①格差を是正する税制

 

 財政政策は、政府の歳入と歳出によって、次のことを行う諸政策の総称です。優先度は(1)、(2)、(3)の順になります。

(1)安全保障・社会保障・インフラなどの国民の生存のための設備と維持

(2)国民間の格差を是正し、弱者を救済するための所得再分配

(3)物価および景気動向の調整

 (1)財政支出のみによっても達成可能です。

 (2)(3)は税金という貨幣量の調整手段を援用しなければなりません。賃金の上昇が物価の上昇に追いつき、そして、超えるように、経済の調子を見ながら通貨発行や回収をしなければならないからです。また、税金を援用する場合、格差の是正に配慮し、国民の所得層によって回収する貨幣の量を変えなくてはなりません。

 税制の制定は財政政策の中でも最も重要なものです。

 独裁国家のように、他国に対して影響力の強い国家になろうという動機が最優先であるのなら、(1)と(3)だけで、(2)を軽視する視点もあるかも知れません。しかし、国内で格差が拡大し、1%の富裕層だけが幸福になり、99%の国民が不幸になっているのであれば、一体、何のための国家なのか、国家の存在意義そのものが問われることになります。

 (2)を重視し、格差を是正しようと思うなら、まず、抑制すべきは企業の純利益と富裕層の多すぎる所得です。

 企業の純利益とは、原価に上乗せされた営業余剰金であり、等価交換が行われずに、その分は消費者が損をしているので、純利益が大きくなると、搾取とかボッタクリとかと呼ばれるようになり、消費者は貧困化します。独占価格の弊害

 念のために言っておけば、利益と搾取は同じもので肯定的に言えば利益となり否定的に言えば搾取となるだけです。

 法人税は、法人の純利益に課税されます。それが格差を是正します。なぜなら、法人の純利益は、全てを支払った残余なので、本来は無用のものです。次の投資のためには、間接金融があるのですから、必ずしも、純利益を溜め込んで内部留保金を持っておく必要はありません。

 つまり、純利益は、経営者の役員報酬(大抵は株主自身の報酬)や労働者の賃金を支払い、設備や中間財の仕入費を支出した残余であり、その純利益は、すべて、配当という形で株主の利益となるか、または、内部留保金の増加となり、株価を上げ、株式のキャピタルゲインという形で再び株主の利益となるだけです。

 純利益が増えれば賃金の増額に使われると言うのは、定義の矛盾であり、あり得ません。

 株主は、法人の純利益によって、配当金というインカムゲインの他に、株価上昇というキャピタルゲインの両方の所得を得ます。

 株主への配当金は生産を伴わない所得移転です。

 新自由主義者や金融資本主義者は、働かないで、投資活動ばかりやっている株主の利益およびそれからもたらされる貯蓄を増大させることを正当化しようと試みており、株主のインカムゲインやキャピタルゲインへの課税を緩和し、さらに、株主を豊かにせよと言っています。

 なぜなら、株主に富が集中すれば、株主は最も適正な投資を行い、それが経済成長を実現させ、国民全体が豊かになれるからだと言うのです。これがトリクルダウン理論です。

 しかし、1990年のバブル崩壊以前、間接金融が活発であった頃は、株主たちの貯蓄がなくても、間接金融によって資本を調達し、生産を始めることは可能でした。

 ところが、地価下落政策とBIS規制によって間接金融(中小企業金融)を破壊し尽くすと、新自由主義者や金融資本主義者は、株主に儲けさせる以外、投資する資金を調達する方法はないなどと言い、株主を豊かにせよと言って来るようになったのです。

 今の自民党政府はその株主たちの言いなりになり、株主たちが最も儲けられる体制を構築しようとしています。

 これが、すなわち、構造改革と呼ばれるものであり、新自由主義であり、市場原理主義であり、金融資本主義であり、自由貿易主義と呼ばれるものです。

 この「株主たち」は恐ろしい人たちで、国際金融資本とか、ユダヤ・アングロサクソン連合とか、国際投資家とか、経団連とかと呼ばれます。彼らを怒らせれば、日本の政権などはひとたまりもありません。

 法人(企業)の純利益は労働者から搾取し、さらに、消費者から等価交換を上回る部分(はなはだしいときは独占価格と呼ばれる)を搾取することで生まれます。

 とはいえ、搾取が悪いと言っているのではありません。なぜなら、あらゆる経済活動は利益を求めるために行われており、利益は、他人の所得を無償で手に入れるという定義どおりの搾取そのものだからです。

 世論的に、利益という言葉は肯定的に捉えられ、搾取という言葉は否定的に捉えられていますが、意味は同じであり、その弊害が目立たないものであるか顕著であるかの違いがあるに過ぎません。小さな搾取は適正利益と呼ばれ、むしろ褒められます。

 設備投資費は純利益の中から支出されると勘違いしている人がいますが、設備投資費は減価償却費(経費の長期分割控除)という方法でしっかり経費に組み込まれています。

 設備投資費が経費ではないかのような錯覚が起こっているのは、返済期間より減価償却期間が長すぎるからであって、税制の歪みからもたらされる錯覚にすぎません。

 株主の利益の増大は、富裕層を生み出し、富裕層の貯蓄性向は流動性選好(貯蓄愛好)や流動性の罠(投資停止)を生み出す原因になります。

 このような株主の利益は、大多数の国民にとっては迷惑であるだけの部分です。ゆえに、株主の利益を懲罰する法人税が存在します。

 法人の中には、強引に仕入れ原価を下げさせたり、人件費を削ったりして、経営者の報酬や株主の利益を不適切に増加させようとする者がいます。法人税には、このような社会問題の解決のため、純利益を懲罰するのです。

