①政府のバランスシートは貨幣発行の記録にすぎない

 

 国家に企業会計の書式(複式簿記)が不適切である理由は、金本位制を廃止し、管理通貨制度に移行して以来、通貨発行に負債の意味は無くなったにも関わらず、いまだに、通貨発行するたびに負債として記録されてしまうからです。

 世界が金本位制から離脱した時点で、そして、日本が通貨発行権を持っているという時点で、政府とその代理機関である日銀にとって通貨発行に関する負債の事実は消滅し、すべての行為が、通貨発行量の記録にすぎないものとなります。

 しかし、企業会計と同様の書式を使っているために、通貨発行が債務として表示され、あたかも、金融機関や企業のバランスシートの債権や債務と同じ意味を持つかのように誤解され、それによって本物の債権や債務であるかのような錯覚が引き起こされているのです。

 その結果、政府債務は税金の増収によって返済する以外に、返済の方法は無いとか、これ以上政府債務が増えれば政府財政がデフォルトするとかの滑稽な誤解が生まれています。

 これに反論する側もまた、政府債務を企業の債務と同じように考えている者が多く、「政府をバランスシートで見れば、政府も沢山の資産を持っており、これらの資産を売れば、負債のかなりの部分を返済することができる」というようなトンチンカンな反論しか出ていません。

 こうした反論をしている者はまじめに言っているのかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、国民を混乱させているだけなので困ったものです。

 このような反論では、たとえ債務が大したものではないという理解が得られたとしても、政府や日銀にとって実体としての負債ではないという核心に触れられず、結局は返済した方が良いことになり、財政均衡のプロパガンダを止めることは出来ません。

 当の財務省は、自らのホームページで、平成21年度の財務諸表を例に挙げて、これらの資産が売却不可能であり、借金の返済に充てることが出来ないことを説明し、政府債務と政府資産を相殺するというアイデアを軽く一蹴しています。

『(政府の説明) 

【政府のバランスシート】平成21年度

【貸方】

(負債の部)政府短期証券96.8兆円、公債720.6兆円、借入金21.9兆円、預託金8.8兆円、公的年金預かり金130.4兆円、退職給付引当金等12.4兆円、その他の負債28.1兆円、負債合計1019.0兆円、

(純資産の部)資産・負債差額▲372.0兆円、

合計647.0兆円

【借方】(資産の部)現金・預金18.8兆円、有価証券91.7兆円(内、外債証券82兆円)、未収入金等14.4兆円、貸付金155.0兆円、運用寄託金121.4兆円、貸倒引当金▲2.6兆円、有形固定資産184.5兆円、無形固定資産0.3兆円、出資金58.2兆円、その他の資産5.3兆円

合計647.0兆円

 国においては、企業会計の考え方を活用して貸借対照表(バランスシート)を作成しており、平成21年度末時点では、1019兆円の負債に対し、647兆円の資産が存在しています。しかし、これらの資産の大半は、性質上、直ちに売却して赤字国債・建設国債の返済に充てられるものでなく、政府が保有する資産を売却すれば借金の返済は容易であるというのは誤りです。
 代表的なものをご説明すると、(1)年金積立金の運用寄託金(121兆円)は、将来の年金給付のために積み立てられているもので、赤字国債・建設国債の返済のために取り崩すことは困難です。(2)道路・堤防等の公共用財産については、例えば国道(63兆円)などや堤防等(67兆円)などとして公共の用に供されているものであり、また、収益を生むわけでもないので、買い手はおらず、売却の対象とはなりません。(3)外貨証券(82兆円)や財政融資資金貸付金(139兆円)はFBや財投債という別の借金によって調達した資金を財源とした資産であり、これらの借金の返済に充てられるものであるため、赤字国債・建設国債の返済に充てることはできません。(4)出資金(58兆円)は、その大部分が独立行政法人、国立大学法人、国際機関等に対するもので、これらに対する出資は、そもそも市場で売買される対象ではありません。』

