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Reddened

stories, and so forth.








季節はずれの人事異動があり、私の部署に新人君がやってきた。

教育係には私が任命された。

新人君は最初が肝心だ、ここは頑張らないと。


「早川って言います、よろしくね、烏田くん!」

「はい、よろしくお願いします!」


うん、返事が元気でよろしい。


烏田くんは、私の隣りのデスクで一生懸命覚えるのを頑張っていた。

わからないことがあるとすぐ聞いてくれるのでありがたい。

わからないのをわからないまま、自分で処理しようとされるとこっちが困ることが多いからだ。


「早川さん、こういう場合はどうしたらいいんですか?」

「ん、どれどれ?あ、これはね…」


今日も今日とて、彼の指導に熱をあげていた。

パソコンを操作する手にも力が入る。


「あ、これね、こうした方がもっと効率いいよ」


私がマウス操作をする上から手を重ねられ、勝手に操作されてしまった。

伸びてきた手を辿ると、そこにはやはり、鷹梨さんがいた。


「…鷹梨さん、いま、私が教えているんですけど」

「えーっ、でも、効率が良い方を教えた方がいいでしょ?」

「基本が出来てたらいいんです!」


私は彼の手を振り払い、しっしっと追い払う仕草をした。


彼と、その…恋人同士になってから、彼は私の部署によく来るようになった。

私が教育係に勤しんでいると、何かしら茶々を入れてくる。

相変わらずしょっちゅうでまかせを言うので、新人君に訂正するのが毎度大変だ。


「よくふらふらと現れて…。自分の仕事はちゃんとされてるんですか?」

「もちろん!今日は君たちのご上司に用があって参りました」

「後藤さんですか?今ちょっと離れられてて…あ、後藤さーん!」


ちょうど戻ったところの後藤さんと、鷹梨さんは打ち合わせを始めた。


「なんだか、美男美女で非の打ち所がない、すごい組み合わせですね」

「あ、烏田くんもそう思う?部署は違うんだけど、二人とも出来る人たちだからよく組まされるんだって」

「もしかしてお二人、お付き合いされてたりするんですか?すごくお似合いですけど」

「え‥‥」


私は言葉に詰まってしまった。


別に隠している訳ではないけれど、職場では彼と私が付き合っていることは公表していない。

そうして、こういう噂がよく流れる。

その度に私は心を痛めるのだった。


「そういうわけでは、ないみたいよ」


私はそう返すのでいっぱいいっぱいだった。


烏田くんを教え終わって自分の作業をしていると、後藤さんとの一件が終わったらしい鷹梨さんが近寄ってきた。


「これ、新作」


そう言って通り過ぎ際にデスクにイチゴのお菓子を置いて、フロアを出ていった。

くそう…またこんなニクいことをして。


「早川さ~ん!‥あら、どうしたの?顔赤いわよ?」

「後藤さん…!あ、赤いですか?!」


私は頬に手を当て小さい声で聞く。

後藤さんは唯一、私たちの関係を知っている人物だ。


「ほんのりね。どうせ彼絡みでしょ、お熱いことで。そういえば彼私に言ってきたのよ、『新人を教えるのは一人じゃなくて、部署内で回すべきでは?』って」

「はあ…彼がそんなことを」


私がぽかんとしていると、後藤さんは肘で突いてきた。


「なに、わかってないの?彼嫉妬してるのよ?早川さんが異性をずっとみてるから」

「‥ええっ?!」

「もう、相変わらず鈍いわねぇ。ま、そこがかわいいんだけど。はいこれ、午後の資料。よろしくね」

「あ、はいっ」


鷹梨さんが、嫉妬…。

ただの後輩だからそんな必要ないのに、と思いつつ、それが嬉しくてその日の午後はずっと舞い上がっていた。






「ホンット、何度見ても成人している大人のデスクとは思えない有様だな」


鷹梨さんが、私の部署に来るようになってから何度目かの台詞をまた吐いた。

嫉妬されて喜んだ自分が馬鹿らしくなった。


「何言ってるんですか鷹梨さん、イチゴがいっぱいでかわいらしくて、こういうのを女子力が高いっていうんですよ」


私がムカついて押し黙っていると、烏田くんが反論してくれた。

できた後輩である。


「おい、カラス」

「烏田です!」

「お前はそんなこと言ってるからまだまだなんだよ。っていうか、癒やしを求めて女子に会いに来て、なんで毎回お前に邪魔されなきゃいけないんだ。あっちいけ!」


鷹梨さんは手でしっしっという仕草付きで言う。

まるで小学生だ。


「女子力の高さもわからない人に言われたくないですね!そうだ早川さん、昨日イチゴの小さくてかわいいぬいぐるみ見かけたんですけど、あげたら飾ってくれます?」


唐突に会話が振られてきて私は戸惑った。

隣りでは鷹梨さんがまだイライラオーラを放ちながらじっとりと見てくる。


「あ…いいよいいよ!自分で選んできたものを飾るようにしてるから。ありがとう」

「そうですか…わかりました」


…って言いながら、ここに飾られているものの中には鷹梨さんから貰ったものもある。

