるべきです。

 そうしてこそ、真に、労働組合と協調し、完全雇用を達成しようとする政治家を探し出すことが出来るし、労働組合は政治の現場で存在感を示すことが出来るようになるはずです。

 

 

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