それはあっという間の出来事だった。
駅からの地下道を通って百貨店に着いた私は、まずはお目当ての催し物会場がある7階へ向かうべく、地下1階のエレベーター前で待っていた。
同じく待機しているのは同い年くらいの男子で、黒髪に黒縁眼鏡の細身な短髪好青年だった。
ようやくエレベーターが到着して、彼に続いて中に入る。
乗るのは二人だけだった。
7階、7階…と階床ボタンを押そうとしたら、もう押されていた。
7階の他には6階も押されている。
私、声に出してたかな…?と考えたが、そんなことはなかったはず。
もしかしたらこの青年が間違えて押したのかもしれない。
間違えたら二度押せば消せるエレベーターもあるけどな…と思いつつ、まあ運良く私の降りる階だったので、そっとしておいた。
1階に到着すると、どやどやと人が入ってきた。
私は、階床ボタンの前に立つ彼とは対角の隅っこに追いやられた。
そして、追いやられながらぼんやり彼を見ていたら、彼はなんの前触れもなく階床ボタンをポチポチと押し出した。
「何階だっけ?」
「5階…あ、もう押してある」
「8階をお願いします」
「あ、大丈夫押されてますよ」
入ってきた人たちは口々にそんなことを言っていたが、私は明らかなおかしさに気づいていた。
私と彼だけの時は、6階と7階しか付いていなかった。
今は、3・5・6・7・8・R階が押されている。
それも、1階で扉が開いたくらいのタイミングで、押されたのだ。
どういうこと?
彼は、エスパーかなにかなの??
私が悩んでいるうちに3階、5階とエレベーターは停まり、ちゃんと人が降りていった。
そうして、6階に辿り着く。
だいぶ人の少なくなったエレベーターから降りるため、彼は扉に向かいながら、ふっと私に顔を向けた。
とたんに私はドキッとする。
彼は人差し指を口にあてて、にっこり微笑みを寄越してエレベーターを出ていった。
「秘密だよ」
そう言われた気がして、私は次の7階で降りるのを忘れて屋上までいってしまった。
それは、あっという間の出来事だった。
08052019
