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Reddened

stories, and so forth.

 
 
 
 
 
 
 
「今日は来てくれてありがとう、助かった」
 
なに言ってんの、自分が来いっつったくせに。
そう思った言葉をぐっと飲み込む。
 
「いいえぇ、どうせ暇だったし」
「だろうな」
 
こいつ…!!
 
今日も日曜にきっちりと制服まで着て、市役所側の公園でイベントをおこなった委員長は、私の気持ちを逆撫でするのが本当に得意なようだ。
 
いつもそうだ、いつも。
 
学生の貴重な休日にわざわざ来てあげているのに、毎回皮肉も言ってくるし、それに毎回反論をする私の体力は常にすり減らされる。
 
でも、いつもなら言い返してやるけど、今日は、しない。
 
「じゃ、帰るね」
「あ、ちょっと」
 
不貞腐れたまま帰ろうとしたのに呼び止められた。
 
「急だけど、来週も来れないか?暇してるだろ?いつもと同じように私服で、時間も同じだ」
 
へえ、二週続きなんて珍しい。
不貞腐れてて、皮肉も言われてムカつくんだけど、断る気がさらさらない自分にちょっと呆れる。
 
「大丈夫、来週も空いてるし」
「そうか、よかった。じゃ、集合は駅前で」
「はーい」
 
そう言って帰る方向へ歩き出す。
ヤツはヤツで委員会の集まりの方へ向かったようだ。
少し進んだ先で振り返って見てみた。
 
委員会の連中は片付けが終わると、いつもお疲れ会という打ち上げのようなことをやっているらしい。
打ち上げといっても学生なので、カフェとかレストランでジュース一杯飲んで帰るだけだそうだが。
最初のころ終わってから誘われたが、委員会の知らない人たちと功を労う気はないので断った。
今日もそのお疲れ会に行くのだろう、荷物をまとめた彼らは戻ってきた委員長の周りに群がっている。
その中でも一番近くで話を楽しそうにしている、それはまあ可愛らしい後輩ちゃんがいた。
 
私の不機嫌の、原因だ。
 
 
 
私は、晴れ女だ。
 
行く先々で晴れる訳ではなく、晴れてほしいと願ったら、晴れる。
自分で気づいたころには、周囲には周知の事実だった。
というより、他人に言われてそういえばそうだと気付いたのだ。
それを聞きつけたのが、ヤツだ。
 
ヤツの委員会は、週末にイベントを開催して地域との交流をはかるようなことをしているらしい。
毎週ではないけれど、月に1、2回。
そのイベントが外でおこなわれる際、ヤツに呼ばれるようになった。
 
『イベント自体に参加しなくていい。ただ、会場に居てくれたら。好きなように過ごしていい』
 
最初はビックリした、面識が全くなかったから。
他のクラスの名前も知らなかった委員会の男子からお願いされ、それも結構切実に見えたので、渋々行ってあげた。
行くからには晴れを願ったら、案の定快晴で、イベントは大成功を修めたらしい。
その時に、とびっきりの笑顔でヤツに感謝されて、それで……おちた。
 
普段は厳しい顔つき、厳しい文言でいるヤツが、心からの笑顔で喜んでくれて、まあ、ギャップにやられたというか。
 
それから頼られたら参加するようになったが、ヤツの本来の性分らしい皮肉言いなところに、私は毎度全力で応戦した。
 
『よくもまあ毎回予定が空いているな。年頃の女子として寂しくないのか』
『あんたたちの為にわざわざ空けてんの!事前に日にち指定してくるから来てあげてんのに…。そんなこと言ったらもう来ないよ?!』
『それは困る。けど、心配になる』
『あんたは私のお父さんか!』
 
そういうやりとりがまた楽しくて、週末以外も学校で会ったらよく喋るようになった。
 
もしかしたらこんなふうにヤツと言い合えるくらい仲が良いのは自分くらいなのでは?と自惚れつつあった矢先、委員会の集まりの中でよくヤツと一緒にいる後輩が気になった。
一つ下の学年らしいその子は、明らかにヤツに媚びを売っている。
ヤツはそれを知ってか知らずか、いつも通りクールに対応していた。
 
いや、もしかしたら、二人はもうそういう仲なのかもしれない。
そう思いながら参加した今日のイベントで、決定打と思われる場面があった。
 
『先輩、あの件どうでした?』
『ああ、OKだったよ。やったな』
『ホントに?!嬉しい!』
『どこ行くんだっけ?水族館?』
『あっ、秘密です!楽しみにしてもらいたいんで』
 
デートだ…デートの約束の話だ…!
 
