⑦マンデル・フレミング理論の間違い

 

 マンデル・フレミング現象とは、政府が積極的な財政政策を行うと、IS‐LM分析に従ってGDPが増え、金利が上がるので、そのため国際交易において、高い利回りを求めて外国資本の流入が起こり、その際円買いが行われることによって円高にな、その結果貿易赤字になり、経済成長にブレーキがかかり、結局は、財政政策は無効になるという理論です。

 これもごく簡単に、その矛盾を指摘すれば、景気が良くなっているときは大概インフレになり、インフレになれば国際競争力が落ちるので、その分、貿易黒字が減るというのが一般的な話ですが、財政政策で景気が良くなっているのなら、財政政策で景気が良くなることが証明されているということなので、もはや、貿易黒字に頼る必要はないということですから、円高になって、貿易赤字になっても構わないはずです。

 貿易赤字が経済成長の足をひっぱるというのは、輸出企業(大抵は大企業)の言い分で、財政政策で経済成長すれば良いはずです。このブログで繰り返し言っているように、財政政策で経済成長した方が国民は豊かになり、幸福になります。

 貿易黒字が減り、または、赤字になったからと言って景気が悪くなるという発想は、政府が何もしないという前提を置いているからです。政府に財政政策をやる気があれば、特に先進国においては、多少貿易赤字の方が、インフレを心配せずに、財政政策による通貨発行が比較的自由に出来て、低所得者や貧困層などの国民に所得再分配政策が出来るので、むしろ経済は成長するのです。

 アメリカやEUがその典型です。

 大体これでマンデル・フレミング理論は否定されました。

 マンデル・フレミング理論は、要するに、財政政策を行えば、輸出会社が被害者になり、経済成長しないという理論です。なぜ、輸出会社が被害を受ければ、経済成長しないなどと言えるのでしょうか。

 マンデル・フレミング理論を主張する者たちは、輸出会社が被害を受ければ、経済成長しないと言っていますが、その魂胆は、マンデル・フレミング理論は新古典派経済学の理論ですが、新古典派経済学は富裕層、投資家、大企業のための理論であり、輸出が増加すると、大企業が儲かり、輸出が減少すると、大企業が損をするからです。

 内需拡大では中小企業儲かりますが、大企業とその株主は儲からないのです

 特に、内需拡大のための財政政策では、雇用拡大政策が行われますから、中小企業、中間層、労働者、失業者が儲かりますが、これに対して、富裕層、投資家、大企業は、儲けが少なくなるので嫌がります。

 マンデル・フレミング現象のときに起こる外国資本の流入とは、例えば、資本収支において、外国人が金融機関でドルを円に両替し、円建ての資産を買い取ることで、日本国内のマネーストックが増加することを指します。

 これは、日本人が何らかの資産を銀行に持ち込んで、それを担保に融資を受けるときに、日本国内のマネーストックが増加することと同じです。つまり、信用創造によってのマネーストックが増加することと同じです。

 ただし、外貨は買取りになりますから融資ではありませんが、マネーストックの動きは同じです。

 国内のマネーストックが増えるのは、財政政策でも、経常収支黒字でも、資本収支黒字でも同じなのに、なぜ、富裕層、投資家、大企業財政政策を憎むのかというと、経常収支黒字と資本収支黒字では富裕層、投資家、大企業が儲かり、財政政策は雇用政策ですから、低所得者貧困層中小企業が儲かるだけだからです。

 マンデル・フレミング理論は、IS‐LM‐BPモデルとも呼ばれます。IS‐LM‐BPモデルはIS‐LMモデルにBP曲線を重ね合わせたものです。

 BP曲線は、一つの国において、経常収支または資本収支といった国際収支が均衡となるような利子率(国際利子率と国内利子率が一致するとき)が存在するであろうという仮定で考え出された曲線です。

