Reddened -25ページ目

Reddened

stories, and so forth.

 
 
 
 
 
 
 
「初めて会ったのはね、確か去年の夏なんだ」
 
私はいつものように友人に恋バナを始める。
 
「マイナーな山に登ってて、小屋があったからお昼にしようと思ったらそこは無人のところで。でもそれも知ってたから、持ってきてたおにぎりを食べてたの」
 
彼女は聞き上手、何度目かの同じ話だったとしてもちゃんと聞いてくれる。
 
「他にも小屋で休憩してる人は何人かいてね。で、年配の夫婦が小屋にやって来て」
 
うんうんと聞いてくれる彼女の前で、私はその夫婦の声色を真似する。
 
「『あらっここ無人のとこだわ!どうしようお父さん、お昼の用意持ってきてないわ』って。なんかお菓子くらいしかないわって会話されてて。そしたらさ、突然彼がその夫婦に声かけたの」
「なんか、あんたの時とパターンが似てるわね。あんたも困ってたらすぐ彼が助け舟出してくれたんでしょ?」
「そう!私の時は缶切りがなかったのをすぐ気づいてくれたんだけど」
 
私と彼女が話している“彼”とは、この夏私を助けてくれた彼のことだ。
そのことは登山から帰ってきてすぐ彼女に報告済みである。
 
「彼ね、自分はもう下山するだけでカップラーメンが残ってるから、よかったらこれどうぞって、二つも!」
「やっさし~」
「そう!優しいの!しかもね、自分が作ったときのお湯がまだあるし、これに継ぎ足して使ってくださいって、お湯まで!私その時感動して!」
 
もはや立ち上がって力説しそうな私を、彼女はどーどー、と落ち着かせる。
 
「一人で登るのって寂しいときもあるけど、こういう素敵な出会いもよくあるから、それも一つの醍醐味だと思ってて」
「そうね。てか、その彼って困ってる人を放っとけないタイプなんだ」
「そうみたい。もうそのご夫婦感激されててさ~。そのあと三人で談笑してて、こっちまでほっこりしちゃった」
「なに、あんたそれをずっと見てたの?」
「や、見てたっていうか、おにぎり食べてデザート食べてってしてたら、一部始終全部見ることになった」
「相変わらず食べるの遅いわね~」
「うるさいなー。で、その時はそれで終わって、あーまた会えたらいいなーって思ってたけどそう簡単には会えなくて、ちょっと忘れかけてたところに、こないだの再会があったの」
 
私がまだ話そうとしたのを、彼女の携帯の着信が遮った。
 
「あっ!そうだ昼にゼミの子と会うんだった!ごめん私行くね!はいもしもし?!」
 
忙しそうに荷物をまとめて彼女は駆けていった。
あーあ、話はこれからだったのに。
って、彼女には3回は話してるけど。
 
 
 
こないだ、夏休みも後半になった頃に登った山で、彼に偶然再会できた。
私が缶切りがない!って思った次の瞬間に、彼は現れた。
最初は親切な人だなぁって思ったくらいだったけど、少し話して離れた後、思い出した。
この感じ、あの声のトーン、間違いない、あの人だ!
でも思い出したのが遅く、今さらまた声をかけるのも変だったし、その時は諦めた。
でも、もしかしたら宿が一緒かもしれないなぁと、期待しながらその日は登った。
いつもより疲れやすくなくて、足取りが軽くて、この一つの気持ちだけでこんなにも変わるんだって、少し驚いちゃった。
 
山小屋に着いて、彼を見かけたら思わず声が出てしまった。
たぶん同じ宿だろうって予想はついてたけれど、いざ目にしたらびっくりするもので。
眠っていた彼を起こしてしまって、悪いなと感じつつ、いつものクセで私が一方的にお喋りしすぎていたら、宿の人に知り合いと勘違いされた。
その結果、彼の隣りに布団が移動され、そのあともずっと行動を一緒にすることになった。
宿のおばちゃんに、感謝感謝。
 
