形影相弔う④ | コスプレとネトゲのしおしお部屋

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乱暴にドアを開け、転がるように宿屋を飛び出す。

見られた。見られた。見られた。
この黒く、醜い腕を。

見られてしまった。
自分にうずまく、黒い感情を。

現実から逃げるようにがむしゃらに足を動かす。
夜風が切るような冷たさで体を覆う。
自分の体温だけが妙に熱く感じた。
肺を通る空気が冷えていて、むせる。
暗い夜道は道が悪く、ともすれば体ごと前のめりに転んでしまいそうだ。
それでも、足を止めることはできなかった。
何かにせかされるように切れ切れに吠えるような声をあげる。
自分はどうしてしまったんだろう。


…いや、違う。

どうにかなってしまいたいんだ。


やみくもに走り続け、どこまで来たのか。
どこの路地に入ったのか…ここがどこなのかもわからず、ほの明るい街燈から
身を隠すように傍らに倒れこむ。



穴の開いた紙袋のようにかすれた息を何度も繰り返し
煉瓦道に体温をあずける。
冷え切った煉瓦の温度が心地よい。
このまま目が開かなければ、楽なのかもしれない。
明かりを遮ろうと、顔にかざした右手をみてぎょっとする。


黒く、染まっていた。


「あー・・・・は、はは、あははは」
笑いしかでなかった。

息をすいながら芋虫のように身をよじって笑う。
ざりざりと鎧と皮膚が煉瓦にすれるのを感じたがどうでもよかった。
とことんまで落ちてしまいたい、ひどくなりたい気分だった。



「楽しそうだね。」


嬉しそうな笑い声をあげつつ

先ほどまでなにも存在しなかった暗闇から浮かび上がるように、ミスラが現れた。

姿は、いつも見ていた彼女なのだが
纏う空気が違うのはこの暗闇のせいだけではなかった。
口元だけ両端に吊り上げて笑うその顔は
どこか作り物めいてみえる。

異様な存在感だった。

「ひとりなの?」
「ほっとけよ」



捨て鉢になったアイクはもう取り繕うことすらせずに、ミスラにむかって手を薙いで見せた。

ミスラはその手をつかみ、もう片方の手で乱暴にあごをつかみ強引に上をむかせ
アイクを見下ろす。

およそ女性のそれとは思えない力強さで握りしめられ、アイクは眉をしかめる。

こいつ…なんなんだ。


一度疑問が浮かんでしまえば
あとははじけるようにいろんな疑問が浮かんできた。


なぜこの場所がわかった?


いつから一緒にいた?


3人が4人にかわってたのはいつだ?


どういういきさつでパーテlにはいってきた?


なんで俺達は…こいつの存在に疑問をいだかなかった?


こいつはなんなんだ?こいつのことを何も知らないじゃないか。



そう、俺はこいつの名前すら知らない……!



ミスラは戸惑うアイクの姿をじっと眺めていた。
やがて彼が様々な疑問や不信の入り混じった目で彼女をみるのに気づき
口元だけをゆがめる。
アイクは上ずりそうになる声をかろうじて制して、つぶやいた。

「お前、なんなんだよ…。」
「いまさら、僕のことなんてどうでもいいじゃない」
暗い、深淵のような感情のない目がアイクを見下ろす。

「化け物…」

吐き捨てるようにアイクが言った。

「口のきき方には気をつけなよ?」


アイクのあごをもつ指に力がこもり
こめかみが小枝を割るような音をあげる。
「ぐ…」
アイクがたまらず声をあげた。
「僕はまがりなりにも天子様なんだからさー。」
ミスラは不機嫌そうに、そのままアイクを地面にたたきつけた。
衝撃に視界がちらつき、遅れて鈍い痛みが頭に響く。
「こ、の…!」
反撃しようと身を起しかけたアイクを右足で踏みつけ自由を奪う。

「違うでしょー?」
「は…?」
さっきからミスラが何を言いたいのか、何を意図しているのか
理解できずに苛立ってアイクが吐き捨てる。
「怒りの矛先。」
違っていない。
自分は今間違いなくこのミスラをぶん殴ってやりたい。

「アイクはさー、ユウとセナが憎かったんでしょー?」

突然でてきた名前に、一瞬にして血の気がひくのを感じた。
だが、それを悟られないように睨み付ける。
「自分だってユウのことが好きだったんだよねー?
それをセナが出し抜いて…いやもしかしてユウの方からさそったのかな?」
くつくつとのど元を震わす。
「アイク一人だけのけものにされてさー、かわいそうだよねー。」
かわいそうの言葉とは裏腹にミスラはひどく嬉しそうにみえた。
「僕はね、そんなかわいそうなアイクを助けにきたの」
足蹴にされている今の状況と助ける、という言葉はほど遠い。
アイクはだまったままミスラから視線をそらさない。
「このクソみたいな状況を一発逆転できるような手だよ?
もっと感謝してほしいな~。」


「まさかそのアザ、ただのアザだなんて思ってないよね?」

「お前…俺に、なにをした。」
「いやだなー。なんでもネガティブにとらえるの。
何かにかわったのは君であって、僕はそれをほんの少し後押ししたにすぎないよ?」
「な…」
「それに僕最初にいったよね? 治す?っ て」
「なんだって…」
「それを大丈夫だって、はねのけたのはアイクじゃないか~」
屈託なくミスラが笑い
身をかがめ、アイクの腹の上に腰を落として見せる。
「君のくらーーーい感情をいっぱいすいとってこんなに大きくなって…」
いとおしそうにアイクの左手に右手を重ねて握りこむ。
その姿はともすれば恋人同士が行うしぐさのようにも見えた。

押さえつけられていた拘束をとかれていても、
アイクは動けないでいた。
「広がってるの、腕だけじゃないの。わかってる?」
アイクの顔におおいかぶさるようにミスラが近づき
その瞳を見つめる。
自然、見つめ返すようにミスラの瞳に映る、自分の顔は
広がる闇より暗い色をしていた。
ミスラがいつか聞いたような言葉を言った。




「ねぇ、フォモルって知ってる?」