⑤染み出し効果も消えてしまった日本
どこの国でも、政府のみならず、中央銀行にも物価目標を達成する責任が課せられていますが、これは妥当であろうと思われます。
なぜなら、中央銀行も国民の一員であるからには、国民としての責任があるはずで、金融政策の役割さえ果たせば結果はどうなろうと知ったことではないという無責任な態度や気付かないフリは許されないはずだからです。
日銀の金融緩和は、金融機関に積極的に国民にお金を貸し込ませ、それによってインフレへ誘導する政策の一助とするために行うものです。
それならば、日銀は金融機関が国民にお金を貸すところまで確認し、機能不全がある場合は、政府に原因を報告しないと、義務は完了したことにならないはずです。
金融緩和は、少なくとも建前として、金融機関が景気の様子に不安を覚え中小企業や国民への融資に消極的になっているときに、あえて金融機関から国債を買い上げ、国債の金利収入を奪えば、客から預かった預金を利益を生まないままに置いておくことは出来ないので、渋々ながらも、中小企業や国民への融資を行わなければならなくなるだろうという政策です。
もし、それでも、金融機関が景気回復を疑い、中小企業や国民への融資に対する消極的な姿勢が改まらないときは、さらに金融機関から国債を買い上げ、利益を生まない現金預金を増やして行けば、さすがにたまらず、金融機関は中小企業や国民への融資を行わざるを得ないだろうと考えられています。これを「染み出し効果」と言います。
だから、デフレ不況の時は、金融機関が国債を売りたくないと言っても、そこは政治的圧力で、かまわず、日銀は金融機関の国債を買い取り、現金を押し付けて行くのです。
ところが、今の日本で「染み出し効果」があるかというと、それさえも、もはや無いと言うしかありません。
その理由は、何度も言うように、金融機関に対して超過準備預金付利制度によってアメを与えながら、なおかつ、地価下落政策による担保力の破壊とBIS規制によって、「染み出し効果」さえもなくなる程の仕組みを創り上げて来たからです。
それにも関わらず、日銀の黒田総裁は、異次元の金融緩和というスローガンで、それまで以上の大量の国債を買い取る大規模な金融緩和を行い、金融機関に準備預金の増加の圧力を与えれば、金融機関は中小企業に融資し、物価上昇目標は達成されるとウソを言っています。
本気で言っているのであれば、相当頭が悪いと言わざるを得ません。
いやしくも、黒田総裁は、マクロ経済学を学んでいるからには、現状の日本では、どんなに金融緩和をしても金融機関は信用創造を行えず、よって、物価上昇も無いことを承知しているはずです。
しかし、安倍政権に冷や飯を食わされることを恐れ、異次元の金融緩和による有りもしない染み出し効果、そして、有りもしないインフレ政策への手助けになるというウソの片棒を担いだのではないでしょうか。
黒田総裁は、日本の間接金融が制度的に破壊されていることを知りながら、よって、染み出し効果すら無くなっていることを知りながら、現在の地位と報酬を守りたいばかりに、それ以上の提言も提案も行わないのです。
ただし、異次元の金融緩和によって、金融機関による既存の不良債権の回収行為は猶予されるかも知れません。また、既存の貸付金の金利も下げられるかも知れません。しかし、それらは、中小企業を助けようとするものではなく、批判を避けるために、中小企業をじわじわ潰すための技術の一つでしかありません。
このように無責任な者が日銀総裁の地位に居るのであれば、日本の金融制度はいつまで経っても改善されるはずはありません。
国は法律をもって、日銀に対して、金融緩和が効かない理由を解明して、国民に直接報告する義務を与えておくべきです。
そうすれば、日銀総裁は、自分がバカではないことを証明するために、地価下落政策による担保力の破壊とBIS規制が間接金融(金融機関の信用創造)を妨害していることを説明せざるを得なくなります。
そうすれば、日銀総裁にバカではないというプライドがある限りは、あらゆる欠陥を修正して血の通った金融制度を取り返すという、本来行うべき提言を国民に向かって発信するようになるでしょう。