①間接金融が機能しなければ金融政策に意味はない

 

 景気動向をコントロールする方法には、財政政策と金融政策とがありますが、政府がお金をどう使うかが財政政策ならば、民間にお金をどのように使わせるかかが金融政策であると言うことが出来ます。

 あるいは、財政政策が、政府が強制的に貨幣を財市場に供給(政府支出)または回収(税金)する「マネーストック政策」であるのに対して、金融政策は、中央銀行はマネタリーベースを増減するだけで、あとの信用創造というマネーストック増減行為の判断を民間に委ねる「マネタリーベース政策」であるということが出来ます。

 マネタリーベースとは政府部門(政府および中央銀行)から民間に対する発行済貨幣のことで、現金(金融機関・企業・個人が財布や金庫などに持っている紙幣と硬貨)および準備預金(金融機関が日銀内に開設している当座預金口座に保有する準備預金)の合計を言います。

 ただし、日銀当座の準備預金も結局は現金です。なぜなら、日銀は金融機関から現金通貨を預かっているだけであり、したがって、日銀の当座預金口座にあるものは現金に他ならないからです。ゆえに、マネタリーベースと現金は同じものです。

 政府部門(政府と中央銀行)の持っている貨幣は、まだ発行されていませんから、マネタリーベースには含まれません。

 金融機関が保有する貨幣は、政府部門(政府と中央銀行)が金融機関に発行済の貨幣としてマネタリーベースの統計に含まれます。

 マネーストックは企業や個人という非金融機関が保有する貨幣を言います。これは、まさに産業部門(財市場)が保有する貨幣量であり、企業や個人現金と銀行預金を意味します。

 金融緩和政策は金融機関が日銀当座預金に保有する準備預金を増やす方法ですが、これは、日銀が金融機関の保有している国債を買い入れ、その代金を現金で金融機関に引き渡すことで行われます。これは即座に日銀に開設している口座に預けられますが、実務としては、政府が日銀に開設している当座預金口座に振込み、金融機関はそのまま保有を続けることで行われることになります。しかし、その日銀の口座に存在するものはあくまで現金です。現金は政府発行通貨の別の呼び方です。

 日銀が金融機関の国債を買い取ることを「買いオペレーション」と言います。

 逆に、金融緊縮政策において準備預金を減らす方法は、金融機関に日銀が保有している国債を売り付けて、当座預金口座から現金を回収し、マネタリーベースを減少させることを行います。これを「売りオペレーション」と言います。

 ただし、準備預金を減らす方法は、金融緊縮政策だけでなく、政府が国債を金融機関に売り付けることでも可能です。その方法を採用すれば、日銀の持っている資産を当てにする必要はありませんから、日銀が債務超過になっても何ら困ることはありません。

 準備預金の内、法定準備預金は民間金融機関が預金者から預かったお金の一定比率(法定準備率2014年現在で預金の種類や額に応じて0.05%~1.3%が定められている)を日銀当座預金に積み立てる制度に基づいて預金されているものです。法定準備率は預金準備率とも呼ばれます。

 法定準備率は日銀が決定します。

 金融政策は、マネタリーベースを増減させる政策以外にも、この法定準備率を増減させる政策によっても行われることがありますが、現在は、マネタリーベースを増減させる量的政策が主流であり、法定準備率を増減させる政策はほとんど行われていません。

 金融政策は、金融機関による信用創造(融資)が行われて、始めて、金融政策に意味が出てきます。

 1989年までは、日銀が金融緩和を行うだけで、金融機関が民間への融資を拡大し、それに伴って景気が良くなりGDPも拡大して来ましたが、土地バブル崩壊の1990年以降、金融機関の準備預金を増やしても金融機関はなかなか民間、特に、中小企業に融資しようとしなくなりました。

 なぜなら、1990年からしばらくの間は、政府が金融機関の中小企業融資を行政指導的に規制する総量規制を行い、1993年からはBIS規制によって、1994年からは固定資産税の重税化による担保となるべき「地価の下落によって、中小企業融資を出来なくしてしまったからです