 この財務省の説明の通り、政府資産が売買される対象ではないことは確かです。国民の共有するインフラをどこかの企業に売り飛ばされたのではたまったものではありません。

 しかし、財務省は、いつか、どこかの外国企業に売り飛ばすことも視野に入れているのか、「(今のところ)収益を生むわけでもないので、買い手はおらず、売却の対象とはならない」と説明しています。売るべきものではないとは言っていないところが不気味です。

 しかし、これらのインフラは、水道事業も含めて、国民の大事な資産であり、絶対に民営化してはならないものです。

 今のところ、財務省としては、「ゆえに税金で返済しなければならない」という結論に繋げたいだけですから、こうした企業会計方式の罠にはまったままの提案を受け入れ、その考え方に沿って微妙な言い回しで答えているだけで

 実際、政府のバランスシートの【借方】(資産の部)にあるものは国民共有の資産であり、すでに国民の生活の一部になっていますから、普通の人間がまともに考えれば、換金すべきものではありません。

 道路、橋、トンネルや水道事業は国民のものです。ただし、政治家の裏切り者によってレントシーキングされ換金される可能性はありますが、それはまさに国民からの泥棒であり、売国行為であり、そういうヤカラは死刑にすべきでしょう。

 貨幣の供給としての面から見れば、資産の部は政府が財市場に貨幣を供給した口実(理由付け)にすぎません。つまり、口実に過ぎないという程度の軽い意味しかないものなので、まじめに貨幣の供給量と資産の価値の比較をしても無意味です。

 その一部が有形固定資産および金融資産を合計したものであり、他の一部は固定資本減耗と最終消費支出の累積です。

 最終消費支出で出したものは、借方・資産の部には表されず、貸方・負債の部に借入の超過分として(資産・負債差額というマイナス資産として)表わされます。

 税収は売上ではありませんから、まったく政府資産と関係のない別勘定(無償の所得移転)で入金されます。

 【貸方】(負債の部)にある借入金は突き詰めれば、その全てが国債です。

 政府の発行した国債は、保有者で区分すると「日銀保有国債」と「民間保有国債」に分けられます。

 国債には「日銀保有国債」が含まれていますが、何度も言うように自分と自分との貸借はあり得ず、「日銀保有国債」は純粋に貨幣発行の記録という意味になります。

 すなわち、日銀においては、負債の部にある「発行銀行券」は通貨発行の記録であるからには、返済義務存在しないものであり、本来、純資産の部に置かれるべきものです。

 ただし、純資産と言うのは、資産から負債を差し引いた残りという意味なので、純資産の中に「通貨発行」を勘定科目として立てるというのは、理屈として変ですが、他の例として、大企業に積み立てが義務付けられている「法定準備金」は特別な役割を表現するものとして、しっかり純資産の中で、一つの勘定科目として立てられていますから、それに倣って、純資産の中で「通貨発行」を勘定科目として立てても良いはずです。

 日銀の保有国債という債権資産に対応して、国債発行が政府 「民間保有国債」は民間に対する正真正銘の負債ですが、いつでも、日銀が通貨を発行し、民間保有国債を買い上げることで「日銀保有国債」つまり負債性の無いものに転換できます。

 つまり、返済しようと思えば、まったく何の生産をすることなく、貨幣の支配者が勘定の配置換えをするだけで返済出来ることになります。

 だから、政府側から見た民間保有国債もまた、民間におけるような他の資産と交換する義務を意味する借入ではなく、民間保有貨幣(流動性またはマネーストック)の凍結と言った方が正確でしょう。もちろん、民間側から見れば、凍結を解除させる権利がありますから、凍結を解除させるよう要求出来るという意味の債権になります。

 日銀が輪転機を回して民間保有国債を買い上げる行為は金融緩和または量的緩和と呼ばれます。

 日銀による金融緩和または量的緩和以外に、「民間保有国債」の返済方法はありません。「民間保有国債」の返済は税収で行うと誤解している人がいますが、税収は必ず日銀保有国債の返済に回される規則になっていて、民間保有国債の返済に充てられることはありません

 税収によって政府が日銀から日銀保有国債を買い戻すということがどういう意味になるかというと、これは自分と自分の取引なので返済ではなく、貨幣発行のキャンセルということになります