 このBP曲線も、GDPと金利の関係を表すものですが、横軸のGDPが自国のGDPを表すのに対して、縦軸の金利の表すものは、国際収支が均衡となるような利子率す。

 シミュレーションとして、国債を発行して支出する財政政策でマネーストックを増やした場合は、つまり、IS曲線を右に動かした場合は、GDPが増えますが、IS曲線とLM曲線の交点はBP曲線より上になります。

 つまり、BP曲線より金利が上がるので、そのため国際交易において、高い利回りを求めて外国資本の流入が起こり、その際円買いが行われることによって円高になるので、その結果貿易赤字になり、GDPが減り、IS曲線は左に戻ります。

 つまり、財政政策によって一旦経済成長させたのに、貿易赤字によって財政政策で成長した分は消し飛ぶと言うのです。

 だから、財政政策は無効ということになります。

 ホントでしょうか。

 そもそも、少し貿易赤字が出ているくらいの方が、インフレを心配せずに内需拡大政策が出来るので都合が良いのに、なぜ、貿易赤字にも関わらず、財政政策をサボタージュすることが前提になるのでしょうか

 貿易黒字は金持ちの利益、内需拡大は貧乏人の利益です。

 自民党やマスコミがマンデル・フレミング理論によって貿易黒字の味方ばかりするのは、マンデル・フレミング理論が自民党やマスコミのスポンサーである富裕層、投資家、大企業の理論だからです。

 逆に、日本国内の金利を金融政策で外国より低く誘導した場合は、つまりLM曲線を下に動かした場合は、IS曲線とLM曲線の交点はBP曲線より下になります。つまり、金利がBP曲線より下になり、こんどは円安になり、輸出は好調になります。

 すると、IS曲線は右に動き、IS曲線とLM曲線の交点がBP曲線と一致するところまで続きます。つまり、それは日本国内の金利が外国と等しくなるまで、貿易黒字によって経済成長(GDPの増大)が続くということです。

 だから、金融政策は有効ということになります。

 要するに、貿易収支がすべてを決すると言いたいだけなのです。

 しかし、貿易黒字は金持ちの利益、内需拡大は貧乏人の利益ですから、それが国民の幸福をもたらすかどうかは疑問です。

 だから、マンデル・フレミング理論にはお決まりの批判がくっついています。

 すなわち、以上のように、BP曲線が国際市場または国際環境で決まると説明されているからには、国際市場または国際環境に影響を及ぼすほどの大国である場合、大国の金融政策によってBP曲線そのものが変動しますから、大国ではBP曲線の想定は無意味になります。

 だから、マンデル・フレミングモデルは小国にしか通用しないと説明されています。

 したがって、「日本は小国ではないからマンデル・フレミングモデルは起こらない」という主張は、マンデル・フレミングモデルの日本への適用に対する反論としては便利ですから、大いに活用しましよう。

 しかし、ここで言いたいことはそのことではありません。

 ここで言いたいことは、そもそも、GDPと金利が関数の関係にあるとするIS‐LM分析そのものが間違いであるということ、そして、国際収支を均衡させるBP曲線なるものが存在するという想定も間違いであるという、間違いの上に間違いを重ねる二つの間違いを犯していることです。

 日本が財政政策を行い、景気が過熱した場合に限り、政府は金利を上げようとしますが、景気が過熱しない場合(物価上昇率が名目賃金上昇率より高くならない場合)、なかなか政策金利を上げようとしません。つまり、政府が財政政策を行ってから、景気過熱に至るまでは短くて数年、長くて数十年かかりますから、その間、国民は好景気を謳歌出来ます。ただし、その間、大企業(輸出企業は儲かりませんから、おとなしくしていなければなりません。

 大企業はそれが嫌だから、マンデル・フレミングモデルなどを経済学者や政治家に言わせて騒がせているのです。

 日本が少々金利を上げたところでどこの国も日本より金利が安くなるかと言うとそういうわけではありません。つまり、BP曲線のような「恐ろしい得体のしれない圧力」が目の前にあるというのは空想です。

 また、日本の金利が外国より上がるという前に、外国の方があえて日本より金利を下げることも出来ます。例えば、外国人が日本国内に参入しようとするときは、自国の金利が安い方が自国通貨キャリートレードで日本国内に容易に投資出来るようになります。これは中国が今やっていることです。