でもそれはその、鷹梨さんだけが特別ってことで。

それが伝わっているかと彼を見やったけれど、相変わらず烏田くんに茶々を入れて子供じみたことをやっていたので、私は呆れて放っておいた。






休憩時間に、社内食堂があるにも関わらずわざわざ会社を出て向かいのコーヒーショップに行くのは、一人になりたいからである。

休憩時間ぐらい他の人に気を使いたくない。


‥なんだけど。


「クロックムッシュだ、おいしそ~!見て俺、Aセット」


また鷹梨さんが、私のいるテーブルに当然のように同席してきた。


「給料日過ぎたからでしょう」

「お、よくわかったね。これ肉入ってておいしいからつい頼んじゃうんだよね」


ニコニコと嬉しそうに説明してくれる。


彼と食事に行くようになってわかったのは、彼がおいしいものを前にしたときの笑顔。

私はこれにも弱いのである。

だから、一人になりたい休憩時間でも、彼だけは受け入れてしまう。

ま、惚れた弱み、みたいなものなんだろうけれど。


「それにしても、前に大きいサンドイッチとケーキまで食べてた人が、クロックムッシュ一つで足るの?」

「…別にいいじゃないですか」

「給料日も過ぎてこれとは‥‥まさか、ダイエットなんてしてないよね?」


ギクリとして、下を向いたまま沈黙した。

前にもダイエットで食べる量を減らしてると伝えたら、怒られた。


「…あのさぁ、俺は逆に、早川さん痩せすぎてるって思ってんの。それでさらにダイエットとかして、倒れたりしないか心配なの。わかる?」

「うん…でも、鷹梨さんとよく外食行くようになって、確実に体重が増えたんだもん。そりゃ気にするよ」


だって、女の子は好きな人の前ではかわいくいたい。

そういうものでしょう?


「気にしなくていい。俺、早川さんがどんな体型でも好きでいられる自信あるよ。ただまぁ、さすがに気になるぐらいになったら俺から言うからさ。それまではちゃんと食べて。ね?」


優しい顔で、頭を撫でられた。

嬉しい言葉に優しい仕草で、私は顔から火が出るかというくらい赤くなった。

真っ赤なまま、頭をこくんと傾ける。


「そだ、ケーキ食べよう!どれがいい?買ってくるよ」

「あっ、じゃあ、イチゴのタルトがいいっ…!」


食べたくて我慢していたことがバレたのだろうか、彼はよく見せるニヤリとした笑いを向けた。

くそう…してやられた気分だわ。


「おいしい~!おいしいです鷹梨さん!」


私が喜んでいると、彼は「あー」と言いながら口を開けてあーんを強要してきた。

照れながらも一口あげると、目を大きくしてにかっと笑った。


「ホントだ、おいしい!」

「これね、新商品で出てるって、烏田くんが教えてくれたの」


瞬時に、鷹梨さんの笑顔が固まった。


「…あのさぁ早川さん。俺としては、彼女とイチャコラしてる場で彼女を狙ってるヤツの名は聞きたくないんだけど」

「狙ってる?うっそだぁ」


私が笑い飛ばすと、彼は真剣な顔をして話しだした。


「その1、早川さんが好きなイチゴの話題を振ってくる。その2、俺が早川さんの部署に行くと必ずと言っていいほど邪魔してくる。その3、俺に対して明らかな敵対心をオーラで主張してくる」

「は、はあ…」

「…ホンット、早川さんって鈍感だよね」


ムッとしたけど、言い返せなかった。

鷹梨さんとの時だって、彼のアピールだと気づかずにいた人間だから。

でもそれは、モテる彼がまさか私を好きだなんて思わなかったからで。


「こないだもさり気なく、早川さんの手に自分の手を乗せてマウス動かしたら、あいつすんごい怒ってたんだぜ?気づかなかった?」

「はい…」

「そうだろうと思った」


しゅんと落ち込む私の頭を、彼はまた優しく撫でてくれた。


恋人同士になってから、彼はよくこれをする。

そういえば他の女子にしているのを見かけたことがないので、特別なんだと実感できて嬉しい。


「その1はほら…実際俺もしてただろ?その…早川さんの気を引こうとして」

「あ、イチゴのチョコとかをくれてたやつ?でもあれは私も純粋に嬉しかったんだよ、好きな人から好きなもの貰えて。こっそり飛び上がるくらい喜んでたんだから」

「そうか…ねえ、キスしていい?」

「だっ、ダメに決まってんでしょ!」

「そうか、残念。嬉しさを表現しようとしたんだけど」


もう、彼といると心臓がもたない。

休憩時間なのに休憩になっていない気がする。

でも、一人でいるよりもとっても楽しいのだ。


彼は時計をチラッと見る。


「お、そろそろ戻ろうか」


彼はもう先に戻るとは言わなくなった。

当たり前なんだけど、それさえも私は嬉しいのだ。






「じゃじゃーん!見てこれ!早川さんに似てない?!」


また私の部署にやってきた鷹梨さんは、イチゴの着ぐるみを被ったウサギの人形を見せてきた。


「似てませんよ!でも、かわいいてすね」

「でしょー?なんでイチゴを被ってるのかは謎なんだけど。早川さん気に入るかと思って買ってきたよ。あげる!」

「え、鷹梨さんがこれを、店頭で買ったですか?」

「もちろん。女の子のものばっかりのファンシーショップで」


ふ、不似合いだ…!

