『劣化するオッサン社会の処方箋』を読んで執筆者・山口周氏への手紙
この本を読み、自分の属する職場の問題と重なることが多いため、執筆者の山口先生へ手紙を書きました。
以下です。(読みやすくするため、見出しを挿入しました。)
本の内容は、社会や会社の中堅を担うオッサン(中年男性)が劣化しているということで、まさにわが会社で起こっていることです。
以下、山口氏への手紙
ーーーー
初めてお便りを差し上げます。
お忙しいところ恐縮ですが、『劣化するオッサン社会の処方箋』を読み、自分の置かれた環境に酷似していることから、感想をお送りする次第です。「似ている」とは、自分個人の状況と会社の状況の双方が、です。自分個人の状況とは、会社人間として生きて来た自分が今向き合いつつある課題がまったく本書で述べられている通りだからです。また会社の状況とは、オッサン化した会社が私の後輩の職員に対してパワハラを行い、私が組合に訴えて告発して勝利を得たのですが、いまだ完全勝利とは言えず、あらためて会社と職員、リーダーの劣化が見えてきたからです。こんなことが全国いろいろな場所で行われているのかと思うと、日本の将来を危ぶんでしまいます。
先生のご専門にも関係するので、少し詳しく説明します。
私は現在中規模の出版社で書籍編集に従事しております。それまで果たしてきた自分の責任を退くにあたり、後輩の女性編集者を管理職として推薦しました。一口で言えば、やり手の編集者です。私同様、転職組みです。仕事の指導は厳しいものがあります。しかし、それだけに編集の活性化に能力をいかんなく発揮し、新人の育成にも目を見張るものがありました。
パワハラというのは、この女性に対して上司である部長が行ったものです。私はこの女性を後任の現場責任者として推薦しましたが、部長がそれを拒否。平の職員のままで現場責任を負わせるという、異例の人事を行いました。理由はさしたることではなく、おそらく、鼻っ柱が強いやり手の女性が大っ嫌いということだと私は思っています。なにしろ、部長は彼女の仕事の内容をほとんど知りませんから、(つまり、現場をまかせっきり)理由として考えられるのはその程度のことです。端的に言うと、地位は与えずに(職権も)、責任だけを負わせたということです。
この上司は現場を知らずに総務畑から現場の部長になった人間です。人望がないくせに人に取り入る知恵はたけていて、経営者を幻惑させて今の地位につきました。まさに、三流の人間が三流の人間を選んだわけで、会社の劣化はここから始まったと言っても過言ではありません。そして、案の定、この三流部長が部署をめちゃくちゃにして経営を混乱させ、挙げ句の果てにパワハラ事件を起こし、しかも組合から訴えられて事実を認めざるをえなくなって処分され、最後には退任するという前代未聞の状況となりました。
ところが、会社にとってさらに不幸だったことは、本来ならこの部長を阻止して会社の健全経営に責任を負うべき部下の管理職が、この部長の取り巻きになってしまったことです。そのために、部長がいなくなったのに悪弊がそのまま温存されています。
パワハラの経緯。違法命令
参考までに、パワハラの経緯をお伝えします。
先ほど述べたように、女性後輩は昇進を拒否されたので管理職ではありません。したがって残業が発生します。実質的には現場責任者ですので、緊急時の対応はすべて彼女がします。そのせいもあって残業が36協定(労働者と経営者との間で取り交わされている残業の上限)を越えました。それが部長の怒りを買ったわけです。なぜなら、部長が管理責任を問われるからです。管理職にせずに、職員に重責を押し付けた上、それによって発生する残業の責任まで「お前の仕事のやり方が悪いからだ」と言って押し付けたわけです。
具体的には、彼女を呼びつけて残業を非難し、自己努力で残業を減らせ(つまりはサービス残業をせよ)と命令し、命令に反する場合は「処分する」と再三にわたって脅しました。「会社としては(実際は自分が)、社労士から君の残業が36協定違反であると指摘されて困っている。自己責任で月の残業を今より40時間減らせ。これは命令であるから、従わない場合は処分する」と述べました。
