▼ ステロイドの思い出
1980年代に、台湾に住んでいたことがあります。そのとき、日本から若者が旅してきて、これからインドへ行くとのこと。
「インドは衛生状態が良くないでしょ。ケガしてばい菌が入ると、大変なことになる。旅行中なので、保険がなく、そうなったら医者にはかかれない。なので、万が一に備えて、日本にいたとき、知り合いのお医者さんに頼んで、ステロイド入りの塗り薬を手に入れたんだ。」
そう言って、かばんの中から大切そうに、嬉しそうに、自慢そうに、3センチほどの小さなチューブをそっと出して見せてくれました。薬局の店頭で売っていないということは、銀色に光るチューブに商品用のラベルが貼っていなかったことからすぐにわかりました。
傷薬と言えば、オロナイン軟膏しか知らなかったわたし。
当時、わたしもインドへ行きたかった。でも、まさかステロイド入りのチューブが必携品とは知りませんでした。なので、ぜひともその貴重な薬を分けてほしかったのですが、極秘の薬とばかりに、そっとかばんの中にしまう彼を見たら、なにも言えなかった。
処方箋がないと買えない薬・・・。
そのあと、日本人の同僚がアメリカに引っ越し、結婚、出産、子育てをしていました。あるとき、彼女が、息子が腕にやけどをした。知り合いから薬局でステロイド入りの薬を売っているので、それを塗ったらよいとアドバイスを受けました。その通りにしたら、傷跡がまったくわからないほどに回復したとの連絡あり。
わたしは、日本に帰国していて、薬局でステロイド入りの軟膏を探しましたがなかった。
その後、カナダに引っ越し。しばらくして、わたしも、腕にやけどをしてしまい薬局へ。
売っていました。ステロイド入りの塗り薬としては有名な製薬会社で、ビタミンE入り、ビタミンC入りなどが10種類近くも。ただし、ステロイドだけの薬は売っていませんでした。
効果は強い、でも、副作用も強い。使い方を守らないと、危険だから。
治療に使うステロイドについては、使用者は、その薬がからだの中でどんなことを引き起こしているのか、きちんと理解している必要があるんだと、そのとき、思いました。