なれそめー58ーの続きです。
私の決心の果ての提案は、なぜかあっさりとヒマポに受け入れられたばかりではなく、いつの間にやら私の方が一大決心をして同居生活に臨まなければならないような雰囲気に逆転されてしまいました。
翌朝、起きた瞬間に「あれ?なぜにこんなことに?」と首をひねりましたが、愚かなことにちょっとだけ将来が楽しみなような気分になってきたのです。
浮気をされた側としては、傷ついた気持ちをなんとか取り戻すためにまず
「自分は愛されていないわけではない」
そして
「相手が一番愛しているのは自分のはず」
という確認をしたくなるものだと思うのです。
ところが私の場合、あまりにもあまりにもヒマポの浮気というか、誰のことも本気じゃなかった的行動がひどすぎたことと、私に対するいじめが非人道的だったせいで、そこらへんの感覚は完全に麻痺してしまっていました。
彼が私のことをどう思っているのか、という以前に、私自身が彼のことをそこまで好きなのかどうかということすら二の次になり、仕返しをすることから始まり、ギャフンと言わせることでつじつまを合わせようとすることに躍起になっていたようにも思います。
それは、すべての事実をつまびらかにしてヒマポの眼前に叩きつdけることである意味叶ったわけですが、彼のひきつった顔や声を思い出しても、なんだか100%スッキリしないまま。
胃のあたりにモヤモヤモヤモヤとした、未消化の怒りやストレスが石のように居座ったまま。
そして、小心者のはずなのにここまでの悪事がバレても正面切って
「ごめんなさい」
といえてしまうヒマポの妙な勇気にも、なんだか納得がいきませんでした。
だって私だったらここまでの悪事が露見して、相手に「お前、こういうことしてこういうことやってこんななってこうだろう!!」と突きつけられたら、もうビビりまくってチビって腰を抜かしたまま逃げ出します。それなのにある意味正々堂々と「君の言うとおりだ、僕が全面的に悪い。ごめん」と正面切ってスッパリと言えるなんて。
それが故に私の心の中の『本当に自分がしたことの罪深さを理解していないのではないか』という疑念がどうしてもぬぐい去れなかったのです。
心の奥底ではちゃんと理解していました。
「こんな風にして一緒に住んでも絶対にロクなことにならない」って。
でも、振り上げた拳をどこに下ろせばいいのかわからないというか、成り行き上こんなことになったけど、言い出しっぺの私が
「やっぱりやめとこか」
と言い出せないというか。
それに、そうなんです。
こんなことになってさえも、私の心の中にまたポツンと明かりが灯ったのです。
「こんな無茶ぶりを受け入れてくれたんだから、もしかしたら私のことをちゃんと好きになってくれているのかな。この先は心を入れ替えて、二人できちんとやっていけるんじゃないかな」
という儚い希望の光です。
そうなれば、私の中のこのどうしてもつじつまが合わない屈辱や怒りやストレスが、時間をかけてでも解消していけるかもしれない。
そうか。
それならば、私もコミットメントすることを覚悟して、今日からその準備を始めようか。
足元のチョビがホヘーとのんきな顔で見上げている。
この頃は、いつのまにやらヒマポとチョビはソウルメイトということになっていて、ヒマポは私に会いに来るというよりはチョビをお散歩に連れ出すためだけに私の家にやってくるようになっていました。
チョビもヒマポが玄関先に現れると、何をおいてもまず駆け寄り、大喜びでジャンプしていました。
二人で出かけると数時間は帰ってこず、戻ってきた時のチョビの笑顔はいつも最高でした。
こんなにチョビを可愛がってくれるんだし、本当にもしかしたらのもしかしたで、G先生の言う「奇跡」が起こるかもしれない。
よし。
そうと決まったら、まずは部屋を片付けよう。山ほどある衣類や靴を片端から捨てて、クローゼットの一つはヒマポのためにあけておこう。セカンドベッドルームはヒマポがくつろぐ部屋にしてあげよう。
ゴソゴソと片付けの準備を始めながら、愚かな私はちょっとだけ楽しくなりはじめていたのです。
今の私がタイムスリップして、あのブルックリンのアパートのキッチンに行けたなら、あの時の自分をふんづかまえて3連発往復ビンタしてやりたい。
甘い。
甘いんだよ。
とことん甘いんだよ!!!
<人生一筋縄じゃいかない。もうホントいい加減にしてー。待て、次号!>