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Reddened

stories, and so forth.

 
 
 
 
 
 
 
付き合ってる男女が夏に行くところといったら、やっぱ夏祭りでしょ。
 
というわけで、私たちも地元の夏祭りにやってきた。
とはいっても、付き合う前に1回と、付き合ってから2回だから、来るのも今年で三年目になる。
最初は浴衣を着て着飾っていたのに、今やもう面倒くさくなって、普段着である。
 
「まあな、期待はしてなかったよ」
「でしょ」
 
私たちも三年目となると、こんなもんである。
 
「ママ!」
 
突然の声とともに、足元に衝撃を感じた。
下を見ると、小さな女の子が私の足にしがみついていた。
 
「お前…か、隠し子?!」
「違うに決まってんでしょ!」
 
彼の発言を一蹴すると、怪訝そうな顔をしてこちらを見上げているその女の子と話すため、私はしゃがんだ。
 
「ごめんね、ママじゃなくて。似てたのかな?もしかして、ママとはぐれちゃった?」
 
5歳くらいと思われるその子は、困った顔をしてこくんと頷いた。
 
「そうか、じゃお姉さんたちと一緒にママを探しに行こうか?」
 
女の子がもう一度頷いたので、よしよしと頭を撫でた。
 
「お名前はなんていうの?」
「凛‥」
「凛ちゃん!素敵な名前だね。浴衣もすごく可愛らしくて似合ってる。ママに着せてもらったの?」
「うん。ママもゆかたなの」
「そうなんだ!じゃ、ママを探しに行こっか!」
 
私は立ち上がって、凛ちゃんの小さな手を取って歩き出した。
 
「凛ちゃん、ママの浴衣は何色かなぁ」
「ピンク!」
「ピンクかぁ!私のお気に入りの浴衣と同じ色だぁ。じゃ、ママみたいな人を見つけたら教えてね」
「うん!」
 
小さな彼女に気を使いながら歩いていると、横から彼が聞いてきた。
 
「お前、小さい子にそんなに優しかったっけ?」
「いやー、凛ちゃんが可愛くて可愛くて。それにほら、よくあるじゃん?迷子を連れていったら、素敵なお兄さんと出会えて恋が始まる、的な展開がさ」
「…お前、俺がいるのにそれを言うか?」
「へへへ」
 
そんなこと、本気で思っていないとわかってくれているはずだ。
ただ、彼の不貞腐れている様子が、想われていると実感できて、不謹慎ながらも嬉しく感じた。
 
ふと、凛ちゃんが砂利道の石につまずきかけた。
 
「おっと、凛ちゃん大丈夫?足が疲れちゃったかな?そこのベンチでちょっと休もっか?」
「うん」
 
普段履かない草履で足も痛かったはずだ。
凛ちゃんは腰掛けると、ふうとひと息ついた。
私たちも両脇に座り、カバンもおろした。
 
「総合案内所ってどこにあったっけ?もしかしたらそこに凛ちゃんのママも行ってるかもしれないよね」
「そうだな。確かこの先をもうちょっと行ったところの神社の境内だったはずだ」
「よし、凛ちゃん、少し休んだらそこまで行ってみよっか。足が痛くなったらこのお兄さんが肩車してくれるよ」
「お前、勝手にそういうこと言うなよ‥」
「わたしのパパも、よくかたぐるましてくれるよ!」
「すごい!凛ちゃんのパパは力持ちだね!」
 
話しながら、休んでいる間に何か食べさせてあげたいなと思っていると、少し先にイチゴ練乳かき氷ののぼりを見つけた。
 
「あ、凛ちゃん、イチゴ練乳のかき氷だって!買ってきてあげるからお兄さんと一緒にちょっと待っててね!」
 
そう言って私はかき氷の屋台へ急いだ。
するとすぐに、「おい!」と呼び止められた。
彼が駆け寄ってきていた。
 
「お前、カバンも持たずに行って。お金持ってないだろ?」
「あ、忘れてた」
 
呆れた顔の彼からカバンを受け取り、一人にしてしまった凛ちゃんの方を見やると、後ろ姿ながら駆け寄る人物がいた。
私はすぐに感じた。
 
「あ、あの人、凛ちゃんのママじゃない?」
「え?…ん?あれ?」
 
その凛ちゃんのママと思われる淡いピンクの浴衣の女性は、駆け寄るなり凛ちゃんに抱きついた。
とたんに凛ちゃんの顔が、花が咲いたように笑顔に変わった。
 
「よかったねぇ」
「ああ…」
 
私たちもほっと安心して眺めていると、凛ちゃんが何かを話しながらこちらを指さした。
その小さな手に導かれるように、ピンクの浴衣の女性がこちらを向きかけた瞬間。
 
「ドーーン!!」
 
夏祭りのメインイベント、花火の打ち上げが始まった。
その途端、人の流れが押し寄せて、凛ちゃんたちの方へ近寄ることが出来なくなった。
 
私たちは人の波に流され、屋台の通りを過ぎた神社の方まで来てしまった。
 
「凛ちゃん、 もう大丈夫だよね」
「そうだな」
 
花火を見上げながら言った。
しばらくの間、夜空に放たれる花火を堪能した。
 
「なあ、あの、凛ちゃんのママの浴衣、初めて夏祭りに来たときにお前が着てたのと同じじゃなかったか?」
「そういえば、似てたね」
「最初だって、ママって言って抱きつかれてたよな。凜ちゃんが間違うくらい、背格好も、お前とすごく似てた」
「‥‥‥」
「…俺だってさっき一瞬、お前が駆け寄ったのかと思ったよ」
 
私は、言葉が出てこなかった。
彼の言いたいことは分かっている。
ただ、それは、絶対にあり得ないことだ。
 
でも。
もしかしたら。
 
花火はクライマックスを迎え、夜空一面を埋め尽くした。
見終えた観客から、歓声や拍手が巻き起こった。
 
「ねえ、私さ」
「ん?」
 
また今度は帰り行く人の波が出来つつあるなか、その場に二人まだ立ち尽くし、夜空を見上げながら言う。
 
「こどもが出来たら、凛って名前を付けたいな」
「‥わかった」
 
私たちはまるで初めて夏祭りに来たときのように、そっと手を繋いだ。
 
 
122016