③インフレ防止にかける富裕層の執念

 

 インフレこそが富裕層(投資家や債権者)最も恐れるものです。

 インフレになれば、富裕層は、資産である実質的な預金と債権の価値が減少し、デフレ時代の完全に優位であった投資家としての地位を失います。そして、所得である実質的な金利(名目金利からインフレ率を差し引いたもの)が減少します。

 逆に、低所得層と貧困層は、インフレになれば、住宅ローンなどの実質的な債務減少しますから、債務者にとってインフレは待ちに待った天の祝福になります。

 富裕層はじっとしていては莫大な損失が生じますから、もう一勝負せざるを得なくなり面倒なことになります。

 宝くじで5億円当たった者が一生働かないで暮らそうとしたときに、唯一心配なのがインフレだということを考えれば、インフレが貯蓄に与える損害の性質が判るでしょう。

 富裕層とは投資家や債権者のことであり、投資家や債権者とは、働かずにじっとしていても配当や金利などの不労所得が入って来る「利子生活者」という意味です。

 しかし、インフレになり、インフレ率が長期金利(国債金利)より高くなると、実質的な損失が生じますから、投資家や債権者はじっとしていられなくなり、すでに持っている国債を売却し、新発国債に乗り換えたりしなければなりません。

 そこで、買手が有利となることから、中古国債の価格が下がり、中古国債にキャピタルロスが生じます。

 投資家や債権者は、インフレになればこのようにジタバタしなければならなくなりますが、投資家や債権者の苦労を心配してやる必要はありません。

 デフレによる不況から脱してインフレになるということは景気が良くなるということであり、投資家や債権者はキャピタルロスを生じさせながらも中古国債を売り、新規国債を買うか、または、よりリスクが高いとはいえ、より利率の高い投資先に投資出来るようになるからです。

 ただし、好景気ですから、リスクが高いといっても極端に高いわけではなく、貸し倒れが生じても、他の債権の利益によって十分に補える程度のものです。

 それにも関わらず、投資家たちがインフレを恐れるのは、中小企業家や労働者たちが社会の主役として、そして、自分たちの競争相手として登場し、自分たちが今の安定した地位から追い落とされる可能性が出て来るからです。

 自民党政府は、投資家や債権者がわずかな冒険もしなくて済むよう、最大限の努力をして守ってやろうとしています。

 なぜかというと、投資家や債権者に損をさせないこと、および、投資家に市場を支配させることが新自由主義・グローバリズムの目的であり、自民党政府はそれに従おうとしているからです。

 しかし、本当は、国民に選ばれた政府である限りは、むしろ、投資家や債権者に対してその利益を抑制し、労働者や債務者の利益のためにインフレを許容するよう説得す責任があるはずです。

 アメリカがインフレになっているのは、政府が、曲がりなりにも、投資家・債権と労働者・債務者の利害を調整するという役割を果たしているからです。

 アメリカにおいて、政府が市場をまあまあのインフレに誘導し、その役割を全うすることについては、誰はばかることなく自主性を発揮出来る立場にあるからです。

 日本はどうかというと、自民党政府は、司令部を誰かに乗っ取られ、全てをコントロールされているかのようです。

 誰かとは、誰なのか実際のところは良く判りません。アメリカの国際投資家グループなのか、日本の経団連の独自の働きかけなのか、IMF・財務省連合なのか、それとも、自民党の頭が悪すぎて、そのいずれにも該当することなく、勝手に間違いを犯しているだけなのか、どれなのか分かりません

 なぜなら、自民党政府は、インフレを防止することに一途であり、そのためにナリフリ構わず、ゆえに経済政策において他の国のどの政府よりも愚鈍に見えるからです。実際、自民党の思考停止という点に関しては、愚鈍または無能という表現が最も能く当てはまるでしょう。

 つまり、自民党政権下にあっては、インフレを防止するために、あろうことか、低所得者や貧困層に対して、税負担や社会保険料などあらゆる貨幣回収の手段が強化され、また、公共投資や社会保障制度による給付や補助金が削られます。

 国家の存在目的という点において、本末転倒にもほどがあります。

 低所得者や貧困層といった消費性向の高い国民(低所得者と貧困層)にお金を持たせない国民貧困化政策が、最も基本的なインフレ防止の手段になります、

 今、まさに、税金や社会保険料といった貨幣回収の矛先は、富裕層から低所得者・貧困層に付け換えられています。

 高所得者の税金(法人税と所得税の累進度)を軽減する理屈は、「頑張る者」が報われるべきだという、本来なら労働者の苦労に向けられるべき感情を、投資家や債権者のギャンブル行為に向けさせることで成り立っています。

