これまでのストーリー
「そうか、そらきつねやない。あの野郎共じゃ」
「いや、そら違う、あの人達は何も悪うないんよ。俺が騙された時、あの人達は、もう帰った後やったけね」
「それで、おなごの事話してみい」
「そうやねぇ、二十位の、そらきれいな優しい人やった。俺馬鹿やろう、女の人が話もしてくれんやったけね、そのみっちゃんっていうおなごの人はね、馬鹿やない、自分で馬鹿馬鹿っていう人に馬鹿な人はおらんって言うてようしてくれてね、そんな仏さんのような人が俺を騙すとか、考えもせんやった、そのとき」
「そうか、女は初めてか」
「初めても、初めて、話したのも初めてやけ」
「そうか、そういうええおなごがのう」
「本当に騙されたんやろうか」
「うん、騙される時は、そういう物よ、わかって騙される者はおらん」
「まぁ、ええ思いさせてもろたんやけ、あきらめい、その話だれにもすんなよ、お前と俺だけが知っちょる話やけ」
そこに、かねさんが帰って来た。
「富、どこ行っちょったんか、この馬鹿」
「まぁええ、さぁ、上がっておくれ。富がきつねに騙されたらしい」
「この馬鹿者が、それで金はどうしたんか」
「それも、きつねにごっそり持って行かれたらしい」
「そら、おおごと、みんなの金やが、村長さん、殺しておくれ」
「相手がきつねじゃ、どうにもならん。明日みんなに訳を話してやね、ここは俺に任せておくれ」
「すんません、こん馬鹿者が、肥溜めと風呂を間違えやがって、騙されたらそうなるんやろうか、村長さん」
「かねさん、富も一人前の男よ、ええおなごにおうたら、心も許す、ええやないか、いっぺんくらい。散々人に使われて、気の毒なんは、富よ」
「一番大切な日に、とんでもない事をしてしもうて、すんません、村長さん」
「男はのう、この俺も一緒よ、若い時は、富のように散々騙されて、金を使うた」
「えっ、村長さんが」
「そうよ」
「初めて聞いた」
「親の恥やけね、尻拭いしてくれたんじゃ」
翌日、手分けをして捜したが、見つからなかった。
ただ肥溜めは、かき回されていた。
村の人達は、がっかりしていた。
子ども達の間では、毎日その話ばかりだ。
富さんがいると、立ち止まって富さんに聞いた。
「富さん、きつねに化かされたんね」
「やかましい、学校に行け」
「富さん、おなごが好きやけ、化かされたんてね」
「この野郎、足の骨、うち折ってやる」
と言うと、鎌を持って追いかけて来る。
かねさんの方が心配して、村長が子ども達を集めて話をした。
「きつねに化かされるんは、笑い事やないぞ、それで人が死ぬ事もある。
今度そういう奴がおったら、峠の松の木にくくりつけてやる。
ええか、そうしたら、峠のきつねに、手やら足やらを食われるかもしれん。
そうしてもらいたいか」
子ども達は首を振った。
からかいは治ったが、富さんは仕事もなく元気がなくなった。
西鉄バスも、木炭からガソリン車になり、バスの後ろのかまを取り外したので、バンパーが六十センチ位突き出していた。
我々は、それにしがみついて、無賃乗車をする。
土ぼこりで頭から真っ白になっても、じっと耐えて乗って行った。
雨の日は、とばっちりで泥だらけだ。
もう押す必要もなく、峠をエンジン音をうならせて登って行く。
富さんが米を運ぶ必要もなくなった。
ある朝、富さんは冷たくなっていた。
きつねの祟りという人がいた。
数年前に亡くなった富さんの父親は猟師で、富さんが生まれる前に、ちょくちょくきつねを捕まえて、きつね汁にして食べたからだと言う人がいた。
富さんの家の前を通る時、手を合わせて行く人を見た事がある。
卓ちゃんと守さんも、数年して村に帰って来て嫁をもらい、すっかり大人しくなって田んぼを耕していた。
ある人は刑務所帰りと言っていたし、大阪に出稼ぎに行ってたと言う人もいた。
今は、本州から九州に高速道路を走って来ると、私のふるさとは、まばたきしている間に通り過ぎてしまう。
きつねも人間よりも、車が怖くて出て来なくなった。
完





