①子供手当ての乗数効果

 

 ここからは、民主党政権がなぜ失敗し赤っ恥をかいて退陣したかの分析になります。

 どんな投資や消費にも乗数効果があります。ところが、民主党の菅首相は乗数効果というものを知りませんでした。だから、自民党から子供手当の乗数効果の予想を尋ねられたときに何のことか判らず呆然と立ち尽くし、応えられなかったのです

 民主党の赤っ恥はこれだけならまだ可愛げもありました。しかし、無知と純真の組み合わせならまだ良かったのですが、無知の上に、邪悪というものが組み合わさっていたので、国民は恐怖し、愛想を尽かしたのです。

 その邪悪さというものは、結局は緊縮財政主義であり、節約派であったことです。自民党と何ら変わるところはなく、ただ、人脈が入れ替わっただけだったのです。

 そして、その上に、相手をアメリカから中国に変えただけの自由貿易主義者であり、新自由主義者そのものであり、経団連と仲良くしたがりました。

 民主党は「地方に国の金を引っ張って来れるから自民党を支持しろ」と言っている自民党とまったく同じく、長崎県知事選のときに「民主党を支持しなければどうなるか分かっているだろうな」と恫喝までし、このことはマスコミにすっぱ抜かれたりしました。

 そして、民主党の野田首相による衆議院解散時の、その断末魔に、消費税増税の自民党、公明党、民主党の三党合意をやってのけ、国民に苦しみだけを残して政権の座を去ったのです。

 民主党政権が悪質だったのは、経済政策では役立たずのくせに、侵略を続ける中国の前で日本に武装解除をさせようとしたり、国内でも外国人に国家主権を引き渡そうとすることには熱心であったことです。それによって、国民に政権の交代や政治の変化に恐怖感を持たせてしまいました。

 今、日本人が政権交代に気が進まないのは、あの民主党政権時代があったからです。

 しかし、民主党が政権を取ったときに、子供手当のアイデアは政権が欲しいだけの空約束であったのですが、動機や理解力がどうであろうと、子供手当てが低所得者に対して行われれば低所得者を救済するのですから、このアイデアについては決して悪いものではありませんでした。

 また、バラマキという批判があったとしてもそれは当たりません。低所得層へのバラマキは正当な政策であり、かつ、有効需要を創出しますから景気を回復させます。

 ところが、民主党は財政均衡派から政府債務を拡大するなと文句を言われ、また、頑張った者が報われるべきで、頑張った者の所得に課税される法人税と所得税を増税してはならないという風潮にバカのように迎合していましたから、あろうことか、低所得者を最も圧迫する税金である消費税増税で財源を賄おうとしそれですべてがダメになってしまったのです。

 本来、野党は低所得者と貧困層の味方でなければならなかったのに、自民党のように経団連の大企業と付き合いたがり、低所得者と貧困層を敵に回し、低所得者と貧困層の所得を奪う消費税の課税を実行したのです。

 日本には与党も野党もいません。経団連に抱き上げられたい複数のグループがいるだけです。

 日本人には、その国民的体質からいわゆる思想を持つことは不可能です。何事も全員一致の万歳で締めくくらないと、気持ちが落ち着かないからです。万歳で全ては解決し、議論は白紙に戻ってしまいます。226事件でさえ、困窮する国民のために立ち上がった革命軍のはずが、天皇に承認を求めてしまうほどの体です。

 子供手当の乗数効果は次の通りです。

 どのようなお金でも、政府が支出し、市中に出た瞬間から同じように回転しますから、同じようにGDPの拡大効果があります。

 ただし、政府支出の先が低所得者や貧困層の場合は限界消費性向が上がるので、高所得者や中間層の場合よりGDPの拡大効果は大きくなります。

 この場合、子ども手当を受け取る家庭は、子供を作る程度の裕福さがありますから、中産階級を中心とする階層であろうと思われます。だから、国民全体の限界消費性向の変化はあまり期待出来ません。

 受け取った中からどれほどを消費に回すかという乗数効果の無限等比級数の初項は、受け取ったグループを中心とする階層の限界消費性向となります。

 テレビで子供手当てをもらった家庭では過半数が貯蓄に回すと言っていましたので、子供手当てを受け取る家庭の初年度の消費支出は例えば0.4と考えられます。つまり、初年度の子ども手当の支出1.0のうち0.6は中間層や富裕層の選択で貯蓄に回ってしまいます。

 こども手当てが何らかの控除の廃止を財源とするならば、限界消費性向0.7の家庭(初項0.7)から、その子供手当相当額に限っては限界消費性向の0.4しか使わない家庭(初項0.4)への所得移転となります。

 そうすると、子供手当ての政府支出の乗数効果を考えれば、等比級数の初項は0.4、公比は0.7となり、Y=0.4/(1‐0.7)=1.33・・・で、子供手当ての政府支出の乗数効果は1.33となります。

 他方、こども手当ての財源を扶養控除などの廃止で行った場合、日本の平均的家庭の増税となりますので、租税乗数が発生し、その乗数はマイナス0.7/(1‐0.7)=マイナス2.33・・・となります。

 その場合、合成された乗数効果はマイナス1.00ですから、当年度の経済的影響はGDPを1.00押し下げ、景気を悪化させます。(この1.00というのは子供手当て総額と控除の廃止による増税額とが一致する部分における子供手当て総額または控除の廃止による増税額に対する比率)