寝る時はさすがにドキドキしたんだけど、みんな雑魚寝の山小屋だからお布団の中で会話することも出来ないし、でもせっかく隣りになったんだからもうちょっと話したいな、なんて一人で悶々と考えて。
ふと隣りを見たら、彼はもう眠ってた。
疲れてたのかなー、そりゃそうだよね、山登りしてるんだもん、なんて思いながら、その寝顔を少しの明かりの中しばらく眺めていた。
ああ、なんか、癒されるなあって。
困った人を放っとけない、優しい彼。
特にイケメンって訳ではないけれど、そんなことは関係ない。
彼の人柄にものすごく惹かれた、というか、もう既に惚れていた。
この登山が終わったあとも、連絡を取りたいなぁと思ったら、次の瞬間には体が勝手に動いていた。
まだ食べていないお菓子と、お気に入りの付箋とペンをリュックから出した。
お菓子の箱の上に、彼宛てであることを書いて、中に自分の連絡先を入れた。
それを、彼と私の布団の間に置く。
ここがいいかな、いやこっちの方が気づいてくれるかな、なんて何度か位置を変えて。
彼は連絡をくれるだろうか――いや、そもそも、このお菓子を受け取ってくれるだろうか。
お喋り好きな迷惑な女と思われていたらどうしよう…そんな考えが頭に張り付いて離れない。
不安にかられながら、彼の寝顔を見つつ、自分も眠りに落ちた。
 
ふと、物音で目を覚ます。
瞼を開くと、彼が携帯画面の光の中で身支度をしていた。
慌てて目を閉じる。
だ、だって、もしお菓子を見て嫌がる反応なんかをされたら、私、堪えられない。
寝たふりをしていると、僅かに「こんなのしかないや…」と漏らす彼の独り言が聞こえた。
なんのことだろう?と思っていると、枕元でカサ、と音がしたあと、彼が荷物を持って去っていく気配がした。
ちょっとしてから、目を開ける。
彼はやはりもう出ていったようだ。
枕元に手を伸ばし、触れたものを携帯電話の明かりで確認した。
スニッカーズだぁ…!
それを見た途端、そのチョイスに彼らしさを感じてほっこりしたのと、拒否されずにちゃんとお返しまで貰えた安堵感で、なんだか泣きそうになった。
 
そのあとの私は、携帯電話を何度見たかわからない。
山頂に着いたら確認して、下山途中の小休止でも確認して、とにかくこんなことは初めてっていうくらい、山への名残りもなく黙々と目標を目指しては携帯電話を気にした。
しかし、いざメールの着信音を聞くと、ドキドキして逆に見れなくて、もう少しで下山しきるところでもあったので、すぐには確認しなかった。
ようやく登山口最寄りの駅に着いたときにメールの内容を見た。
彼もまた会いたいと言ってくれていて、身体が疲れているはずなのに飛び上がってしまった。
 
 
 
で、今日友人に話を振ったのは、その後のことで相談したかったから、なのだ。
彼女とは昼過ぎの講義でまた会えたので、ようやく本題の悩みを切り出す。
 
「二人でどこか行くの?」
「そう。山じゃなくて、普通のところ。どこがいいと思う?」
「なんだ、デートじゃんそれ!」
「デっ…?!??」
「ハハハ、照れるな照れるな。そっかぁ、山バカのあんたがデートねえ」
 
ようやく連絡先を交換できた私たちは、意外と近い大学の学生どおしだったことが判明した。
で、また会う話になったんだけど、どこに行くかは私の返事待ちだ。
 
「デ、デートっぽくしちゃうと、私が緊張しちゃうから、違う感じがいいなぁ」
「初いわね~。てか、話ができればあんたはそれでいいんでしょ?だったら喫茶店とか、そういうところでいいんじゃないの」
「えーっ、でもお話目的で行って、話題がなくなったらどうしよう?!」
「んーあんたに限ってそれはないと思うけど…。あ、それか、登山関係のお店に二人で買い物に行くってのは?何か買いたいものとかないの?」
「おお~!あ、リュックを新しいものにしたいとは思ってるけど…」
「それだ!で、買い物行ってお茶するってのでいいんじゃない?初めては」
「そ、そうだね!」
 
彼女に良い案をもらったので、それを彼にも提案してみると、二つ返事でOKしてくれた。
やっぱり山が好きなんだなぁ。
 
 
 
そして、デート…じゃなく、ショッピング当日。
山での印象を変えるために女の子らしい服で、と友人にアドバイスをもらっていたので、自分の持っている中で一番女子っぽい服装で出掛けた。
 
