③政府債務が八千兆円となっても破綻しない

 

 「2014年4月28日財政制度審議会が、2060年に政府の借金が8000兆円になるとの試算を発表し、国や自治体は歳出の大胆な見直しやさらなる増収策に早急に取り組むことが必要だと警鐘を鳴らしています。」と各新聞報道がありました。

 政府やマスコミは相変わらず幼稚な手法を使って、危機を煽り、低所得者や貧困層から税金を巻き上げようとしています。

 46年後に8000兆円になったとしても、そもそも、デフォルトという意味における借金ではないという事実がありますが、仮に、借金としても、46年後の8000兆円がどのような価値のものか、つまり、その時の物価がどのようになっているかを言わずに、ただ8000兆円とだけ言うのは悪意があるとしか思えません。

 大卒初任給で比べてみれば、2014年の46年前は3万円、現在は20万円で、約7倍に増えています。バブル崩壊後の超長期のデフレで20年間の停滞があっても、なお7倍になっているのです。

 消費者物価は同期間で約3倍、名目GDPは約10倍になっています。間に20年間のデフレがあって、この差ですから、今後の46年間は、どんな政府でも、いくら何でもいつかはデフレを止めるでしょうから、想像も付かないくらい、大卒初任給、消費者物価、名目GDPは大きくなっているものと思われます。このような他の指標を無視して、8000兆円という絶対額だけをあげつらい、危機感を煽るのは姑息と言うべきでしょう。

 村山内閣時代の1995年11月大蔵省は財政危機宣言を出しました。この財政危機宣言は、翌年から始まる橋本内閣の財政政策に大きな影響を与えました。なにしろ、村山氏も橋本氏も経済に関してはシロートでしたから止むを得ません。

 その1995年当時の日本のGDPは501兆円、政府および自治体の債務は477兆円、消費者物価指数は101です。(消費者物価指数2010年=100とする)。マネーサプライは520兆円でした。

 2014年の日本のGDPは492兆円、政府および自治体の債務は1200兆円、消費者物価指数は102、マネーストックは1200兆円でした。(2008年から、通貨供給量の指標および呼称がマネーサプライからマネーストックへ変わりましたが内容はほぼ同じです。)

 財政危機宣言を出した1995年から2014年に至るまでに、日本のGDPは変わらず、政府債務だけが2倍以上に増えているのに、財政破綻の兆しすらありません。それでは、あの時の政府の財政危機宣言とは一体何だったのでしょうか。

 なぜ、2014年の政府および自治体の債務が1200兆円となっても財政破綻しないのかという疑問は、まず、財政破綻の定義が行われていないということが言えますが、破綻論者が言うように財政破綻の意味がハイパーインフレであったとして、なぜハイパーインフレが起こらなかったかという疑問でもあります。

 その理由は簡単で、政府債務の拡大およびマネーストックの拡大と物価は必ずしも関連していないからです。

 政府債務が拡大した分だけ、マネーストックも拡大して来たのですが、物価は上がっていません。ハイパーインフレどころか、インフレにもなっていません。

 つまり、貨幣数量説

 Y=P×Q=×V

は現実という実験の場において否定されたわけです。

 これは、マネーストックと「物価に影響を与える貨幣量」が異なることを意味しています。

 「物価に影響を与える貨幣量」は、ケインズにおいては、取引動機による貨幣保有量(M1)と分析されていますが、簡潔を期すため、以下「活動貨幣M1」と呼びます。

 ケインズは貨幣数量説を否定し、貨幣数量説に代わる方程式を提案しています。

 Y=P×Q=M1×V

 中小企業、低所得者、貧困層の保有する貨幣はそのほとんどが活動貨幣M1です。

 マネーストックが増えても、活動貨幣M1が増えていないのは、消費税によって低所得者や貧困層の所得が奪われ、あるいは固定資産税制によって地価が下がり、間接金融が機能しにくくなっているために、中小企業、低所得者、貧困層という、限界消費性向が高い階級に貨幣が回らなくなっているからです。

 すなわち、自民党政権によって国民貧困化政策が行われているからです。

 中小企業、低所得者、貧困層に貨幣を持たせるためには、結論を言ってしまえば、消費税建物固定資産税、社会保険料の廃止しかありません。中小企業、低所得者、貧困層から貨幣を奪い、国民貧困化政策に使われているのが、この3つの税金だからです。

 消費税の廃止によって限界消費性向の高い低所得者の所得を増やし、消費を増大させることが出来ます。なぜなら、消費税は付加価値にかかり、経営者をして、付加価値の大部分を占める賃金から消費税分を削り取らせる税金だからです。

 また、建物固定資産税の廃止によって地価を上げ、その担保力に基づく信用創造の拡大によって、中小企業も投資できるようになり、低所得者の所得を増やし、消費を増大させることが出来ます。

 建物固定資産税による地価の下落は、本ブログの「建物固定資産税を廃止せよ」で述べるように、担保力破壊、中小企業融資の停止をもたらしています。

 中小企業融資の停止は所得再分配および経済成長にとって致命的です。中小企業の雲霞の如き多数の小規模投資は、労働力調達の競争を熾烈化させ、事実上の完全雇用が達成され、賃金を上昇させ活動貨幣M1を増大させます。

 賃金を上昇させる方法は、完全雇用の達成(またはそれと同等の雇用率の上昇)しかあり得ず、完全雇用の達成中小企業の投資の活発化による以外ありません。

 大企業寡占状態を放置して、制度的に最低賃金を上げても、大企業が非正規の労働者ばかり雇っている状況では、労働者が使い捨てにされる状況が変化することはなく慢性的失業者が減少することはなく、そして、賃金は下がり続けるだけです。

 消費税や建物固定資産税といった性質の悪い税金を廃止すれば、財政政策と金融政策(担保力回復のための資産制度政策を含む)を少し行うだけで、所得再分配の機能が有効に働き、すぐにでも活動貨幣を増やすことが出来ます。

 現在の日本では政府債務が拡大された分だけマネーストックが増えても、活動貨幣M1が急いで回収され、休眠貨幣M2ばかり増えるような仕組みになっていますから、インフレに成りません。

 現に、政府および自治体の債務が1200兆円になっても、消費者物価指数は102、GDPは492兆円で止まったままです。

 極めて普通に予想されることは、このまま行けば、政府債務が2000兆円、4000兆円、8000兆円へと拡大し、政府債務がGDPの16倍に達したとしても、インフレにもならず、そして、名目GDPはほとんど横ばいのままであろうということです。そして、その予想を否定すべき材料はどこにもありません。

 そのときに、日本の状況はどこに行き着くのか考えると、何やら漠然とした恐ろしさがありますが、その恐ろしさの正体は、デフォルトでもインフレでもなく、何やら分けの判らない財政破綻でもありません。

 今の税制や金融制度をそのままにしていれば、政府債務の拡大でマネーストックMをいくら増やしても、休眠貨幣M2が増えるだけでが、休眠貨幣M2が増えるということは、富裕層の所得が増えるということですから、インフレは起こらずに、格差の拡大が起こるということです。

 すなわち、インフレにもならず、そして、名目GDPも増えないのに、政府債務だけが2000兆円、4000兆円、8000兆円へと拡大して行くことの恐ろしさの正体は「格差の拡大」です。

 

 

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