①乗数効果と事業効果は違う

 

 公共投資の経済的な効果には2つあって、一つが、第一波的なもので、政府支出がGDPの増大に貢献する「乗数効果」であり、もう一つがその後に起こる第二波的なもので、獲得したインフラがその利便性によって社会に貢献する「事業効果」です。

 乗数効果は、お金が循環していれば景気は良くなるわけで、施設の社会的貢献度とは関係はありません。いわゆる穴を掘って埋める事業でも良いわけです。

 乗数効果は、公共投資だけでなく、その他の政府投資、減税、企業投資、個人消費などあらゆるものに存在します。国防のための軍事産業への政府支出にも存在します。

 国産で軍備を増強すれば、たとえ、兵器が使われず老朽化し、いずれ廃棄されても乗数効果によって景気は良くなります。

 これに対して、事業効果はそのインフラによって国民の生存確率を高め、生活や生産の向上に寄与することを言います。

 「ムダな公共投資」とは、事業効果に関する評価のことで、箱物、通行量の少ない道路など、お金をかけた割には、その目的とされた社会的貢献度が低く、つまり国民の人気が低かったものを言います。

 公共投資を行うと経済成長するという話をしているときに、公共投資によって建設される道路や橋などのインフラが日本経済の発展の基礎になったとか、ムダな公共投資だから経済成長に寄与しなかったとかの意見がときどき出るのですが、これは事業効果の話をしているのであって、乗数効果の話ではありません。

 もちろん、乗数効果と事業効果は無関係とはいえ、いやしくも公共投資なのですから、国民の利益にかなうものであるべきです。

 つまり、せっかく公共工事をやるのですから、国民生活の充実や経済の発展の基礎になるほどの事業効果の高いインフラ建設を選択する方が懸命です。その上に、災害大国の日本では、公共投資には防災のための「国土強靭化」という課題があります。

 「国土強靭化」は、国民の生命と財産を守る安全保障の一つであり、「国防」と並び、経済成長にも優先すべき大きな課題です。

 公共投資の事業効果は、「国土強靭化」というテーマが付け加えられることにより、優先順位は乗数効果より上位となります。たとえ、経済成長出来なくても、国民の生命を守るための「国土の強靭化」は行わなければならないからです。

 だから、事業効果の検討は、乗数効果の検討に優先して行われるべきものです。

 「穴を掘って埋める」という理論は、事業効果重視の理論を覆すものではなく、もし、不況期においても、日本中を探しても事業効果が期待される事業がないというタワゴトを言うヤカラがいた場合でも、つまり、公共投資はどれも無駄だと言うヤカラがいたとしても、公共投資には必ず乗数効果が存在するので、たとえ穴を掘って埋めるだけのバカげた公共事業であろうと、やらないよりマシであると、反論するためのものです。

 しかし、穴を掘って埋めるだけの公共投資を持ち出すまでもなく、日本には、早急にやらなければならない公共投資が山積みにされています。

 東日本大震災で露呈したことは、構造改革以来、公共投資を削り続けて来た結果、日本が災害にひとたまりも無い脆弱な国土になってしまったことです。

 東日本大震災による津波で福島第一原発が破壊されたのは、津波に対する防災工事が行われていなかったからです。

 福島第一原発は海抜10mの高さにあり、そこに高さ13.1mの津波が襲い、3.1mの差で炉心溶融が起こりました。

 日本では1993年に北海道でも地震が起きており、そのときの津波の高さは15.6mだったという記録もあるのですから、13.1mの高さの津波は想定出来たはずです。

 しかし、原発が民営で行われたために、営利至上主義の東京電力は防災工事にお金をかけずに、安い費用で仕上げることが優先され、今回の事故が起こったのです。

 政治家もマスコミも、バカのように、責任は東京電力にあると言うばかりですが、民間企業は100年に1回あるかどうか分からない危機に備えたりはしません。その備えは政府の役割だったのです。

 そもそも、電力供給などのライフラインは国家が経営すべき事業であり、民営化は間違いです。

 これは、自民党やマスコミが鐘や太鼓を叩いて大事な公営事業を民間に売り飛ばして来た報いです。

 何が何でもグローバリズムを目指す自民党とマスコミは、国家を強大にする公共投資を目の仇にしており、公共投資の不足という原因を絶対に認めませんから、炉心溶融は公共投資の不足から起こったと言わずに、ひたすら対処の失敗をあげつらうだけでお茶を濁しました。