「数馬さんこんにちは、お久しぶりです!」
「おー久しぶり‥‥ッ」
 
挨拶をすると、彼は数秒固まった。
あ、どうしよう、変な格好だとか思われたかな。
 
「数馬さん…?」
「はっ、あ、ごめん牧ちゃん!よしっじゃあ早速お店行く?俺良い店知ってるんだよ」
「はい、お願いします!」
 
彼の行きつけだというお店は品揃えが豊富で、彼は店員さんとも親しいらしく、私の体格とか希望を考慮してどれがいいか二人で真剣に考えてくれた。
 
「こないだ初めて見かけたとき、リュックが大きすぎないのかなって、ちょっと心配になったんだ」
「ん~、でも私、なにかと荷物が多くなるんですよね」
「あ、缶詰とかお菓子入れてるからだ」
 
ニヤリと笑う彼。
 
「う…。一応非常食としても持っていってるんです!」
「はいはい。あ、缶切りとかのツールは持ってる?」
「持ってます!こないだは忘れちゃって。その節は本当にありがとうございました」
「いえいえ~」
「いやーしかし、登山好きの彼女って、数馬くんにぴったりだね!」
「ちょ、田中さん!彼女じゃないです!こないだ出会ったばっかりです!」
「あ、じゃこれからだ」
「田中さん!!もう買わないですよ!」
「あはは、ごめんって!」
 
店員さんの冷やかしに真っ赤になっている彼を見て、私も頬が熱くなった。
 
二人は容量がたくさん入って、なおかつ軽量、だけど丈夫なものを選んでくれた。
 
「でもね、これ値段がちょっとお高いんだよね…」
「大丈夫です!価値のあるものにはそれだけの対価を払う意味がありますから!」
「おお、牧ちゃん、かっこいいこと言うね」
 
支払いが終わると、その荷物を彼は自然に持ってくれた。
彼氏みたい…本当に彼氏みたいじゃん…!!!
私は心の中で悶えた。
 
 
 
買い物を終えた後は、今度は私のオススメのカフェに案内した。
ランチがとっても美味しいし、ボリュームもある。
 
「こういうところって、連れてきてもらわないと入れないね」
 
周りが女子ばっかりなのを見渡して、彼は照れながら言った。
 
「そうですね、他にもいっぱい紹介したいお店あるんですよ。また今度行きましょうね」
「うん、是非!」
 
って、私はなに次もあるような口振りで話してしまってるんだろう、別の意味で照れてしまった。
ランチの間は、こないだの登山の時と同じように、私ばかり喋ってしまった。
なんというか、彼が聞き上手で、すごく話しやすいのだ。
そんななか、話題の映画の話になった。
 
「友達がすごく楽しみにしてたらしくって、公開初日に講義を休んでまで観に行ったらしいんですよ」
「うわ、相当だ」
「てか、やりすぎですよね?それで期待以上に面白かったらしく、それから2回は行ってます」
「えっ?!そんなに?SFのアクション映画だったよね、確か。CMで見たけど、そんなに面白いんだ…ちょっと気になってきた」
 
そういうと彼は携帯電話を取り出した。
 
「…お、ここから5分歩いた先にある映画館でやってるよ。観に行く?」
「えっ、これから?!いいんですか?」
 
このあとはカフェを出てさよならだと思ってたから、まだ一緒にいれることに胸が高鳴った。
 
「14時からのなら席はまだあるみたい。一緒に観ない?」
 
うわっ、え、映画を観るなんて、まさにデートみたい…!
っていうか、一緒に観ない?ってかっこよすぎ、殺し文句だ!
 
「観ます!」
「よし、じゃ席予約しとくね」
 
案外行動派なのかもしれない…そんな彼の新しい一面を見ることができてまた嬉しかった。
 
 
 
**********
 
 
 
どうしよう、俺はどうしたらいい?
 
