②金融資本主義の国際的犯罪

 

 アメリカでは、2001年からブッシュ大統領とグリーンスパンFRB議長の超低金利政策により、住宅ブームが過熱してました。

 ちなみに、日本では、2001年から小泉内閣時代、2006年から第一次安倍内閣時代、2007年から福田内閣時代、2008年から麻生内閣時代です。

 2001年から2006年の小泉内閣と安倍内閣は労せずして、日本国内の景気を若干上げることが出来ましたが、これはアメリカの住宅バブルのおかげで輸出が好調となったからであって、むしろ、構造改革が行われて、小泉内閣が日本の内需を悪化させ、輸出に肩入れしようとしたときに、アメリカの住宅バブルのおかげで、思った以上に輸出が伸びてくれたので、国内は内需の悪化による不況感から救われ、小泉内閣は非難されずに済んだのです。

 2008年にアメリカの住宅バブルが崩壊したときに構造改革の反動の処理を麻生内閣に被せましたが、予定通り麻生内閣は国民の非難を受け、選挙で敗北し、内閣が潰れました。

 翌年の2009年に鳩山民主党内閣が成立しました鳩山内閣の誕生で日本の安全保障は危機に陥りましたが、日本の安全保障と引き換えに構造改革は相変わらずやってくれたので、経団連などの黒幕たちはそれで良しとしました。次の安倍内閣は、構造改革によって拡大した格差を是正するような「瑞穂の国の資本主義」などというウソをついて政権を取りましたが、もともと経団連側の安倍晋三氏がそれらの黒幕たちに逆らうはずもなく、消費税増税やTPP体制の構築など構造改革路線はさらに強化されました。

 アメリカに話を戻すと、アメリカの住宅バブルが崩壊した2008年まで、アメリカにおいては、住宅ローンは際限もないほどに増大して行きました。

 その過程で、住宅ローンは、住宅ユーザーの所得で返すのではなく値上がり益で相殺するような気分が醸成され、住宅の売買は生活のためと言うより投機的な目的で行われることが多くなりました。

 その結果、住宅ローンは一か八かの危険債権となって行きました。

 アメリカにおいては、銀行法(グラス・スティーガル法)によって、商業銀行(いわゆる普通の銀行・間接金融)と投資銀行(いわゆる証券会社・直接金融)の分離が行われていたのですが、1999年に正式にグラス・スティーガル法は廃止され、少なくとも資本面から見た商業銀行と投資銀行の区別はなくなりました。

 そして、全ての銀行はビジネスチャンスを求めて投資に参入して行きました。

 同じ時期に、日本では橋本龍太郎内閣が日本版金融ビックバンと称して、日本においても銀行が証券会社・保険会社の両方の業務を行えるように金融改革を行いました。

 アメリカのサブプライムローンからリーマンショックに至る問題も、日本の土地バブルと同様に金融緩和が発端でした。

 超低金利政策によって住宅ブームが過熱した時に、銀行自身の手で、商業銀行部門の融資した債務についてCDO(債務担保付証券)という金融商品に転換して、投資家に転売することが行われるようになりました。

 投資家への転売によって、すなわち第三者に資金を肩代わりさせることによって金融緩和が常時行われているのと同様になり、常に融資する資金枠が維持出来るようになっただけでなく、その転売による利益は金融緩和による低金利からもたらされる利益以上の収入になりました。

 そして、住宅ローンの証券化は金融緩和以上の資金源を提供して行きました。

 商業銀行部門と投資銀行部門はあからさまに協調して、商業銀行部門の間接金融で融資した住宅ローンをCDO(債務担保付証券)に転換し、投資銀行部門が証券市場で販売して行きました。

 その住宅ローンのリスクを他人に移転するシステムによって、ノーリスクで、商業銀行部門は住宅ローンを貸せば貸すほど、投資銀行部門は売れば売るほど儲けられる仕組みが出来上がりました。

 商業銀行部門は野放図に住宅ユーザーに融資し、投資銀行は野放図にCDOを売ることで、実際、銀行は濡れ手に粟の莫大な利益を上げて行きました。うだつの上がらない銀行員は、一躍、最も高収入を得られる時代のヒーローとなりました。

 しかし、当然ながら、これらの債権は無限なローンの増大を理由として不良債権化します。

 住宅ローンの証券化の量がどれほどのものかは、住宅ローンの増加とマネーストックの増加の比較から判ります。一旦、住宅ローンが増加した分だけマネーストックも増えますが、融資債権が証券化されて売却された時点で、財市場の貨幣が銀行に回収されますから、再び、マネーストックは減ります。

 2001年から住宅バブルが崩壊した2008年までの住宅ローン残高は7年間で6兆ドル増加していますが、マネーストックは2兆ドルしか増えていません。差額の4兆ドルは証券化、つまり、直接金融によって回収されたのです。(直接金融をいくら繰り返してもマネーストックは増えません。)

 この不良債権の塊であるCDOを掴まされた多くの投資家、投資運用会社が損害を受けたのみならず、投資銀行自身も損害を受け、破産した結果、数千万人といわれる一般国民の資産が失われ、多くの企業の支払が停止し、国民経済が停滞した一方で、いち早く立ち回り、売り抜け巨額の儲けを手にした者に富が移転しました。