実は、私もその席に同席していたので、確かにそれを聞きました。
もちろん、ただちに抗議しました。「36協定は労働者の権利であり、それを守る義務を経営者・管理職に負わせているのだ。権利の主体である労働者に向かって、その権利を守らないから罰するとは何事か。そもそも、36協定順守義務を負っているのはあなたではないか。あなたが彼女の過剰な仕事を割り振って、しかもそれに見合う地位を与えていないのではないか。今から社労士のところに行って、その言い分が通るかどうか聞いてみよう。いや、労働基準監督署に行って争ってもいいが、どうするか」と。
違法命令後も続いたパワハラ
そこまで聞いて部長は何も言い返せずに沈黙しました。そこで、結局私が仲介して、彼女の負担を軽減するために仕事を他の職員に部長が責任をもって配分するという案で決着させました。ところが、その約束が知らぬ間に白紙にされていたばかりか、部長の管轄下にある管理職を臨時に招集して彼女を呼び出し、居並ぶ管理職の中で再び彼女の残業を非難しました。それを抑止すべき管理職は何も言わなかったそうです。言わなかったばかりか、「彼女の仕事のやり方が悪いからだ」との論理に同調したと言います。
とにかく、この部長は面と向かって反論しても、次々と論点をずらしていき、人を煙に巻いていきます。仕事はできないのに、その点では驚くほどの才能を発揮しました。聞いていて、こちらが感心してしまうほでです。サイコパスではないかと私は疑っています。
結局、いくらかけあってもラチがあかず、状況はますます悪くなるばかりなので最後に組合に訴え、団交の末に勝利を勝ち取りました。部長は減給処分でした。(その後、もっとひどい乱脈が職場で起こって退任させられましたが、それはずっと後のことです)
この件で相談した弁護士は、「残業で労働者を罰することはできない、そのできないことをできるかのように語って脅しているということで、パワハラに該当するのではないかと思う」と言いました。月40時間を自己努力で減らせと言われた件を話すと、「月40時間ですか……異常ですね」とも言いました。法定労働時間が1日8時間とすると、40時間は5日分、つまり1週間分の労働時間に相当します。これを減らして今まで通りの仕事をせよ(つまりは、3週間で4週間分の仕事をせよということ)と言われたら、どんな労働者でも目の前が真っ暗になるでしょう。
事なかれ主義のまん延
この部長は劣化の最たるものですが、取り巻きの事なかれ主義、および彼を選んだ会社の上層部の人物を見る目のなさも劣化の結果です。今は、私は、彼女の復権のため、会社の正常化のために最後の闘いをしようと思っているところです。唯一の慰めは、この騒動を通して職員の中に理解者が増えたことです。最初は誰も関心を払ってくれませんでした。しかし、みんな、明日は我が身と思いはじまてくれました。人権、労働者の権利が保障されないところでは、安心がありません。権力のある(職権のある)者の恣意的な考えで下の人間を支配されては困ります。
というのが、この本を読んでいる私の置かれた現在の職場環境です。組織の劣化、著しいものがあります。それと、私も彼女も転職組みでここでのやり方がすべてとは思っていません。ところが、部長始め他の管理職のほとんどは「生え抜き組み」で、この組織しか知りません。彼女の才能を理解して会社・職場の利益のために最大化するという発想はなく、異端児は排除したいという思いが透けて見えます。これでは、この組織自体が硬直化して淘汰されていくのではないかと思っています。
ーーーーーー
以上が、著者の山口氏への手紙です。
多少、経過ははしょってありますが、今現在も続いている私の職場の状況です。
この手紙には書いてありませんが、部長が彼女を窓際に追いやったまま(つまりは現場責任をはずした)で、仕事が干されている状況が続いています。さて、どうして彼女の人生を取り戻すことができるか。先輩としては、なんとかしたいと思っていますが、私自身には、今は職務権限がないことなので、どこまでできるか思案しているところです。