 地価の下落が意図的に行われたということは、金融機関が融資するときに担保とする資産について破壊が行われたということです。

 それによって、間接金融の停止が起こりましたが、正に、アメリカの年次改革要望書に従って自民党政府の目指したものこそが、資産制度の変更による間接金融の停止でした。

 金融機関は、信用に足る担保がなく、融資したお金の回収がおぼつかないようでは融資出来ませんが、1994年からは固定資産税の重税化以降は明確に資産制度の変更(固定資産税の重税化による地価の下落)によって、融資する先の中小企業が融資に必要な担保を持てなくなしたがって融資出来なくなり、したがって、信用創造は停止状態に追い込まれてしまったのです。

 さらに、金融制度も変更されました。日本における金融制度の変更は、BIS規制と呼ばれる、自己資本比率が一定の基準を下回ると国際的な取引が出来なくなるという国際的な取決めに従って行われましたが、BIS規制は、そもそも、冷戦終結後の新自由主義運動の巻き返しの一つであり、金融の健全化に名を借りた国際的な間接金融の妨害工作です。

 こんなことをやられたのでは、間接金融を投資の資金源の拠り所とする中小企業や個人商店はたまったものではありません。

 日本においては、特に念入りに「金融検査マニュアル」という、日本独自のマニュアルが作られましたが、自民党政府がその役割を終えたと判断したことにより、2018年度で終了しました。ただし、その金融検査マニュアルの目的であるBIS規制が終了するわけではありません。

 金融検査マニュアルの終了は、日本の地価が十分に下がり切り、自民党政府が日本の間接金融の機能不全状態を確認し、BIS規制による監視だけでも十分だと判断したので、金融検査マニュアルという一つのツールを止めたというだけのことにすぎません。

 「金融検査マニュアル」には様々な関門がありました。まず、決算書の損益計算書と貸借対照表の成績が良くなくてはなりません。また、その基準に合格したとしても次は担保となる資産の評価が待っています。

 この資産評価において、金融機関が積極的な評価を行っても、後で金融庁によって厳しく評価しなおされ、金融庁によって資産評価の下方への修正を指示された場合は、結果として金融機関は金融庁からの信用を無くすことになり、それによって金融機関は様々な不利益を受けるようになるので、金融機関自身がビクビクしながら自主規制するという、なかなか手の込んだ仕組みになっています。

 もちろん、金融庁に言われなくても、金融機関も損はしたくないので、自然と、担保となる資産の評価は地価の下落に先回りするように厳しいものになります。

 金融機関自身もまた地価が下落しているときに、将来的に担保となる資産がいくらで売れるのか、自分が損をしないように厳しく査定します。

 そして、遂に、地価が下がり切った現在、金融機関自身が担保を持たない中小企業に融資するはずはなく、金融検査マニュアルの役割は終わったというわけです。

 担保となる資産というのは、無形の知的財産や証券などもあるのかも知れませんが、ほとんどの中小企業や個人にとっては土地のことです。土地以外にどのようなものが担保となり得るのか、考えてみれば、ほとんど無いということは誰でも分かるでしょう。

 間接金融が機能不全に陥っている最大の理由は、金融機関が融資をサボっているというより、「地価の下落」によって、担保物件が無くて貸せなくなっているからです。

 不動産に代わるような担保が存在するなどという話は空想だけのものなのです。

 そして、さらに、政府および日銀は、金融機関が中小企業に貸さないという選択を後押しするかのように、大量の国債を金融機関に提供し利子を払ってやっています。これも、金融機関に、中小企業に融資しなければならないという経営上の緊張感を失わせます。

 郵政民営化の真の目的は、国債の引受を独占していた郵貯の特権を取り上げ、全ての金融機関に国債が買えるように門戸を開放するためのものです。

 そして、さらにその上、政府および日銀は、金融機関が日銀に持っている当座預金に、法定準備預金を超える超過準備預金に対して0.1%の利子を付けてやっています。つまり、当座預金付利子制度です。

 金融機関は、中小企業に融資しなくても、当座預金に置いているだけで0.1%の収益が有るのですから、預金利息の0.01%くらいは簡単に賄え、あえて中小企業に融資する必要は無くなります。

 日本では、このように、地価下落政策、それを補強するBIS規制、そして、国債の大量提供、当座預金付利子制度といった、金融機関が中小企業に融資しなくても、楽々とやっていける仕組みがいくつも作られ、間接金融が無力化されているのです。

 

 

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