読了記録

 

 

 

皆川博子 長編推理コレクション 1

虹の悲劇 霧の悲劇

皆川博子(編:日下三蔵)

柏書房

 

 

収録されている二編のうちの

後編『霧の悲劇』読了

 

 

前編の『虹の悲劇』と同様に

祭り会場の場面からはじまり

 

こちらは、熊野那智大社の

神事である火祭り

 

訪れているのは

タクシー運転手である 朔次 

その客をおろしたあとの車の前に

ふらふらと飛び出してきた記憶喪失の女

久子 

 

持ちものの中の守り袋に入っていた

和紙への記載からその名で呼ばれていて

 

同じく、その守り袋に入っていた

守り札に印刷されていた

「熊野那智大社」 を頼りに

 

記憶が戻る手助けになるかと

やってきたけれど

朔次 は 久子 とはぐれてしまい

その行方を探すこととなるパートと

 

清掃会社に勤務している 古葉功

 

同僚(嘱託員)の 粟田吾郎

拳銃で胸を撃ち、変死し

 

その真相を

追いかけていくことになる

パートとが

 

交互に進行し

やがてひとつに繋がっていく構成

 

構成自体も前編とよく似ているけれど

それは、突き詰めていくと

行き当たるのは「戦争」というところも

同様で

 

著者本人も

この刊行にあたり、読み直したところ

「重い素材を扱っていたことに

驚きました。」とのことで

 

続く記載によると

「生まれた翌年に満州事変、

そして長い戦争。十五歳で敗戦。

その後の数年は、食を得るのも

大変な時期でした。」と

 

経験に基づく、というか

「戦争」というものの

得体のしれなさ

人を変容させてしまうその怖さ

その異様な空気のようなものが

じわり、じわり、と感じられる

二編だった気がします

 

 

巻末の、編者である

日下三蔵 氏の解説によると

 

この復刊コレクションの打診を

著者である 皆川博子 氏にしたところ

 

「『死の泉』でファンになってくれた読者は

ガッカリしちゃうんじゃないかしら」

とのお返事があったそうなのですが

 

うん、とてもよく、わかるのです

 

私が心酔するきっかけとなった作品も

なにに引っかかり、取りこまれたか

というと、その耽美性、だったりするので

 

それを思うと、この作品は

そういった著者の

私が思う、真骨頂的な部分は

なりをひそめていて

 

といって、ガッカリした

というわけではなく

 

前述の通り「戦争」というもの

その異様さをじわっとひたっと

こちらに伝えてくるその感じには

著者らしさが感じられる気がして

 

やっぱり読むことができて

とてもうれしかったのです

 

 

同じく巻末で、編者の日下三蔵 氏が

しごく的確なコメントをされていて

思わず、うんうん、と

首肯いてしまったのだけれど

 

「お気に入りのフルコースを作ったシェフの

一品料理なら、ぜひ食べてみたい

と思うのは人情だし、一品料理を食べて

「フルコースほどの味わいがない」と

不満を感じる人もいないだろう」

 

まさに、それ、なのである

 

 

というわけで

一品料理、美味しくいただきました

 

ごちそうさまでした

 

 

 

ところで

御歳 93歳の 皆川博子 先生

今年も(まさに今月)新刊が!

 

読んだことのない旧作の山に

さらには最近の新刊

(これも山になりつつある)に

文字通り、挟まれて

 

なんとも、うれしい悲鳴状態

続行中、なのであります

 

いや、ほんとにちょっと

ペースをあげていかないと

すべてを読み切れないかもしれない…?

 

 

がむばらねば ニコ