 法人税の懲罰効果によって、経営者には課税対象となる純利益を小さくしようとする圧力が働きます。

 純利益を小さくしようとするときは、売上を小さくしようとすることはあり得ず、経費の方を大きくしようとします。

 経費を大きくする主な方法は人件費と設備投資の拡大です。かつて、法人税が高かった頃に、盛大に使われていた交際費も経費の一つです。

 人件費の増大によって会社内において社員に所得を分配し、設備投資の増大によって会社外仕入先に所得を分配します。

 税金で取られるくらいなら、そうした方が、将来に向けて企業の生産力を強化することが出来、むしろ、長期的なスパンで利益を安定させることが出来るからです。

 法人税の増税には、このように、所得再分配をうながし、設備投資や技術革新を行い長期的視野を持ち、経済成長に向かわせる効果があります。

 法人税の強化が労働者の賃金を上昇させることについての反論として、むしろ、法人税を上げれば算術的に法人税が取られた後の株主の取り分である残額は小さくなるので、株主は自分の取り分を挽回しようとして、もっと賃金を下げようとするだろうという者がいますが、これはあり得ません。

 逆に、法人税が下がっても、株主は賃金を上げようとはしませんでした。法人税を下げれば、純利益大きくなるのですから、もはや、賃金をる必要はなくなります。

 法人税を上げたほうが、賃金は上がるのです。

 なぜなら、法人税を上げれば、純利益を守る熱意は薄れ、中長期の人材投資や設備投資、顧客開拓のための交際費を増やした方が特になるのです。

 現在において、法人税を下げたことによって決まっているのが、企業の空前の内部留保金と、労働者の現在の低い給与水準です。

 問題は、今の均衡状態で法人税率を上げれば、株主にどんな心理の変化が起こるかということですが、私の言っていることは、法人税率を上げれば、株主は純利益を出すことに熱心でなくなるということです。

 例えば、法人税が50%であるとすると、純利益に残しておくよりも、何か買った方が2倍のものを買うことが出来ます。株主は、純利益の50%を内部留保金として企業内に残すよりも、人材や設備に投資した方が得ですから、そちらを選ぶでしょう。それもこれも各々の株主の考え方次第ですが、どちらが大勢になるかということです。

 現在の法人税率は23.2%ですから、賃金を10000円下げると株主の取り分は7680円増えます。これなら、株主は、労働者の不人気を買ってでも、一生懸命賃金を下げようとするでしょう。

 これが、法人税率が50%になれば、賃金を10000円下げても、株主の取り分は5000円増えるだけです。今度は、株主は、5000円のために労働者から不人気を買わなければならなくなります。株主の労働者から不人気を買ってでも賃金を下げようとする意欲は少し削がれるでしょう。

 また、少なくとも、法人税率を100%にすれば、もう、純利益を追求する株主はいなくなるでしょう。

 そうすると、0%から99%までは、算術的計算による株主の取り分を増やすための賃金の切り下げが行われ、100%になったとたんに、株主は株主の取り分を増やすことを諦めると考えるのは無理があります。法人税が上がるに連れて徐々に株主の取り分を諦め、賃金の上乗せに回して行くと考える方が自然です。

 証明として、過去の日本の法人税の実効税率の高さと賃金の上昇率、今の日本の法人税の実効税率の高さと賃金の上昇率を比べるという手もあります。

 また、法人税率が高かった頃、法人税を払うより交際費に使った方が得だという時代があったことも参考になます。

 そもそも、企業は公器ですから、全て人件費として支払えば良いのであり、純利益を守ってやる必要はありません。

 すなわち、経営者は大抵の場合、役員報酬という人件費をすでに受け取っていることが多いので、それ以上の純利益を守ってやる必要はないのです。

 だから、賃金と経営者報酬という人件費を支払った後の残余である純利益は高水準の税率で懲罰されて然るべきです。

 抜け道として、経営者が法外な役員報酬を受け取るような企業も出てくるでしょうが、その時は、所得累進課税の強化をもって対応すれば良いのです。

 あるいは、企業の投資の財源として内部留保金が必要であるという者もいますが、それは間接金融(金融機関の信用創造)が機能していない場合の話であり、間接金融が健全に機能し、政府が金融政策に対して責任の有る態度を取っていれば、投資の財源は自然に問題なく調達出来ます。

 まさに、日本は企業の投資の財源として内部留保金が必要であると言いたいために、間接金融を破壊して来たのです。

 このことは、逆に言えば、法人税を上げるためには、企業の投資資金を安定的に確保する社会制度が必要となりますので、間接金融を現在の機能不全の状態から、健全な状態に戻すことが必要になるということでもあります。

 そして、このことは、間接金融の機能不全政策と、法人税の減税政策が、一つの意図によって繋がっているということを示しています。

 間接金融が何の制度的な妨害もなく、健全に機能しているのなら、内部留保金は、短期の運転資金程度のもの以外は必要ありません。中長期的投資は、金融機関の中長期的融資で行うことが出来るからです。

 経済政策の全ては相互に関連しています。

 そして、まさに、自民党政府は、国民生活を犠牲にし、大企業や国際投資家のために、間接金融を破壊し、新規投資の財源を直接金融にシフトさせながら、直接金融の資金を増やすために法人税を下げ、大企業の内部留保金を莫大なものにして来たのです。

 

 

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