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Reddened

stories, and so forth.






コーヒーショップで、冗談めかして大好きだと言った。

そしたらお付き合いしますかと言われた。


それから、はや一週間が経とうとしている。


が、私たちはお付き合いらしいお付き合いもしていないし、そもそもすれ違いばかりで全く会えてもいなかった。


いや、しかしそれは好都合だったかもしれない。

会えば先日のことを思い出すし、だからといって『あの話、どうなりました?』なんて聞ける訳がない。


そうだ、会えていないのは良いことなのだ。




「早川さん、午後、時間あいてる?」


休憩を終えて席に戻ると、同じ部署の先輩の後藤さんが声を掛けてきた。


「資料整理だけなのであいてますよ。何かしましょうか?」

「よかった、助かる!第三会議室で2時から打ち合わせがあるんだけど、代わりにいってくれないかな。要るもの渡しておくし、向こうの進み具合聞いて控えておいて」

「わかりました」


後藤さんは忙しい方だ。こうやって代わりをお願いされることは多々ある。

私は快く引き受けた。


「あ、同期だっけ?一緒に打ち合わせする子、鷹梨くんだから!」


別の案件に急ぎ足で向かう後藤さんは、最後に爆弾を落としていった。

私は快諾したことを早くも後悔した。




午後2時。

第一、第二に比べて少しこじんまりした造りの第三会議室で、鷹梨さんと私は対面して座っていた。


「あらら、後藤さん来られないんですね」


事情を説明すると彼は驚いてみせた。


後藤さんはいわゆるキャリアウーマン、できる女で、その上美人である。

当社男性社員の憧れの存在だ。

それは彼にとっても同じだったのだろうか、眉をひそめて少し思案するような顔になった。


「すいませんね、私で」

「何を仰るやら。早川さんだったら倍嬉しいですよ!」

「またまた。その表情でよく言いますね」

「表情?ああ、俺が今なにを考えてたか気になるんですね?教えてあげましょうか?」


彼はさっきとは打って変わりニコニコと笑顔で聞いてきた。

何がそんなに楽しいんだか。


「結構です。それで、後藤さんから資料は全部預かっていて目を通してあるので、できる範囲で代わりにお伺いします」

「つれないなぁ、もう本題に入るんですか?俺とのトークをもっと楽しみましょうよ」


まだ時間を無駄にしそうな彼に対し、私は無言で睨みをきかせた。

ようやく諦めたのか、はいはいとため息混じりに言いながら自分の資料のファイルを探り出した。


何がトークよ。

普通お付き合いがどうとか会話した相手に会ったら、すぐその話を持ち出してくるものじゃないの?


それともやっぱり、あれは冗談だった?


そうに違いない。

そうとしか思えない。


それじゃあ、私も何もなかったことにしてやるわよ。


「えーと……あ、イチゴのチョコいります?美味しいですよ!」

「え?ああ、ありがとうございます」


どこから取り出したのか、彼はイチゴ柄の銀紙に包まれたチョコをくれた。

男性のくせに、イチゴのチョコを持ってるなんて。


誰かから貰ったの?

後藤さんが来ていたら、後藤さんにあげていたの?


せっかく、偶然だろうけれど自分が好きなイチゴ味のお菓子を好きな人から貰えたというのに、また色々と勘ぐってモヤモヤと、いや、イライラしてしまった。


私以外にもこういうことしてるんだ。きっと。


ふと視線を感じて見上げると、彼がこちらを見つめていた。


「…なんですか?」

「チョコ、食べないんですか」


私は無意識のうちに、チョコを自分の資料の脇にそっと置いていた。


「ええ、まあ。後で小腹がすいたときにでもいただきます」

「あまり喜んでくれないんですね。イチゴ味がお好きと聞いたんですが」

「・・・え?‥だ、誰から?」

「後藤さんですよ。それにしても後藤さんも後藤さんだ、事前に知らせてくれれば、会議室の使用時間を30分から延長するなり、イチゴのお菓子をもっと用意するなりできたのに」

「・・・はい?」

「あ、打ち合わせはもともと、後藤さんも忙しい方だから、これを渡してあとで確認いただければいいようにしていたんです」


そう言って鷹梨さんはファイリングされたレジュメを渡してきた。

パラパラと見てみたら、完璧に進行具合をまとめあげてある。

彼がなかなか本題に入ろうとしなかったのはこの所為か。


「なので、ものの数分で解散できるようにしていたんですが、いやー、まさか早川さんが代理で来られるとは」

「ということは、私は不要だった…ということですか?」

「‥いや、寧ろ後藤さんはそれも見越して、あなたを寄越したのかもしれないです。ああ、さすがですね、あなたの先輩は。なんでもお見通しだ」

「…仰っている意味がちょっとよくわからないです」

「いいんです、こっちの話ですから」


むっとした。

なんだか自分が蚊帳の外に置かれたみたいな気がして。


「そうですか、わかりました!じゃ、もう終わりで良いですね?お疲れさまでした!」


言いながら勢いよく立ち上がり、私は会議室を出て行こうとした。


ガタンと音がしたかと思うと、腕を後ろにぐんと引かれた。

バランスを崩してよろめいた私の肩を、彼の手が後ろから支えてくれた。


「…なんで、言ってる意味が分からないとか言うんですか」


彼の声が耳のすぐ傍からして、私はビクッとしてしまった。

ち、近い。


「こないだのこと、忘れたんですか?っていうか、あれから連絡も何もないなんて、さすがの俺も凹みますよ」


へ、凹む…?

鷹梨さんが…?


そんな…だってあれは、冗談だったんじゃ‥。


「でも私、鷹梨さんの連絡先も知らないし…」

「いやいやいや、俺の連絡先なんていろんなとこで出回ってるでしょ。後藤さんだって知ってますよ、もう!あなたの携帯の番号は?」


私が反射的に電話番号を言うと、彼は自分の携帯にそれを打ち込んだ。直後、私の携帯が震えた。


「ちょっと貸してくださいね」


取り出した携帯をさっと奪われてしまった。

着信履歴を入れた私の携帯に、手早く何かしらを打ち込んだ彼は、はいと私に返してきた。


「俺の電話番号とメールアドレスを入れておきました。これで、知らないなんて言わせないですよ」


ちょっと膨れた様子の彼は、以前と同じように「じゃあ先に戻ります」と言うと会議室から出ていってしまった。



呆気にとられ、私はしばらく彼の出ていった扉を見つめて立ち尽くしていた。


…もう、本当に彼はわからない。


けれど、こないだのは冗談じゃあなかったのかも、と思うと、途端に顔が熱くなった。


火照りをおさめるため手で顔を仰ぎながら、電話帳に彼を探してみた。

鷹梨だから、た行…と思ったら、電話帳の最初あたりに『愛しの鷹梨様』というのを見つけて私はうなだれた。


バッカじゃないの、あの人…!


そう思いながらも、名前をすぐに訂正することができなかった。

また今度、心が落ち着いた時に変えよう、かな。


とりあえず今日の帰りにでも、チョコのお礼のメールをしようと思いながら、会議室を後にした。







013114