 子供手当ても2年目、3年目となると、子ども手当を当てにして家計の予算を立てるでしょうから、子ども手当の乗数は徐々に2.33に近づくでしょう。

 しかし、子ども手当をもらう家庭は、増税される側の結婚も出来ず、子供も持てない家庭より、若干裕福であると考えると、子ども手当をもらう家庭の限界消費性向が0.7を上回ることはないので、子ども手当の乗数効果は2.33より大きくなることはないはずです。

 そして、増税される側の家庭の限界消費性向が平均的家庭の0.7を上回れば、増税の租税乗数はマイナス2.33よりプラスに振れることはないはずです。

 よって、こども手当ての財源を扶養控除の廃止で行った場合、合成された乗数効果は、長年のうちにマイナス1.00から0に近づきますが、プラスになることはないでしょう。

 逆に、限界消費性向0.4以下の高額所得者層への累進課税で財源を賄えば、初年度から景気は上向くことになります。

 しかし、そのためには、仮に、(年収、消費性向)=(250万円、0.80)、(500万円、0.70)、(1000万円、0.61)、(2000万円、0.54)、(4000万円、0.47)、(8000万円、0.41)、(16000万円、0.36)、(32000万円、0.32)、という統計を採用した場合、子ども手当で乗数効果を初年度から黒字にするには、初年度は年収8000万円以上というかなりの富裕層の家庭から、子ども手当予算相当額の税収を増やさなければなりません。

 ただし、初年度から乗数効果を黒字にする必要は無く、数年後からのプラスの乗数効果を目論むなら、初年度は子供手当てがもらえるとは予想していなかったので貯蓄に回ったとしても、翌年度からは子ども手当は家庭の予算に組み込まれ、消費額は0.7に近くになると思われますから、長期的には、引き替えに徴収する貨幣として、限界消費性向0.7を下回る家庭つまり年収500万円以上の中間層以上の家庭に増税した分を当てるようにすれば、乗数効果は、長年のうちに差し引きプラスになります。

 例えば、限界消費性向0.6の家庭から税金を回収する場合のマイナスの乗数効果はマイナス0.6/(1‐0.7)=マイナス2.00です。子ども手当の乗数効果(プラス)は数年後には2.33に近くなりますから、数年後には、合成するとプラス0.33の乗数効果の発生が期待できます。

 ただし、この合成によるプラスの乗数効果の発生は、高額所得者から低所得者への所得移転の結果ということなのであって、子供手当ての独創性の問題ではありません。

 一般的に、高額所得者から低所得者への所得移転が順調に出来ている国は、毎年、プラスの乗数効果によって、その分、経済成長可能な体質を身に着けることが出来ます。

 また、税制や社会保障制度が低所得者や貧困層のためになるものに改正されれば、国民全体に安心感が生まれ、国民全体の限界消費性向を高め、そのことによっても、国家を経済成長可能な体質に変化させることが出来ます。

 このように、政府支出全体に対する乗数効果を考えた場合においても、子供手当のような給付型政府支出の乗数効果は、他の政府支出の乗数効果と比べても、見劣りしないものです。

 民主党政権時代の民主党政府が提唱した子ども手当は子ども1人に付月額26,000円を支給しようというもので、予算は5兆円になります。民主党が政権を担当した初年度は毎月13,000円でしたが、予算が確保出来次第満額実施する予定でした。

 子ども手当は、主として財源が無いことが自民党から批判され、次に、その財源として扶養控除の廃止を行おうとしたことで共産党から批判されました。民主党は両方ともに何の反論も出来ませんでした。

 そもそも政府支出の財源とは何かというと、政府支出によってマネーストックが増加し、インフレ傾向になることの対策としてマネーストックを回収しようとするもので、対価としての財源という意味はありません。

 しかし、民主党は、マクロ経済学について、この政府支出の財源という意味を理解していなかったため、財政均衡に凝り固まった自民党から財源問題を追及されたときに、何も答えることが出来ずに、せっかく良いアイデアであった子ども手当はボロクソに叩かれ、減額され、児童手当に変更されたのです。

 この新児童手当は、旧児童手当とほとんど同一のものですが、低所得者には、旧児童手当が廃止されたことによる増税の悪影響の方が大きくなったという結末でした。

 もともと、民主党は、所得再分配に関する経済学的な理論としては共産党と全く同じくマルクス主義しか持っていませんので、共産党と同じく民主党の持つどんな理論も資本主義的経済理論と戦えるように出来ていません。よって、民主党の子ども手当政策も簡単に論破されたのです。

 デフレ時においては、政府は平気な顔をして債務を拡大して支出すべきであり、あるいは、増税するとしても「高額所得者には増税、低所得者には減税」という基本を守るべきであって、間違っても低所得者に対する増税などをやってはならなかったのです。

 マルクス主義しか知らない民主党はそうした財政収支の赤字や政府債務の増加などはどうでも良いものだという認識も、資本主義社会において平等を実現するための最も重要な手段は税制であるという認識も持ちませんでした。

 財政収支や政府債務などどうでも良いものだという認識があれば、急激なインフレの心配をすれば良いだけで、財政均衡を心配する必要はありませんから、財源論に関する議論には勝てたはずです。

 しかし、その理解力を持たず、税収で補填しなければならないと思っていたとしても、富裕層からの税収の増加でなければなりませんでした。

 ところが、弱者の味方であったはずの民主党が、強者で日本の経済政策を仕切っているという経団連の味方になり、弱者に負担を押し付けてしまったのですから、この体たらくは野党にあるまじきものです。

 「子供手当て」と「低所得者への増税」をセットとする政策は、短期的に景気が悪化するだけでなく、長期的に見ても経済成長出来ない体質になってしまいます。

 その理由は、子供手当ての給付の乗数効果と、その財源としてしまった増税の租税乗数の計算から導き出されます。

 


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