『薔薇のいのちは清々しくて』(小説の一部風です)
御主人様、御主人様。
どうかどうか、あの深紅の薔薇だけは、お避けくださいませ。
あの花は危のうございます。
妖しい劣情の領域に棲む恐ろしい魔物が化身したものでございます。
あの薔薇は、何かに似ているとは思われませんか。
濃い紅い色は、惑わされた男どもが苦悶に喘(あえ)いでいる血の涙。
花びらの紅い襞(ひだ)は、男どもが悲嘆に沈んでいる奈落の淵。
心を溶かし、身を焼き尽くし、人生を狂わせる魔性の花なのでございます。
御主人様は、 薔薇にお触れになり、
指に痛みを感じた事がおありでございましょう。
薔薇の棘(とげ)は、身を護ろうとして人を刺すのでございます。
ですが、あの御方は、うわばみのように御主人様の御好意を飲み込むばかり。
いつも毒クラゲの棘のような言葉をちくりちくりと仰言ってはいませんか。
御主人様は御存知ないのでございます。
この広い世間に目を御向けになれば、清々(すがすが)しい薔薇が在ることを。
本当に美しい薔薇は、ひっそりと静かに咲いていて、
人を刺す棘(とげ)など、一つも無いのでございます。
香りも、単に甘美な良い匂いがするだけではございません。
芳香は溜息が出るほど優雅で上品であるばかりか、
知的な気高さも発散していて、
見る者を皆、
純粋で、優しい、綺麗な心にさせてくれるのでございます。
御主人様。 どうか、この事だけは、よくよく胸に留め置いてくださいませ。
ひとの心に、 痛みや苦しみではなく、
慈しみや温かみを与えてくれるのが、
麗しい真実の薔薇。
愛こそが薔薇の花の本質なのでございます。
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自分の世界観が絶対と思う固定観念に縛られていると、物事の一面しか観えなくなります。
その迷妄が度を超すと、英国コンサート会場付近で大勢の人々がテロに遭う事件が生じます。
正義感が平和と愛であれば、痛み苦しみではなく、優しさを与えるはずという話のつもりです。
CANON EOS M3 18-55mm
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