 そして、さらに、この感情は、高所得者の貯蓄が資本となって経済成長をもたらすという新古典派経済学の成長理論で補強されています。

 投資家や債権者という富裕層の税金を軽減するときは、努力する者が報われるべきという理屈によって行われ、低所得者や貧困層に税金を重くするときは、財政破綻の危機があるので、国民自身が負担を分かち合わなければならないという理屈によって行われます。

 この二つの理屈は、互いに矛盾しています。頑張る者が報われるべきであれば、低所得者の税金を軽減してやらなければなりません。低所得者は身を粉にして働いています。

 同時に、財政破綻の危機があるのなら、高額所得者にも税金の負担を増やしてもらわなければならないはずです。

 これらの屁理屈への反論は、頑張る者の定義からでも、経済成長理論からでも、どこからでも論破できますが、特に、財政破綻論が簡単に論破できます。

 しかし、日本では経済学者や政治家の誰もその議論をしようとしません。

 財政破綻論者は、政府債務が2000兆円、4000兆円、8000兆円と膨大になると、富裕層や金融機関がある日突然国債を買わなくなり、財政が破綻すると言っていますが、政府債務が増えることによって、なぜ、富裕層や金融機関がある日突然国債を買わなくなるのか、説明されたことはありません。

 しかし、財政破綻がデフォルトという意味なら、通貨発行権がある限り、それはあり得ないと簡単に論破することが出来ます。

 だから、財政破綻論者の言う破綻とは、デフォルトのことではありません。

 財政破綻論者の言う破綻とは、国債を見捨てた富裕層や金融機関が、しゃにむに、余剰資金を他の投資で稼ごうとするので、その投資行動がインフレを経て、さらにハイパーインフレを引き起こすことであると言っているのです。

 しかし、そのとき、インフレになるとは言わないのです。いきなり、ハイパーインフレになると言うのです。

 なぜ、財政破綻というときにハイパーインフレを持ち出すかというと、ゆっくり来るインフレでは危機が表現出来ないし、むしろ、今、デフレから脱却してインフレにしようという国民的な合意が得られているので、政府債務が増大することによってインフレになるのなら、もっと政府債務を拡大させた方が良いという、正に現在行うべき正しい政策を要求する意見が出るからです。

 ちなみに、政府債務の拡大によって、低所得者に所得再分配される場合は、普通のインフレとなり、国民の底辺にまで行き渡る経済成長をもたらします。

 しかし、現在の日本では、消費税や固定資産税などの応益税が仕込まれてい、低所得者に所得再分配されないように、財政支出しても低所得者から所得を回収するように、大変巧妙なやり方で政府債務拡大されていますから、富裕層の貯蓄の増大をもたらすだけで、経済成長は達成出来ません。

 大方の財政破綻論者が言うように、いきなりハイパーインフレが襲って来るということは歴史上かつてありません。

 ハイパーインフレが来るときは、その前に必ずインフレが来ます。しかし、当面はインフレがやって来ることが国民に知られると、デフレ主義者の自民党にとって都合が悪いのです。

 本当に、財政破綻論者が怖がっているのは、ハイパーインフレなどという漫画のような終末世界ではなく、微弱なインフレであり、つまり、普通のインフレなのです。

 自民党政府が何をやっているかというと、財政破綻という言葉でハイパーインフレを連想させるように印象操作を行い、ハイパーインフレを防止するためと称して、実際は穏やかで緩やかな普通のインフレを防止しているのです。

 ただし、輸入する原油の値上がりや円安によって起こるスタグフレーションは、国民全体を合計した消費総額(名目GDP)を引き上げませんから、デフレの継続的な形態に過ぎず、インフレではありません。

 自民党政府は、異次元の金融緩和を行うことで、あたかも、インフレ誘導に積極的であるかのようなフリをしようとしていますが、裏では、いくら金融緩和を行っても決して信用創造が起こらず、インフレにもならないように、かつてどの政権も成し遂げられなかったほどの間接金融が止まる仕組みである「地価下落による担保破壊政策とBIS規制」をガッチリ仕込んでいます。

 自民党政府の経済政策は、どれもこれもペテンであり、茶番劇です。

 デフレの状況においては、金融緩和そのものはもちろん行わなければなりません。金融緩和はインフレへ誘導するための必須の政策であり、肯定出来るものです。しかし、自民党が金融体制を破壊してしまっていますから、いくら金融緩和をやってもインフレは絶対に起こらないのです

 そして、自民党はいまだに金融緩和に効果があると思っているかのように装い、とぼけて、金融緩和をしてインフレを起こすと、国民をだまし続けています。

 つまり、自民党政権は財務官僚の助言を得ながら、金融体制が破壊されていることを確信し、金融緩和によってインフレが起こることは無いと言う予測の下に、金融機関が既存の債権の取り立てを強化させない目的のためにだけ、つまり、国民が死ぬ一歩手前の状態を維持するためにだけ金融緩和を行っているのです。

 

 

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