②福祉と生活保護の乗数効果

 

 福祉は弱者(低所得者や病人、老人、子供といった所得を得られない者)を救済するための役割を担うものです。

 ゆえに、福祉の財源を弱者からの税収で賄えば、福祉はその意味を失います。

 現在は、法人税や所得累進課税が減税され、消費税やフラット税化によって、税負担が低所得層に移転されつつあり、あらゆる福祉の目的が損なわれつつあります。

 このことによって、低所得層が、本来、福祉政策から恩恵を受け、実感として豊かにならなければならないのに、高い社会保険料、国民健康保険料によって、むしろ生活の貧困化が起こっています。

 その上に、医療費は1割負担から2割負担へ、2割負担から3割負担へと徐々に引き上げられるなど、給付は削られ続けています。

 限界消費性向の高い低所得層が、税金、社会保険料などの負担(前で述べた真意としての強制貯蓄)を増加され、消費に支出出来る貨幣を減少させると、政府支出の乗数効果は下がります。

 生活保護の乗数効果について考えてみると、次の通りです。

 以下、このセクションでは、必ずしも固定資本形成など生産物の対価ではなく、所得移転を含んだところの政府支出全体に対するGDPの拡大効果を乗数効果と呼ぶことにします。

 生活保護の給付そのものは所得移転にすぎませんから、GDPにはカウントされず初項は0です。

 第2項は、生活保護世帯はお金を全て使い切ってしまうでしょうから、第2項に限って限界消費性向は1.0です。よって、第2項は1.0とします。

 その先の、消費の代金を受け取った企業の労働者の所得から始まる家計の限界消費性向を0.7とすると、公比は0.7となり、生活保護費給付の乗数効果はY=1/(1‐0.7)=3.33・・・となります。

 生活保護費の財源して、消費性向0.7の一般世帯から税金を徴収した場合、マイナスの乗数効果はY=0.7/(1‐0.7)=2.33・・・です。

 ただし、給付による限界消費性向の上昇、負担による限界消費性向の低下もありますが、ここでは話を分かりやすくするために無視します。

 乗数効果はプラスマイナスでプラス1.0になると考えられます。

 ところが、私たちの体感としては、生活保護世帯が増えれば増えるほど経済効果は鈍化すると感じられます。

 それは、生活保護費給付の乗数効果の問題ではなく、景気が悪くなると生活保護世帯が増えていくので、景気悪化と生活保護世帯の増加を同時に体験することになるからです。

 また、現在、福祉の財源と称して、消費税などの応益税やフラット税化が進み、税負担が低所得者層にシフトしていますから、生活保護のせっかくの高消費性向家庭(低所得者層)への所得移転の効果が薄れています。

 さらに、低所得層の納税額が増えると、純所得(所得から税金と社会保険料等を差し引いたもの)が生活保護世帯に近づき、生活水準が逆転することも起こり得ます。

 現在、すでに、そういう傾向が出ています。生活保護政策の財源と称して低所得層の納税額が増えるようであれば、生活保護政策は経済成長という点でマイナスにしか作用しなくなります。

 由々しきことは、生活保護世帯が増えることで、勤勉な労働者家庭が労働意欲を失い、生活保護家庭とともに共倒れとなりかねない社会問題の事例が出ていることです。

 ただし、これは、生活保護の財源を、低所得者層への増税で賄っている現在の話であり、高度な所得累進課税によって、富裕層への増税で賄うようにすれば、生活保護政策も社会政策として持続できるだけでなく、経済成長政策となることによって、景気に良い影響を与えます。

 生活保護世帯は生産しませんから、経済のシステムから孤立しているように見えるかも知れませんが、政府から給付を受けたお金で消費財を買うことで需要が供給を創造し、つまり、投資家の投資を起こさせ生産に貢献します。

 現代社会の所得というものは、当の本人が生産しているかどうかはあまり問題ではありません。技術進歩のおかげで、全ての国民が生存するための必需品は、全ての生産設備の中のわずかな部分出来てしまっています。

 ただし、必需品と嗜好品の格差がインバランスなものとならず、必需品の生産に携わる労働者が正当に報われるように制度的な設計を行う必要があります。

 しかし、あくまで、生活保護は働けない者のための特別待遇であって、特別待遇が多いことが正常である社会はあり得ないので、正常とは何かの議論を含めて、生活保護者たちをそれぞれの国民の役割の中に組み入れて行く必要があります。

 失業者は、必ずしも働けないという条件を満たしませんから、それだけで生活保護者となるわけではありません。失業者とは、まだ働けるのに職を奪われた者という意味です。

 失業にはさまざまな原因がありますが、個人的な都合はわずかです。多くは、企業の営利目的の効率化のためであり、すなわち、政府の労働者を守らない政策のためです。

 つまり、企業の合理化や技術革新は労働者から職を奪うということになりますが、だから、政府は関係ないのではなく、それこそが、政府の最も苦心して手腕を発揮しなければならないところなのです。

 ケインズは、どうしようもない失業者にも職を与えよと言っています。所得の分配が目的ですから、与える職業については、生産の成果があろうが無かろうが考慮する必要はありません

 たとえば、穴を掘って埋めるだけの無意味な仕事でも構いませんがせっかくですから、何か社会の役に立つものの方が良いでしょう。

 出来るだけ多くの国民に貨幣が所得として分配されれば、投資家は利益を上げるチャンスを得て、国全体としての生産が増加します。

 そして、また、出来るだけ多くの国民というのは、誰にでも分配しさえすれば良いというものではなく、低所得者ほど限界消費性向が高いので、低所得者や貧困層に貨幣が分配された方が、景気が良くなり、むしろ国民および中小企業は多くのチャンスを得ることが出来ます。

 公務員は大して働かないくせに高い給与を得ていると言われていますが、そう考えれば、自分が生産したもの以上の給与を手に入れている部分は、生活保護と同様の所得移転です。つまり、所得の比較的高い層への、生活保護と同様の生産と無関係な所得移転にすぎないのです。

 しかし、公務員の高い給与はGDPの増大に貢献しているので、公務員の高い給与を守らなければならないとする意見がありますが、所得移転による所得からもたらされる乗数効果という意味ならば、生活保護の所得移転による乗数効果の方が、公務員の高所得者の所得による乗数効果よりも高く、GDPに寄与しています。

 公務員世帯と民間世帯とでは、現在約2倍の所得格差がついており、民間世帯の限界消費性向は公務員世帯よりも明らかに高いと考えられるので、政府支出総額が同じならば、公務員世帯の所得を下げ、低所得者減税や公共投資などによって民間世帯の所得を上げた方が経済成長します。

 こども手当ても、福祉も、生活保護も、それ自体は「生産を伴わない所得移転」ですが、それでも、富裕層からの税収によって低所得者や貧困層に所得再分配を行えば、(もし、富裕層から税金を取る政治力がないのなら、貨幣を発行して低所得者や貧困層に所得再分配を行えば)乗数効果においては効果の高い公共投資と同等の成果を上げ、経済発展に寄与します。

 それにも関わらず、自民党・公明党・民主党経済政策において、全て一致して、福祉と生活保護の財源の負担を応益税、フラット税、消費税の強化によって低所得者層へシフトさせ、給付からもたらされるせっかくの乗数効果を相殺しようとしているので、子ども手当も、福祉も、生活保護も、みんなダメになるのです。

 


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