永六輔の遊び心が出ている「せきこえのどに浅田飴」a。 | barsoのブログ

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そんなに混んでない電車内で、ほんのかすかにコホンとマスクの内でセキをしたら、隣の席の女性がさっと立ち上がって離れて行きました。昨年のことですが、悪いことをしました。
私は今の時期でも、冷たい水を飲むと声がかすれ、ちょっと風が当たるだけでも咳が出ます。長年、真冬も夜もバイクに乗って、喉に負担を掛けてきたからです。

そこで思い出すのは、せきこえのどに浅田飴。
このキャッチフレーズは効果的です。なぜなら症状と商品名が連結しているので、思い出しやすく、購入行動に結びつきやすいからです。
同様のフレーズに「クシャミ三回、ルル三錠」とか「金鳥の夏、日本の夏。」があります。「そうだ 京都、行こう。」もそうで、これは企業名が書かれてないですが、京都へ行くなら当然、JR東海が利用されることが見込まれています。

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昔の「浅田飴」のキャッチフレーズに、「すきはらにめし」がある。
絵は当時の人にはご存じ歌舞伎狂言『先代萩』。楕円の中の幼い二人は、お家騒動で食事ができないために空腹に耐えている。そこで「たんせきに浅田飴、すきはらにめし」とキャッチを入れている。ただ、私だったら前後を入れ替えて「すきはらにめし、たんせきに浅田飴」とする。なお、メインキャッチは上部にあり、「良薬にして口に甘し」と右から読む。

 

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(先代萩は伊達騒動を題材にした作品。この場面は、毒菓子が逆臣から幼君・鶴千代(右)に出されるが、千松(左)がすぐ手づかみで毒見して死ぬ。右の女性はその千松の母・政岡で、我が子を犠牲にして忠義を貫いた)

この「空き腹にめし」は助さん格さんが出す印籠のような万能コピーである。何にでも使える。「あしたのもと AJINOMOTO、空き腹にめし」、「インテル入ってる、空き腹にめし」「ココロも満タンにコスモ石油、空き腹にめし」―――と使うより「頭痛にハッキリ、空き腹にめし」といった具合に特に小林製薬に向いているように思えなくもないが、いずれにしても「くう」は「ねるあそぶ」より優る人間の基本的本能であり、これを突いている。

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現代は、永六輔さんが遊び心を駆使し、「せきこえのどに浅田飴」を広告した。
永さんは30年間も浅田飴の広告コピーを雑誌に連載したそうだが、打者が打率3割を30年続けるのが難しい以上に、一つの商品の広告コピーをそんなに長く書くのは難しい。
それが出来たのは言葉で遊ぶのが好きだったからで、そうした面白い作品群が著書『せきこえのどに六輔』(飛鳥新社)に載っている。

■日本人は情感豊かな国民であることを語る駄洒落作品。
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雨の歌は名曲が多い。城ヶ島の雨は真珠か夜明けの霧か、それともわたしの忍び泣き。長崎の雨は特に多いわけではないそうだが、なんとなくいつも雨のよう。雨に歌えば男が土砂降りの雨の中を傘を差さずに踊りたくなる。交響曲「アメリカ」はドヴォルザーク の「新世界」。雨のブルースは雨よ降れ降れ涙を流すまで淡谷のり子・・・と思い出しているうちに、「雨」が降ったら浅田飴を思い出すのである。



■反骨精神を日本人に思い出させる硬派調の作品。
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昨今の男子は軟弱だとお嘆きの貴兄貴姉に。なめているシリーズでは、他に「外国になめられていないか、女房になめられていないか、子供になめられていないか、だったらせめて浅田飴をなめよう」というのもあった。うーむ、なめられてたまるかと思った人は、浅田飴を激しくなめながら、最後はガリっとかみ砕くのである。


  ■日本の若い男女はピュアだったと思い出させられる作品。
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江戸っ子の永さんが男女関係でピュアなハートを持っていることをうかがわせるコピー。女性が「ありがとう」と答えるのがいい。こんな素直な女性と巡り合いたものだなあ、と願う男は浅田飴をしんみりとなめ、密かにしくしくと泣くのだろう。

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 なお、ライバルは「ゴホン!と言えば龍角散」。このキャッチフレーズも古い。
この広告はダイレクトに「烈しいたん・せき・ぜんそくが忘れた様に楽になる」と訴求しているが、おなじみの「ゴッホンといえば」はこの時代にすでに龍角散の修飾語になっている(赤の下線はバーソ)。いまでは「ゴッホン」は「ゴホン!」に変わっているが、このほうが語感が新しい。言葉も世につれ、変わっているのだ。

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ちなみに、「ゴホンといえば」を真似れば、「手本といえば金次郎」とか「謀反といえば光秀」「裏切り盗っ人といえば一平」と言いたくなるが、「金鳥の夏」式に言うなら「日本といえば富士山、ゴホンといえば龍角散」はどうでせう。
あ、そんなもん、箸にも喉にも引っ掛かりませんか。そうなら龍角散または浅田飴の効能によるのかもしれませんよ。むろん、個人差によりますが。