 そして、また、日本に投資しようとして円買いをするので円高になるというのは、為替市場で起こるたった1日の出来事にすぎないでしょう。

 経常収支の黒字であろうと、資本収支黒字であろうと、外貨が国内に流入するときは必ずマネーストックの増加が起こりますから、趨勢として必ず円安になります。

 それにも関わらず、マンデル・フレミング界隈の人たちは、円高が続くと言うのですが、それは、外国人によって円買いが行われるときに、日本の金融機関が強気になり、アメリカの投資家に対して高い円レートを要求するからです。しかし、必ず中長期的には、マネーストックが増加しているのですから円安になります。

 もちろん、実際には、超短期的にれば、「マネーストックの増加による円安」と「日本の金融機関の強気による円高」のどちらが強いのかは、そのときにならなければ判りません。

 外国資本の流入で、円買いばかりをクローズアップし、必ず円高をもたらすという単純な断定は、明らかに、マンデル・フレミング理論を強調したいための印象操作です。

 もちろん、筆者の趣旨としては、後述の「貿易とは何か」で言及しているとおり、少々貿易赤字になるくらいにしておいて、マンデル・フレミング理論が忌み嫌っている財政政策でインフレ・円安になった方が国民のためになると思っています。

 なぜなら、財政政策でインフレ・円安になるときは、雇用政策となるので、必ず、低所得者減税による純所得の上昇や名目賃金の上昇が起こっているからです。低所得者減税による純所得の上昇や名目賃金の上昇が起っていなければ、インフレ・円安になりません。

 この場合のインフレは、スタグフレーションではなく、デマンドプルインフレであり、すなわち、名目賃金の上昇を伴う良いインフレになります。

 経常収支が赤字なら、とりあえずインフレの心配をしなくても、低所得者減税、社会保険料の減額、公共投資の拡大による雇用の拡大など、低所得者や貧困層を救うための財政政策を拡大することが出来ます。

 だから、無理にでも貿易は赤字にした方が良いのです。

 もし、逆に、アメリカのように、財政赤字が国内に慢性的なインフレを創り出し、国際交易において慢性的な経常赤字を創り出しているのなら、それは財政政策が役に立たないのではなく、立派に、慢性的な経常収支の赤字という理想的な状況を創り出す政策を行っているからです

 すなわち、これは強調しておきますが、先進国の経常収支の赤字については、普通の先進国ならば、政府が所得再分配政策に着手しますから、アメリカを見れば判るように、国民を豊かにするのです。

 EU領域内においては、地方の一つであるドイツが他の地方に対して経常収支黒字を続けていますが、EU全体としては慢性的な経常収支の赤字が続いており、EU全体としてはしっかり財政政策を行い、EU各国の国民の生活は豊かになっています。

 つまり、アメリカやEUという先進地域では、マンデル・フレミングモデルはバカにされ、捨て去られています。

 これに対して、日本では、マンデル・フレミング理論は重視され、政治家、経済学者、マスコミは、口をそろえて次のように言っています。

 黒田日銀の異次元の金融緩和では、IS‐LM曲線の交点がBP曲線と一致している状態で、日本国内の金利を金融政策で外国より低く誘導したので、LM曲線が下に移動し、IS‐LM曲線の交点はBP曲線よりも下に移動している。すると、国内金利は国際金利よりも下がり、今度は、国内から外国への投資が増え、そのとき外貨買いが行われ、円安となり、経常収支が改善し、IS曲線が上に移動し、すなわちGDPが増大する

ゆえに、金融政策は有効である

 そして、現実に日本で行われたことは、財政政策なき大規模な金融緩和でした。これはマンデル・フレミング理論通りです。

 しかし、現実、黒田日銀の金融緩和では円安になりましたが、GDPは増えていません。

 それどころか、日本ではいまだにGDPが増大する兆しすらありません。ただ、ひたすら、インフレなき円安効果がまるで静止画のように固定化され、大企業(輸出企業を儲けさせ続けているだけです。