 防災工事にお金をかけていれば今回の事故は防げたはずなのですが、それを言うと、政府もマスコミも公共事業を認めなければならなくなるばかりか、原発などの重要施設の民営化も間違いではなかったかという疑問が起こることになります。

 そして、これは、アメリカや日本の国際投資家および経団連というグローバリスト(自由貿易至上主義者)による新自由主義政策と、これらのカイライの自民党政府による財政均衡路線および公共事業の民営化路線に反対することになるため、卑怯なことに、政治家もマスコミも、何も言わないのです。

 新自由主義では、財政均衡主義、公共事業の民営化といった構造改革によって経済成長を果たし、経済成長した後に「国土強靭化」を行うべきで、財政危機の現在行うべきではないというタワゴトが一般的です。

 しかし、これは新自由主義者の経済学的詐欺の一つにすぎません。財政均衡主義を続けていては決して経済成長することはないからです。

 経済成長した後に、「国土強靭化」を行うというのでは、因果関係の逆立ちです。

 公共投資によって始めて乗数効果が生まれ、乗数効果によって始めて経済成長します。逆に、経済成長が順調に進んでいて、適度なインフレ状態のときに、「国土強靭化」のためとはいえ公共投資を増やせば、むしろ、景気が過熱し、インフレがひどくなります。このとき、血肉を削るが如き思いで、公共投資を削らなければならないかも知れません。

 現在のように財政が悪いときは、景気が悪くて税収が減っているときですから、現在は公共投資を増やす最大のチャンスなのです。景気が良くなれば、むしろ今度は、公共投資を縮小しなければならなくなります。

 財政が良くならなければ公共投資が出来ないという者の理屈に、「財政支出を行っても、経済成長させる乗数効果が無く、税収は増えない」というものがあります。

 これに反論するためにはいろいろな段階の議論が必要です。「財政支出をしても経済成長しないのか」、「税収は増えないのか」、そもそも、「税収が増えることが必要なのか」といったことです。

 「財政支出をしても経済成長しないのか」ということについては、乗数効果で経済成長することはここで述べている通りです。

 「税収は増えないのか」ということについては、公共投資によって経済成長した場合、税収弾性値によって、経済成長率以上の割合で税収が増えます。

 「税収が増えることが必要なのか」ということについては、これまでも言って来たとおり、物価にどのような影響を与えるかだけが問題であり、税収が増えるかどうかは、どうでも良いことです。

 いわゆる財政の悪化とは、貨幣発行量の増大の財政的表現であり、インフレバイアスのことですから、デフレ期にはむしろ好ましいものです。デフレのときは積極的に財政を悪化させるべきなのです。

 世界の国々は、どこの国でも、いつの時代でも、事業効果だけではなく、同時に乗数効果によっても経済を発展させて来たし、そのことを理解しています。日本政府だけはそのことに背を向け、内閣府マクロ計量モデルなどを作り出し、公共投資に乗数効果はほとんどないとか言い、未だに、その路線は変えていません。

 軍事費にも公共投資と全く同じ乗数効果があります。日本は国防費にお金を使わなかったので、民間経済に力を入れることが出来たなどというタワゴトを流布する者がいますが、これは完全な間違いです。

 アメリカは毎年膨大な軍事費を支出していますが、世界一の経済成長を遂げています。

 軍需産業の裾野は広く、日本では、大砲の砲弾の関連工場だけでも6000社存在すると言われています。

 この裾野の広さは、事業効果として、先進的な科学技術分野を育てます。

 また、乗数効果としては、大砲の砲弾は国民の日常生活には関係ありませんが、大規模な所得再分配が起こり、大きな乗数効果を発生させます。

 日本においては、わずかな労働者で生活必需品の大量生産が可能になっていますから、軍需産業による所得再分配は、大量生産された生活必需品の分配をもたらし、労働者を豊かにし、豊かになった労働者の消費力に刺激されて、さらに生活必需品の生産力をフル稼働させ、将来に向かって経済成長を引き出すことが出来ます。

 日本には、外国の侵略から国土および国民を防衛するという「国防」の問題があり、さらに、日常において国内の国民生活を地震、洪水、火災から守るという「国土強靭化」の問題があります。そのためには、あらゆる国防力と防災設備とインフラを準備しておかなければなりません。

 その準備のための「国防」と「国土強靭化」への投資は、国民の負担になることはなく、むしろ、経済を成長させます。

 ただし、たとえ、経済を成長させなくても、「国防」と「国土強靭化」は国家の最優先事項であり、どのような財政的苦難があっても行わなければなりません。「国防」と「国土強靭化」は国家の優先順位の最上位にあります。

 

 

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