これまでのストーリー
「守、ええカモが来たぞ」
「富さんか」
「うん」
「金なんか持っちょらんよ」
「今日は違う。三十日じゃ、持っちょる。お前、黙っちょけ。俺にええ考えがある」
「よう、富さん、お疲れさま」
「あんた達、どうしてここにおるん」
「街やったら行き違いになるけ、待っちょった」
「俺を」
「あんた村の人たちの米を担いで一日中働いたやろう。それで、みんなに頼まれてね、あんたをもてなしてくれって」
「俺を、そんなことしてもらわんでもええ、早よ帰らせておくれ」
「せっかく村の人がそう言いよるんけ、断ったら失礼やろう。それに頼まれた俺たちの顔もつぶれるけねえ」
「母ちゃんが、あんた達遊び人やけ、付き合うたらいけんて言いよるけ」
「その事なら心配せんでもええ、かねさんにも俺からわけ話すけ、さあ行こう」
「そう言うても、金持っちょらんけ、帰らせておくれ、頼むけ」
「金なら心配いらんよ、ほら村の人達から預かっちょるけ、あんた心配せんでええ」
二人に両側から腕をつかまれて、飲み屋の中に押し込まれた。
客はいないが、カウンターの奥に若い女がいた。
「みっちゃん、お客連れて来たよ」
「いらっしゃい、みつです。どうぞよろしく」
「この人、富さんって言うてね、村一番の堅物やけ、村の人に頼まれて、今日は俺たちが一晩中世話する事になってね、みっちゃんにも頼もうと思うてね」
「そうですか、あたしでよろしかったら」
「富さん、酒がええやろう」
「いや、水でええ」
「ここは飲み屋やけね、水はないやろう」
「どうして飲まんの」
「母ちゃんが、気違い水やけ飲むなって言うたんよ」
「そんなことない、のう卓さん、俺たち毎日飲みよるけど、何ともないやろう」
「今日は、村の人達の心からのもてなしや、さあ行こう」
飲み始めると、体が温まって、浮き浮きしていい気持ちだ。
「富さん、あんた女抱いたことあるんね」
「抱いたこと、それ何のことね」
その時、卓さんはカウンターの中に入って行って、みつを抱きしめてキスをした。
「あっ、卓さん、何しよらんね」
「あんたが初めてやから、教えてやろうと思うてね。今晩、このみっちゃんが、あんたと遊んでくれるんよ」
「そらない、ないない。俺馬鹿やけ、誰も相手にしてくれん」
「自分で馬鹿って言う人に、馬鹿な人居ないわよ、富さん」
「みっちゃん、本当の馬鹿やけ、自分で言うだけやない、みんなそう言いよるんやけ」
「口の悪い人達やねえ、あたし、そう思わない」
富さんもほろ酔い加減になり、みっちゃんが優しいので、いい気分になっていた。
つづく