 間接金融が主流である日本と異なり、アメリカでは企業から一般市民に至るまで直接金融の割合が大きく、株式や債券の市場が産業や市民生活の巨大な部分を支えているため、株価下落や債権のデフォルトによる被害は莫大なものになりました。

 一般国民はもちろん多くの投資運用会社にもCDOの危険性は知らされていませんでした。

 投資銀行が有り余るお金を使ってロビー活動をし、政治家が規制を緩和する法律を乱造し、経済学者が金融工学といわれる理論で権威を与え、格付け機関がAAAという高格付けをした結果、詐欺的商品であるCDOは飛ぶように売れたのです。

 まさにネズミ講であり、売り抜けた者が儲かり、ラスを引いた者が屍を重ねていったのです。

 これは、アメリカで発生したリーマンショックと呼ばれる、歴史上最も大規模であからさまな犯罪であり、世界中の数千万人から富を掠奪した金融業による大規模詐欺事件です。

 ギャンブルとイカサマが切り離せない関係にあるのと同様に、証券市場が濃厚犯罪の可能性を内包していることはすでに何度も指摘されています。

 破綻が確実な債権担保証券を世界中の各国国民に売りつけた投資銀行の多くに有罪の判決が下されましたが、現行法でも犯罪であったというだけでなく、立法段階における政治家の精神においても、もはや犯罪の域に達していたのです。

 その犯罪に、政治家、FRB、銀行家、格付け会社、経済学者、そしてメディアのすべてが加担していたのです。

 さらに、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という究極の金融商品が生まれました。これは、本来、投資に関する保険という意味合いのものでしたが、全く当該取引に関係のない第三者でもCDSが買えるため、投資家は自分とは全く関係のない国家や企業などの破綻に掛けることが出来るという代物です。

 国家や企業が破綻すると、CDSの購入者は大金を手にすることが出来ます。したがって、投資家は国家や企業の破綻を願うようになります。証券市場には人間の醜い部分が凝縮されていますが、CDSはその代表選手です。

 保険会社のAIGは大量にCDOに対するCDSを販売しました。ゴールドマン・サックスはCDSをAIGから大量に買い付け、その支払によってAIGの経営が危機になると、今度はAIGの破綻に掛けるCDSを買いました。

 そしてさらに、ゴールドマン・サックスは顧客が損をすると自分が儲かる仕組みのCDOを開発し、売りさばきました。ゴールドマン・サックスは2010年に米国議会に召喚されました。

 モルガン・スタンレーも自社が販売したCDOの破綻に賭け、不良CDOと知りながら販売しました。モルガン・スタンレーはヴァージン諸島職員退職者年金から訴えられました。

 投資家や債権者は、他人を騙すだけでなく、自分たちも他の証券会社に騙されますから、ある時は加害者となり、ある時は被害者となります。そして、善良な年金生活者や預金者が、こうしたトラとオオカミの闘いに巻き込まれて行くことになります。

 金融資本主義の疫病は日本にも伝播しました。日本では、ライブドアの堀江貴文氏、村上ファンドの村上世彰氏などは時代のヒーローとなりましたが、彼らがやったことは、いかに株価を上げ、いかに高値で売り抜けるかという以外に何もありませんでした。彼らは社会規範どころか刑法さえ犯して、他人の所得を搾取することに専念しただけなのです。

 マスコミはいまだに彼らを時代の英雄と見ています。かつての左翼の目を持つマスコミなら、資本主義の本性の発露であると攻撃したでしょうが、現在のマスコミは、外交、防衛、歴史問題では左翼、経済政策では新自由主義というまことに奇妙な性格を獲得していますので、堀江貴文氏や村上世彰氏を賞賛しました。

 マスコミは、堀江貴文氏や村上世彰氏をモノ言う株主などと、あたかも会社を良い方向に導く提言者のようにもてはやしますが、労働者の首を切り、企業の不採算部門を切り捨て、儲かっている部門だけを残し、株価を上昇させ、高値で売り抜けようと、自分の利益のためにモノを言うだけであって、企業のためにも、国民のためにも、もちろん、労働者のためにもなっていません。

 不採算部門として切り捨てられがちな部分とは、なんとか頑張って雇用を守り、生産力の維持や流通面で社会の底辺に貢献している側面があります。

 企業利益に関して非効率であるとは、労働分配率の高さが企業の純利益を阻害しているということであり、労働者側にとっては悪いことではありません。

 純利益は労働者などに所得を分配した後の余剰金であり、国民視点(労働者視点)で見れば出来るだけ少ない方が良いものです。

 ゆえに、労働者としては、そう簡単に、純利益を優先されては困ります。労働者の立場から見れば、非効率部門の切り捨てを推奨することは間違いです。

 ところが、マクロ経済学を全く理解していないマスコミは、資本家の赤字は労働者の所得であるという発想がありませんから、企業の赤字を自分の家計の赤字であるかのように錯覚し、非効率部門や不採算部門を切り捨てろと連呼したのです。

 一体これはどういうことでしょうか。普段、弱者の味方であり、国民の良心の如く振る舞うマスコミが、経済問題になると、経団連に代表される投資家や債権者の利益にばかり肩入れする姿は異様です。

 これは何と形容すれば良いのでしょうか。マスコミは総じて同じ傾向にありますが、これらは精神分裂症というべきでしょうか、詐欺師というべきでしょうか。

 

 

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