④民間金融資産と国債発行残高の関係

 

 民間の金融資産(個人および非金融法人企業の保有する金融資産)がどのように発生するかを考えたとき、最初の源流は通貨発行権の行使による政府支出であり、最後に行き着く先が民間金融資産であるという因果関係があります。そして、この因果関係しかありません。

 金融資産は現金、預金、株式、債権をひっくるめたもので、しかも純資産を意味するものではありませんから、国民同士の貸し借りが増えることによっても増えて行きます。

 純資産という概念ではないので、民間金融資産は、相互に保有する債務と相殺されることは無く、単純に合計され、金融資産総額となります。

 直接金融(証券取引)で、企業が株式を新規に発行した場合、個人がそれを買うとき、個人から株式を発行した企業へ貨幣が移動し、個人の手元には等価の株式が引き渡されます。この株式は新たに生まれた個人金融資産となります。

 このとき、個人金融資産は増減していませんが、企業は貨幣を得て、企業金融資産は増加しますから、個人と企業を合わせた民間金融資産は増加します。

 間接金融(銀行取引)では、預金した段階では現金通貨が預金通貨に変わるだけで民間金融資産は増えませんが、金融機関が融資をすることで、融資に回されたはずの預金分が現金として出て行っても、銀行内には国民から預かっている預金通貨が残っていると見なされ(信用創造)、融資した現金通貨と合わせて民間金融資産が増加して行きます。

 税収で回収した税収相当額は、同額が政府支出された場合は、国民の金融資産は増えも減りもしません。しかし、財政赤字を補う国債では金融機関の準備預金で政府に融資さますが国民から預かった預金は減ったと見なされず、政府支出された段階で、信用創造と同じことが起こり、マネーストックが増え、金融資産増えます。

 実際を見ると、例えば、政府に1000兆円の対民間債務があり、さらに40兆円の国債を発行した場合、このうち、20兆円を国債の返済に充てるとすれば、その部分は金融資産の増減はありませんが、真水として使える分は20兆円について、政府の債務の増加は真水分の20兆円となり、政府の債務残高は1020兆円になります。

 一方、その時、民間金融資産(個人および非金融法人企業の保有する金融資産の合計)が2460兆円あったとして、政府が真水の20兆円の公共投資を行ったとすると、20兆円の全てが個人や企業の所得および利益となり、途中でどのような取引が行われても、最終的に20兆円がそのまま民間金融資産になります。それに加えて、金融機関や企業が刺激されて信用創造が起これば、信用創造分の金融資産も増えます。したがって、民間金融資産は2480兆円以上に増加します。

 つまり、政府債務が1000兆円から1020兆円に増加するとき、タイムラグはありますが、必ず民間金融資産も2460兆円から2480兆円以上に増加するのです。

 したがって、国債発行残高は、民間金融資産残高に決して追いつけない関係があります。

 2014年の統計で、一般に個人金融資産と呼ばれる家計の保有する金融資産は1645兆円、民間非金融法人の保有する金融資産は842兆円で、金融機関を除く民間の保有する金融資産の合計は2487兆円でした。

 ①個人金融資産(1645兆円)=金融機関に対する債権[預金](794兆円)+企業に対する債権[株などの証券](241兆円)+政府に対する債権[個人向け国債](20兆円)+保険年金準備金に対する債権(441兆円)+現金(80兆円)+その他(69兆円)。

 ②国債発行残高(852兆円)=金融機関からの債務(457兆円)+保険年金基金からの債務(227兆円)+社会保障基金・自治体からの債務(67兆円)+家計からの債務(20兆円)+企業その他の団体からの債務(46兆円)+海外からの債務(35兆円)。

 個人金融資産の内、現金(80兆円)と金融機関に預けている預金(794兆円)の合計はマネーストックと呼ばれます。

 マネーストックの中の現金や預金から、企業に対する債権[株などの証券](241兆円)と政府に対する債権[個人向け国債](20兆円)を購入します。

 個人が国債を買った時点では、マネーストックの中の預金や現金は政府に移転し、マネーストックは減りますが、代わりにその人は国債を手に入れるので、その瞬間では個人金融資産は変わりません。

 政府がそれに対応して政府支出を行った時点で、マネーストックは元に戻り、国債とマネーストックを合わせて、個人金融資産は増えます。

 金融機関が国債を買った時点では、金融機関の預かっている預金は政府の制度的解釈(預金保護等)によって減ったとは見なされませんから、マネーストックは変化せず、また、その取引は個人とは関係ありませんから、当然ながら、個人金融資産にも変化はありません。

 その後、政府がそれに相当する政府支出を行った時点で、マネーストックは増加し、企業金融資産が増え、それがまた配当や賃金に分配され、個人金融資産が増えます。

 個人が企業の発行株式や社債を買えば、マネーストックの中の個人の預金や現金が企業に移転しますが、企業の預金や現金もマネーストックの一部ですから、マネーストックに変化はなく、代わりに、個人は株券という債権を手に入れます。このとき企業は貨幣を手に入れ、企業金融資産は増加します。

 そして、企業がその資金で投資をすれば、企業の設備や在庫が増えた分に対応して貨幣が市場に支払われ、いずれそれは個人所得になり、個人の現金や預金という個人金融資産を増やすことになります。

 したがって、個人金融資産が国民の豊かさを表す指標に使われ、企業金融資産という指標はしばしば無視されるのです。

 貸借で金融資産が増えるメカニズムは、個人間でも同じであり、個人間の借用書も金融資産になります。ただし、現金化される信用度が低く、また、統計には乗りにくいので、通常、統計などで個人金融資産と言うときは、個人間の借用書は含まれません。

 また、企業会計における借用書や売掛金は金融資産の統計に乗るものの、信用度ということでは、個人間の借用書と同等であるため、現金との交換の信用性の高い金融資産と言う意味において、企業金融資産の内、対非金融法人企業、対個人に対する債権は除外すべきと言う意見もあります。

 このように、金融資産の多くは高いリスクを伴っているのですが、リスクがあろうとなかろうと、原理として、金銭貸借が増えれば増えるほど個人金融資産も増えて行きます。

 政府債務が個人金融資産を超えれば、国債を買い取る原資がなくなり、財政が破綻するという人がいますが、国債を買えば買うほど個人金融資産が増えるのですから、国債を買うことで個人金融資産が減ることはあり得ず、因果関係の理解が逆転しているというしかありません。

 ここには、あくまで、政府債務の拡大が個人金融資産を増やすという、一方通行の因果関係が存在するにすぎません。

 だから、日本の個人金融資産が巨大なのは、国債発行残高の巨大さの結果にすぎないのです。

 

 

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