 つまり、マンデル・フレミングモデルでは、財政政策せずに、金融政策で金利を下げれば、国内でも生産活動が始まり、なおかつ、円安になり、輸出企業を儲けさせることが出来るので、経済は成長すると言ってました。

 ところが、輸出企業はボロ儲けしましたが、日本の国内の景気は全く良くなりませんでした

 輸出企業が儲けても、国内の下請け企業に良い下請け価格で仕事を回すことはありません。輸出企業の言い値の安い下請け価格で奴隷のように働かされるだけです。

 だから、輸出企業だけが儲かり、国内の下請け企業は奴隷状態になり、その他の内需型中小企業は、財政政策という所得再分配政策はなくなっている状態ですから、潰れて行くだけなのです。

 自民党政府の何が間違っているかと言うと、つまり、自民党がどこでウソをついているかというと、「国内でも生産活動が始ま」という部分です。

 金融緩和をしたのに、国内で生産活動が始まらなかったのは、竹中平蔵氏をはじめとする小泉構造改革派が、中小企業に融資させない仕組みを仕込んでいたからです。

 金融政策において、本当に中小企業金融が行われれば、財政政策と同様の効果があり、インフレになり、経済成長が達成されていたはずです。

 マンデル・フレミング理論は、財政政策をやらせないための理論です。

 しかし、日本では、それだけではなく、それに加えて、中小企業金融が機能停止となるような仕掛け(建物固定資産税強化による地価下落・担保の消滅と、金融庁による金融機関のBIS規制による監視)を仕込んで、中小企業金融までも止めているのです

 だから、安倍内閣はまさにマンデル・フレミング理論で財政政策を止め、中小企業金融を機能出来ないようにしておいて、マンデル・フレミング理論通りであるかのように金融緩和だけを実行して見せたのです。

 これだけでも、ゾッとするような話ですが、恐ろしい話はこれだけではありません。これに日本経済が死滅するような話が続きます。

 日本には、いまだに、日本にはマンデル・フレミング理論が妥当すると触れ回っている政治家がいます。

 もし、マンデル・フレミング理論が忌み嫌っている財政政策を行わなかったとしても、輸出が増加すれば、財政政策を行ったと同じように、国内のインフレ要因が増え、仕入れ費や労働者の賃金が上がり、内需製品だけでなく輸出製品もまた原価が増え、貿易における価格競争力が下がります。

 為替相場に頼った経済ですから、しょせんは、経常黒字が増えると元の木阿弥になります。経常黒字の増加は、インフレを到来させることによって中長期的に輸出の足を引っ張ります。

 ところが、日本においてインフレにならなのは、自民党政府が、経団連などの国際投資家たちの望む通り、消費税増税、社会保険料の値上げ、中小企業金融の貸し渋り・貸しはがしなどあらゆるインフレ抑制政策が行い、鉄拳をもって内需を破壊し、断固としてデフレを守り抜いたからです。

 もし、経団連などの国際投資家たちの望んだ金融緩和と円安による貿易黒字の拡大というマネーストック増大政策の上に、さらに、国民や中小企業が望んだ積極的な財政政策というマネーストック増大政策を行えば、インフレはほとんど確実に起こります。

 だから、日本の(経団連などの)国際投資家たちはそんなことにだけは絶対にしたくないので、どんな国もやらなかった程の財政緊縮政策を自民党にやらせたのです。

 建物と機械にかかる固定資産税増税、低所得層から巨額の消費税、巨額の社会保険料のという増税政策を行い、国民貧困化政策をやってしまったのです。

 国民はお金を持てなくなったので、消費を増大させることが出来なくなり、国内の経済成長も止まりました。

 そして、自民党政府は、財政政策をやらせないための理論としてマンデル・フレミング理論を選び、金融政策だけをやると言いながら、その実金融制度のあらゆる部分を破壊し、中小企業金融をほとんど完全に潰してしまいました。

 

 

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