例えば政府が何かを要請したら、「要請を中止せよ!」と反対意見が出てきて、実際に中止したら、「要請中止を中止せよ!」と反対意見が出てきます。
リーダーはいてもリーダーシップがないせいもあるでしょう。世の中、チグハグあたふた、筋の通らぬことばかり。右を向いても左を見ても、「反対!反対!」の恒例化社会じゃございませんか。
5年前のTwitterに、「すべての人を納得させる難しさ」を表した4コマ画像がありました。そんな古い話かとお思いでしょうが、画像もそのリツイートもなかなか面白いですよ。(※1)
まずは《動物愛護》精神を
持ち出して、抗議します。
婆さんがかわいそうだ
と 《女性差別》問題を
持ち出して、批判します。
爺さんがかわいそうだ
とは言わずに、
「けしからん女だ」
と言う心の根底には
《女性蔑視》があります。
最後は《善悪論》、
あるいは《正義論》、
もしくは《独善》です。
バカだと嘲笑したのは、
《優越感》でしょう。
どの批判も善悪や正邪の判断に基づいた、もっともらしい根拠ばかりです。
しかし批判もいいのですが、それより解決策を出すほうが有益です。
そこで今回は、ご隠居、熊さん、八っつあんの三虚頭座談会を設定しました。
(リツイートを参考にして解答例をまとめました。勝手ながら写真と文章は編集しています)
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批判された老夫婦は、では、どうしたら良かったのでしょう?
八「もう1頭、ロバを手に入れたらいい」
クマ「いや、馬のほうがいい。八っつあんが1着の馬を当てればすぐ買える」
八「しかし贅沢だとか、資源の無駄遣いだ、と言われるんじゃねえかな」
クマ「だったら、リヤカーだ。台車をひくほうがロバは楽だろう」
隠「そうだな、あるいはロバに代わる乗り物を開発したらいいかもな」
八「とりあえず、二人でロバに乗るべき事情を説明した紙を胸に下げる。高齢者だから分かってもらえるんじゃねえかな」
隠「そうだな、丁寧な説明をすればいいだけかもしれんな」
クマ「ねえ、ご隠居。二人のオッサンは朝日と毎日じゃねえですか」(※2)
隠「そうかもしれんが、批判が好きな人間なら、野党議員や人権弁護士、作家もいる。彼らなら義憤を感じたような顔して文句を言うだろうな」
八「そんなに言うなら、ロバを渡すからお手本を見せろ、と言ってやるのはどうでしょね」
クマ「そうしたら、他のことで違う難くせを付けてくる。そういうときは、『ご指摘、ありがとうございます、前向きに善処します』と感謝して、あとは知らん顔するのも手じゃねえかな」
八「俺は『前向き』とか『善処』って言葉は大嫌いだ。それって早い話が何もしないってことだ」
隠「しかし難くせを付けられたら、すぐ謝って、言われた通りにするのも情けないなあ。そんな、敵を作る覚悟がない、信念のない議員は辞めてもらいたいなあ」
八「ロバなんか持つから文句を言われる。老婆はロバに乗らないほうがいいんだ」
クマ「ご隠居、こういう正解が難しいことは考えないほうがいいんですかね」
隠「いや、男が歩いて、婆さんをロバに乗せるのが人の道だよ」
八「俺んちなら、かかあが乗って、俺はトボトボ歩きですよ」
クマ「俺なら、黙ってさっさと歩く。でないと、ムチでこっぴどく引っ叩かれる」
隠「まあまあ、二人とも、絵をよく見てみなさい。爺さんは顔は老けてて、背中は曲がっているが、婆さんのほうは顔がだいぶ若くないかい?」
クマ「あらほんと、女は若い女性ですよ。その証拠に靴がハイヒールだ」
八「そうか、俺だったら、二人で堂々とロバに乗って、『どうだい、羨ましいだろう』と言い返してやるわ」
隠「うむ、本家のイソップ物語では、ロバをかついで歩いたが、最後はロバが暴れて川に落ちたな」
八「じゃ、ロバ鍋にして食っちゃえばいい。ロバがいなけりゃ面倒もないし」
隠「イソップでは、ロバを売りに市場に向かった。商売に婆さんは不要だな」
クマ「ご隠居には老婆、いや、おかみさんは、なくてはならない大切な御方なんじゃないんですか」(えっへん、と奥から声が聞こえる)
隠「そうそう、かみさんは、かみさまだ」(ばったん、と何かが倒れた音がする)
八「もう、俺の頭じゃ、一日二日寝ないで考えても、正解なんて出ねえ」
隠「うむ、どうやっても文句が来るのなら、自分が正しいと思うことをやっていけばいいんじゃないかい。そうすれば時間は掛かるが、いつか良い結果が出る。ことわざにも……」
クマ「はい、ローバは一日にして成らず」
八「うーん、俺が言おうと思ってたのに。バーローっ(泣)」
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ある報道番組で、「史上最悪だ」と痛烈な言葉で政権批判をするジャーナリストに、司会者の局アナが言いました。「史上最悪と、そこまで悪く言うのであれば、対案がないと説得力を伴わないですよ。対案を言ってください」
そのジャーナリストは「一有権者としての意見はあるが、ジャーナリストが対案を出すのは、僕は、仕事だとは思っていない」と弁明しました。
そのとき横に座っていた人が「何かを駄目だと判断する背景には、こっちのほうがいいとする判断があるはずだ」と追及したところ、ジャーナリストは「コオロギは鳴き続けるのが仕事だ」と反論しました。(※3)
一見、うまい答えですが、鳴いてばかりで、真面目に建設的な仕事をしなかった結果、アリに物乞いをしたのがコオロギの仲間のキリギリスでした。
人の考えには、必ず対立する考えがあります。
論理や物証、思想、地位がどうであろうと、昨今は声が大きいほうが論争に勝つこともあるようですが、その点、なんせ日本人は、良く言えば争いを好まない和合型で、悪く言えば意気地のない軟弱型ですからねえ――――とまあ、無力諦観めいたことを申しておりますが、かくいう私も日蔭育ちの臆病者。一つに定まらぬ二心あり。さんざ浮世の錆びを味わってきたからこそ、ただただ明るく眩しい夢を追いたがるものなんでございます。(笑)
《補足》―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1:『togetter』2015-03-22「全ての人を納得させる難しさ」
pic.twitter.com/KIe5leBft3 HERBAL 420JAPAN (@420HERBAL)
https://togetter.com/li/798261
※2:2020年6月11日に開かれたトヨタ自動車の株主総会で、社長(当時)の豊田章男が質疑応答の場面でこの話を引用し、ロバを引く親子(夫婦)に意見する人をマスメディアになぞらえ、「要は『言論の自由』という名のもとに、何をやっても(取材対象が)批判されるということだと思います。最近のメディアを見ておりますと『何がニュースかは自分たちが決める』という傲慢さを感じずにはいられません」「1億総ジャーナリストと言われる時代」「大切なことはその情報を伝えることで何を実現したいのか、どんな世の中をつくりたいか」とマスメディアの報道姿勢を批判した。→ Wikipedia
※3:小松 靖アナ(テレビ朝日)と青木 理氏(共同通信社出身)の会話。→ YouTube
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