ファンシーショップでウサギを買う鷹梨さんを想像したらおかしくって、笑いが止まらなくなった。


「…そんなに笑うとこ?俺もすごい恥ずかしかったけどさ」

「ふくく…!ははは、あ、ありがとうございます…!」


私は笑いながら、デスクの正面にウサギを置いた。

うん、周りのイチゴとの相性が抜群だ。


ふと、視線を隣りから感じた。

おそらく烏田くんだろう。


あれから意識して、彼に必要以上に絡むのはやめた。

変に期待させても悪いし、鷹梨さんにも悪いからだ。


今回はさすがに、気づいたかな…?


そう危惧していると、プッと吹き出す音がしたかと思うと、烏田くんが突然笑いだした。

ぎょっとして私は彼を見る。

鷹梨さんも同様の反応をしていたらしい。


「‥おいカラス、どうした?」

「くははは!あなたには負けますよ、鷹梨さん。完敗です!俺は一人でそんなとこ入れません」

「お前…やっぱり話聞いてたのか」


鷹梨さんは睨みを効かせたけれど、彼はまだ笑っていた。


「っはー、笑った笑った!早川さん、俺、あなたのこと気になってたんですけど、俺には適わない相応のお相手がおられるみたいなんで、俺身を引きますね」

「は、はあ…」

「これからも、今まで通り接してくれますか?」

「そりゃあ、もちろん‥」

「おいおい、意味分かってんのか?」


横から鷹梨さんに、肩をぐいっと寄せられた。

なんだか心配そうな顔をしている。

な、なにが?


「『告白して実質振られたけど、今まで通りで』ってことを言ってるんだぞ?」

「こ、こく…?!」

「やっぱり分かってなかった。な?カラス、早川さんの鈍さを甘く見ちゃいけないんだ」

「ええっ!?…ってことは、これまでしてきた僕のさり気ないアピールも、伝わってなかったんですかね‥?」

「そう!そうなんだよ!それが早川さんなんだよ!悲しいだろ?!」

「鷹梨さん…それでよくここまできましたね‥!」


さっきまで恋敵だったらしい二人が、今や向き合って語り合い意気投合している。

私はほったらかしで、私の話をしている…っていうかこれ、私の悪口の言い合いじゃないの??


「タカ先輩、俺、タカ先輩が普段冗談ばっかり言って女性社員をいじってるの軽蔑してたんですけど、今回ばかりは感服しました!俺にもその極意、教えてください!」

「おうカラス、お前もでまかせを駆使して女子と仲良くなるか!楽しいぞ!」

「はい先輩!」


二人はいつの間にかお互いの独特の呼び名を習得していた。

なにこれ、部活のノリ…?


散々盛り上がっている二人を叱咤しようと席を立ったら、私より先に彼らに近づく人物がいた。


「二人とも?そんなことばっかりやってると、私がただじゃおかないわよ‥?」


二人の肩に手を置いて振り向かせた後藤さんは、とびっきりの笑顔で言う。

見た目ではわからないが、肩に置かれた手には相当の力がこもっているに違いない。

二人の顔が瞬時に引きつった。


「はい…すみません」

「よろしい」


二人は声を揃えて返答した。

ここで後藤さんに逆らうことは、男性社員にとって死をも意味するだろう。

後藤さん、さすが。


「大人なのに怒られちゃったよ、ははは」

「自業自得ですね」


しょんぼりして私の席のそばへ戻ってきた彼に、一言言い返してやった。

これに懲りて、他の女性社員とのお喋りを控えてくれると、私も嬉しいんだけど。


「でもよかった」


優しくそう言った鷹梨さんが、座り直した私の近くに顔を寄せてきた。

瞬間私はドキッとする。


「これで、あいつが早川さんを狙わなくなった。なぜか慕われもしたし。ラッキーだな」

「そう、だね」


彼は私の頭をぽんぽんと撫でた。

このまま流されそうだけど、私からも釘を刺しておかないと。


「で・も!後藤さんが言ったみたいに、烏田くんに変なこと吹き込まないでよ?かわいい後輩には変わりないんだから」

「はいはい」

「鷹梨さん自身も、口からでまかせはほどほどに。ね!」

「はーい」


彼は苦笑すると、手をひらひらと揺らせてフロアを出ていった。


そうは言っても、彼のでまかせは治らないだろう。

私の気苦労は尽きないようだ。

彼の背中を眺めながら、私は苦笑混じりに溜め息を一つついた。







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