形影相弔う③ | コスプレとネトゲのしおしお部屋

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それからまた、クエストをこなしたりで4人で冒険をした。
今も獣人の本拠地に潜入し、陣営を殲滅するという作戦の只中であった。
ミスラの回復はいつも通り早く、安心感があった。
セナは相変わらずジャンプでとどめをさしたがるし
ユウの不意打ちは鋭いながらも気まぐれだった。

アイクの振るう両手斧は以前よりも力強く、鮮烈で


誰の目にも彼の調子はよさそうにみえた。

左手に巻かれた包帯以外は。

アザは日増しに大きくなり、彼の左手の色を忘れるほどに広がったが
アイクは誰にもその事実を言えないでいた。
痛みもなく、ただアザが浸食していく様は不気味だった。
診療所にも行ってみたが原因はわからず、
ただいろいろと追及されたくないがために
やたら心配するミスラから無理矢理譲り受けた包帯を巻いていた。


体の調子が悪いかといえばそうではない。
むしろ力があふれるほどでそれがなおさら不安を煽った。

これは、いったい何なのだろう。

残った、最後の敵に斧を振るう。
枯れた木が裂かれたような大きな音がして、
ゴブリンは脳天から血をだし、くずおれる。
壮絶な一撃だった。

まわりが息をのむのを感じ取れた。
続く戦いの疲労から浅く息を繰り返し、アイクは天を仰いだ。
この、得も言われぬ爽快感はなんだ。
なにか、解放された気持ちすらする高揚に笑いすらこみあげそうになる。
不安や、焦燥や、嫌悪や、さまざまな入り混じる感情が
戦いの、この斧を振るうときだけはすっと引いていくのだ。
こんな事今までなかった。
こらえていた口元がゆがむ。


左手はもうなにも感じない。



街へ戻って、いつもの宿屋に陣取ってからも、アイクの話題でもちきりだった。

なんで急にそんなに強くなった?からはじまり
見た目は変わらないようにみえるけど実は武器をかえた?や
こっそりどこかでレベルあげした?だの
鍛錬のし過ぎで左手痛めてるのか?と
質問攻めだった。
アイクだってわからないのだから
質問のひとつひとつにあいまいな返事を繰り返すばかりの不毛なやりとりは
それでも酒の力を借りて夜遅くまで続いた。

「だからぁー どうしてそんなに強くなったのよーー」


すでに大分酒のまわったユウが、ろれつのまわらないたどたどしい口調で
本日何度目かの同じ質問をした。
「…別にかわってないって。」
「うーそーだー。何かくしてるのよー」
古ぼけた椅子を体ごと引きずり、
からむように近づいてこられて
顔にはださないものの少し、鼓動が早打つ。
「かくしてもないよ。」
「うーーーーそーーーだーーーー。じゃあなんで左手こんなけがしてるのよーー」
駄々をこねるようにアイクの肩に手を置いて揺さぶる。
不謹慎ながらも、心配してくれているのが嬉しくて
肩に手を置くその距離が嬉しくて
自然に顔がほころぶ。
「ごめん、でもなんでもないから。そのうちなおるよ。」
「ほんとにーー?」
酒の入った彼女は普段より幾分か幼く見える。


「ほんとほんと。」
見上げるユウの頭をわしわしとなでると手触りのいい黒髪の感触に目を細める。
「……急に、いなくなったりしないでよね。」
「え…」

「おい、ユウ。あんまりアイク困らせんなよ」
席にもどってきたセナが呆れ顔でユウをひきはがそうとする。
「あ、セナだ~。」
ユウは普段見せないような緩い笑顔をむけ、無邪気に彼の方に手をのばした。
セナは慣れた手つきでその手をとり、ユウを引き寄せる。


それはとても自然な動作だった。
きっと二人にとってはいつもの事なのだろう。


ただ、自分だけが知らないだけで。



ドクン


心臓の脈うつ音が体中に響くようだった。
こみ上げるなにかを吐き出すように、息をかっとはきだす。
左腕が胸が熱い、痛い?苦しい?
息が、できない。
思考がまとまらない。これは、なんだ。
目が…思考が回る。
頭が割れるように痛い。

「おい、お前…」
アイクの異変に気付いたのか、セナが空いた方の手をのばす。


「……っ。」
とっさに振り払う左腕にセナの指がかかり
出来たほんの隙間から、するすると左腕を覆う包帯がほどけた。
「あっ、ごめ…!」
あわててセナは手をひいたが、目が。アイクの左腕を追っていた。


「!

!」


アイクはセナを射るような目でにらむと
左手をかばうように右手を添え、立ちあがる。
「おい、アイク!」
セナがアイクを制するが、これ以上この場にいたくなくてその手を振り払うと
そのまま振り返ることなく駆け出した。





続く