今日は初っ端から「どうしよう」だらけだった。
気になっている子、牧ちゃんとのデート…いや、俺がそんなふうに言うのもおこがましい、ただのおでかけで、待ち合わせでまず一回目がきた。
彼女が、登山の時とは印象が全然違う格好で現れた。
めちゃくちゃ、かわいい。
かわいすぎて、俺は一瞬固まってしまった。
変に思われてなければいいんだけど。
 
二回目は、馴染みの店で牧ちゃんを彼女と間違われた時だ。
俺は動揺して、どうしようどうしようと一瞬考えて、結局は真っ赤になりながら否定した。
火照る頬が自分でもわかるくらいだったので、それを見た彼女がどう思うか気になったが、もう何もかも恥ずかしすぎて見れなかった。
 
そして、今。
今日は買い物をしてごはんを食べたら解散の予定だったが、それが嫌だった俺はなんとか一緒に映画に行くことに成功した。
で、その観にきたSF映画、アクションものだけれど感動させるシーンもあって、俺も正直うるっときた。
隣りの牧ちゃんはなんと、大泣きだ。
女の子と映画なんて来たことがない、ましてや隣りで泣かれたこともない身だ、どうしたらいいか全然わからない。
とにかくそっと、隣りを覗き見てみた。
牧ちゃんはハンカチを顔にあてて、「うう~」と静かに呻いていた。
小動物みたいでかわいい。
・・・じゃなくて!
 
「だ、大丈夫…?」
 
俺はそっと小声で聞いてみた。
 
「・・・・・っ!」
 
潤んだ目でこっちを見上げ、ふるふると首を振る。
かわいい、という感情とともに、泣いている彼女を慰めてあげたい、と思って。
次の瞬間には俺の左腕が勝手に、彼女の肩を抱き寄せていた。
彼女は俺の左胸に顔を埋め、鼻を啜っている。
 
そこから先、映画の内容なんて入ってくる、わけがない。
俺の心臓が早く打ってるのはたぶん牧ちゃんにバレバレだ、どうしよう。
牧ちゃんは少し大人しくなったけど、いつまで肩を抱いていていいのかわからない、どうしよう。
なんなら左手で彼女の頭をぽんぽん撫でてあげたいけど嫌がられるかな、どうしよう。
 
そう思い悩んでいるうちに、なんか、僅かにすうすうと寝息が聞こえる気がした。
そっと彼女を見てみると、泣き疲れたのか、俺の胸に身を預けたまま眠っていた。
 
だからっ…君はなんでそう無防備なんだよっ…!!
 
俺は心の中でそうツッコミを入れつつ、今がチャンスといわんばかりに頭を撫でた。
 
 
 
「本当に、何から何まですみません!!!」
 
映画のエンドロールを終えて明るくなってからようやく目を覚ました彼女は謝り倒した。
いやいや、良いんですよ、逆においしい思いをさせてもらえたんだから。
と思いつつそれはさすがに言えない。
 
「いいって、何にも気にしないで!」
「いや、ホントに、あの、今度お詫びさせてください!」
「お詫びなんてそんな…」
 
スクリーンを出て外に向かいながら、彼女はずっと頭を下げている。
そんなに気にしなくでいいのに。
 
「じゃあ、また一緒にデートしてくれる?」
「デっ…!?」
 
真っ赤になって飛び上がりそうになっている。
今日は本当に彼女のいろんな面を見れて嬉しかったな。
 
「デート、ですか‥」
「うん、デート」
「…はい、もちろん、行きましょう、また」
「やった!」
 
もう俺、アピールしすぎて牧ちゃんのことが好きなのきっとバレてると思うけど、彼女のこの反応は、期待してもいいんじゃないかな、なんて。
 
「あ、でも一つ、言っておきたいんだけど」
「なんですか?」
「男の前で、あんまり無防備でいない方がいいよ。その、食われちゃうかも」
 
俺なりの優しさだ。
いつか、俺だって食っちゃうなんてこと有り得るんだからって、釘を刺しておかないと。
しかし、彼女には伝わりづらかったらしい、きょとんとした顔をされた後、ニコッと笑顔になった。
 
「わかりました!数馬さん以外の人の前では泣いたり寝ちゃったりしないようにします!今日はありがとうございました、それじゃまた!」
 
そう言って彼女は駅の改札を抜けていった。
 
なんっにも、伝わってなかったな・・・。
 
ま、そこも彼女のかわいいところだと噛み締め、次に会えるときまでまた理性を鍛えておこうと思った。
 
 
 
08012017