 また、政府の負債の項目の内、日銀からの借入以外のものは、公債(対民間)、政府短期証券、借入金、預託金、公的年金預かり金、退職給付引当金、その他の負債というように分けられていますが、これらは全て、その負担者を日銀か民間かの保有者によって仕分けして、「日銀保有国債」または「民間保有国債」に置き換えることが出来ます。

 よって、政府の負債とは「日銀保有国債」と「民間保有国債」の合計と言うことが出来ます。

 これで整理すると、前出の平成21年度の政府のバランスシートは、

【貸方】(負債の部)日銀保有国債73.1兆円(※注1)、民間保有国債945.9兆円

(純資産の部)資産・負債差額▲372.0兆円

合計647.0兆円

【借方】(資産の部)政府部門からの発行済み貨幣総額1019.0兆円(※注2)

ただし、消費支出済み貨幣および固定資本減耗▲372.0兆円を差し引く

合計647.0兆円

 (※注1)平成21年度の日銀のバランスシートから算出。

 (※注2)(資産の部)の1019.0兆円のうち、民間保有国債945.9兆円は、政府が「借入」しているとすれば、通貨発行は日銀保有国債73.1兆円だけということになります。

 すなわち、政府は、日銀から借り入れた貨幣73.1兆円、および、民間から借り入れた貨幣945,9兆円の、合計1019,0兆円を支出したものの、合計647.0兆円の資産しか持っていないことになります。

 その647.0兆円は公的固定資本および金融資産の形になっています。

 「民間保有国債」のシステムは、民間の貨幣の凍結であり、凍結した分だけ、政府は貨幣を発行して使用するというものです。

 「民間保有国債」が民間の貨幣の凍結であ、そのとき政府は支出をしているのですから、その支出をした分の貨幣がどこから来たかというと、それは、新しい貨幣を発行していることになります。マネタリーベースは貨幣の凍結で減少し、新しい貨幣の発行で増加し、プラスマイナスで変化しません。

 そして、日銀が民間保有貨幣を引き受けたときに凍結が解除され、つまり、返済されこのとき、貨幣の発行が顕在化し、マネタリーベースの増加になります。

 「民間保有国債」を全て「日銀保有国債」に転換すれば、つまり、凍結を解除すれば、間接金融が機能し、信用創造がまともに起こるようならば、(日本では間接金融が機能不全になっていますから何も起こりませんが)、貨幣が市場に溢れ、おそらくインフレとなります。

 また、「日銀保有国債」と「民間保有国債」の合計を意味するいわゆる「政府債務」の全てが無くなれば、確かなこととして、この世の貨幣が消滅するという事実が明らかになります。

 政府支出の資金はすべて通貨発行によって調達することが出来ます。政府は通貨発行を、神の如く、自由自在に行うことが出来ます。

 しかし、かつて、その通貨発行権については、物々交換経済の仲介手段としての信用、あるいは、国際交易における信用を担保するものとして、ある一定のルールが存在し、通貨発行権を制約していました。

 そのルールとは金本位制のことです。ところが、不思議なことに、金本位制が廃止され通貨発行権制約が無くなった後も、金本位制でなければ生じないはずの通貨発行権に対する制約を頑なに守ろうとする勢力が存在します。

 デフレを維持しようとする一派、あるいは、政府支出の原資を税金と国債であるとする一派がそういった勢力です。

 もちろん、政府が通貨を税金で回収した都度、貨幣が消滅するのではなく、使いまわしされているのだという見方も出来ますが、神の如き通貨発行権を手に入れた時点で、税金が政府支出に使いまわしされていると考える必要性は消滅しました。

 通貨発行権を手に入れた時点で、政府が通貨を税金で回収した都度、通貨は焼却されて無くなり、政府は新しく発行した通貨で政府支出を行っているとした方が正しいのです。

 ゆえに、税収は市場から貨幣を消滅させることだけが目的となったからには、税収と政府支出は一致させる必要もなくなりました。だから、理の当然として、財政を均衡させることもまた意味の無い行為となりました。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング