科学の可能性と限界。 | 零細企業の闘魂日記

【ダウン症薬、初の治験へ…生活能力低下を抑制】
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130628-OYT1T01605.htm
『思春期以降のダウン症の人に見られる日常生活能力の低下を抑えることを目指す初の臨床試験(治験)を、製薬会社「エーザイ」(本社・東京都)がアルツハイマー型認知症治療薬を用いて始める。』
 
『効能が認められれば初のダウン症薬となる。研究が遅れている成人期ダウン症の人の生活の質を高める可能性がある。』
 
『薬は、1999年から、認知症治療薬として広く使われている「アリセプト」(一般名・塩酸ドネペジル)。治験は8月から全国10病院で、能力低下症状の見られる15~39歳のダウン症の人数十人を対象に行い、3~4年かかる見通し。結果を踏まえて厚生労働省がダウン症の症状を抑える薬として認めて良いか審査する。』
 
亡くなった私のオヤジはアルツハイマー型認知症を患い「アリセプト」を処方してもらったが、まったく何の効果もQOL(生活の質)の改善も見られなかった。症状の進行度や体質との関係があるのだと思うが、当時はまだジェネリック薬がなく薬代がハンパではないぐらい高かった。薬代をケチッたわけではないが、主治医の「処方しても無駄」との判断で止めた。
 
理論的には脳内のアセチルコリン分解酵素を阻害することによりアセチルコリン量を増やして脳内コリン作動性神経系を賦活することになっているものの、実際にその通り作用しているのかどうか確認のしようがなく、アセチルコリンの増加が容易に定量できるわけでもない。
 
果たして数十人程度の治験者で「生活の質を高める可能性」を医学的に判断できるだろうか?なにしろダウン症の人の症状は個人差が大きく、比較対照群の見当がつかない。統計処理で有意差を求めることは他の治験と同様だと思うが、このような場合、しばしば統計学はウソをつく。
 
 
【ノロ捕まえる腸内細菌発見…北大などのチーム】
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130629-OYT1T00048.htm
『食中毒の原因となる「ノロウイルス」を大量にくっつけて除去する腸内細菌が見つかったと、北海道大などの研究チームが28日、発表した。』

『治療薬の開発や、水を浄化するバイオ技術に応用できる可能性がある。米ウイルス学専門誌(電子版)に掲載された。』

『ノロウイルスは、人の消化管に入ると、小腸の細胞表面にある「糖鎖」と呼ばれる構造にくっついて入り込み、激しい下痢や嘔吐おうとなどを起こす。』

『北大の佐野大輔准教授(水処理工学)らの研究チームは、人の便の中から、小腸の糖鎖とよく似た糖鎖を表面に持つ腸内細菌を発見した。この細菌を培養してウイルスと混ぜたところ、条件が整えば細菌一つで1万個以上のウイルスを吸着し、細菌ごと除去できることが分かった。』

『この細菌は、人の腸内でよくみられる菌で、ノロウイルスに感染した時に症状を軽くしている可能性がある。佐野准教授は「菌の毒性など不明な点も多いため、治療などに使えるかはさらに研究が必要だ」と話している。』
 
腸内細菌でかつ通性嫌気性(酸素があってもなくても生育可能)となると、直感的に思いつくのは腸内細菌科、つまりエンテロバクター科の一種ではないか?
 
いわゆる「腸内細菌」と一言で言っても、大部分は腸内細菌科に属さない偏性嫌気性細菌(酸素のない環境でのみ生育できる)が占めている。
 
もし私の予想が当たっていれば、エンテロバクターの仲間は無毒のものからエンテロバクター・サカザキのような強毒性のものまでいる。一方、ノロウイルスは毒素を分泌するわけではないので、「ごきぶりホイホイ」のように吸着させてポイと除去する発想は面白い。

ただし、この細菌の毒性の有無のほか、以下、2点について確認する必要があるだろう。

 

・in vitroでは、この細菌の糖鎖にノロウイルスが吸着されたとしてもin vivoで、小腸上皮細胞の糖鎖とこの細菌の糖鎖とでは、どちらのほうがAffinity(親和性)が高いか?


・ノロウイルスを吸着したこの細菌自体がノロウイルスの毒性により死滅しないか?仮にそうだとすると細菌上でノロウイルスを増殖させ、結果的にもと以上の個体数を四散させることにならないか?


さらなる研究結果を待ちたい。