委員会の集まりから少し離れたところで話す彼らの会話を漏れ聞いて、しばらくその場から動けなかった。
 
 
 
「で?そのあと悔しいから会話も全然返さなかったってこと?」
「そ」
「でも、諦める気はないんでしょ?来週も行くってんだし」
「う・・・」
 
学校の廊下を歩きつつ移動先の教室へ向かいながら、私は親友と話す。
彼女にはなんでも相談している。
もちろん、恋バナもだ。
 
「もうちょっと、足掻いてみようかなって…」
「あ、噂をすれば委員長」
 
ドキッとした。
 
向かい側から、ヤツがやってきた。
…隣りに、あの例の後輩を携えて。
 
「あ、お前いいところに。来週のことなんだが‥」
「はいはい、ちゃんと行きますよ!急いでるんで」
「あっ、おい!」
 
私は逃げるように急ぎ足で通りすぎた。
 
「・・・私は急いでないけどな?」
「ごめん巻き込んじゃって。だってムカついたんだもん、一緒に歩いてて」
「まー、あれは気になるわな。でも何か用事だったっぽいよ?」
「大丈夫、本当に大事な用事だったらクラスまで直接聞きに来るでしょ」
 
だが、私はその後も、ヤツを徹底的に避けまくった。
だって何かと出会い頭に話そうとするし、かといって会いには来ないし。
何を話したいのかは気になったけど、もしかしたら付き合っている女子がいるかもしれないヤツが、少しでも私のことで困ればいい、と思った。
 
 
 
そんなこんなで一週間が経った。
困ればいい作戦はまだ続いていて、晴れを願わなかったら、朝から雨が降ったり止んだりしていた。
私は少し早く着いた駅前で、傘をさしつつ委員会の連中を待つ。
でも、駅前で集合なんて珍しいな、普段はイベントの現地集合なのに。
 
「ごめん、遅れた!」
 
声に気づいて傘をあげると、少し雨に濡れたヤツが走ってきた。
傘もさしていなかったので、腕を伸ばして傘に入れてあげた。
 
「全然遅れてないよ、まだ集合時間前」
「いや、お前が時間より早く着く性分なのを知っていたのに待たせた、すまない」
「え、でもみんなもまだだよ」
「みんな?今日は俺とお前だけだが」
「・・・え??」
 
そういえばそうだ、考えてみればおかしい。
 
イベントが二週続きで開催されることなんてなかったし、駅前で集合なんてなかったし、それに、今日のヤツは制服じゃなくて、私服だ…!
 
「きっ、聞いてない!」
「ああ、先週言い忘れてたな。でも、その後お前、学校で話しかけても全然聞かなかったじゃないか」
「うぐっ」
「何か俺に対して怒ってるんじゃないか?先週のイベントの途中からずっとそうだ。俺、何かしたか?」
「いや、その…」
 
勝手に自分が不貞腐れてただけなんて、恥ずかしくて言えない~!
 
しかも、私服のヤツはいやにカッコよく見えて、首を傾げて顔を近づけて聞いてくるので、より恥ずかしさに拍車がかかる。
 
「今日はその、お詫びなんだ。何かしたなら謝りたかったし、日頃の感謝もしたくて」
「…別に、何も怒ってない」
「本当か?」
「今日一日一緒にいてくれたら、たぶん機嫌もなおる」
「…そういうものなのか?」
「そういうもんなの!で、どこ行くの?」
「そのことなんだが、どこに行きたい?」
「…は?」
「いや、今日どこ行くかを一週間ずっと聞こうとしてたんだ。なのにお前、聞かないし」
「なにそれ?!じゃ決まってないの?!」
「決まってなくはないが、お前の希望も聞こうかと思って…。あ、でも、水族館はダメだぞ」
 
水族館、というキーワードにドキッとする。
その言葉は、私をどん底へ落とした元凶だ。
 
「今日弟が彼女とデートなんだ。その先が水族館だから、鉢合わせしたくなくてな。あ、弟の彼女はあの子なんだ、委員会の後輩で、お前も見たことがあるはずなんだが…ん?どうした?」
 
私はガックリうなだれていた。
 
ってことはなに?
先週のあの会話は、弟さんと後輩のデートの話だった、ってこと?
 
ってことはこいつは、あの子とは付き合ってないんだ…。
 
「…なんでもない」
「本当か?あ、遅れた言い訳させてくれ。その弟がデートなんて初めてだからと、俺にまで服のアドバイス聞いてきたんだ。それにつきあっていたら俺まで遅れて、傘を持ってくることさえ忘れた」
「ふふっ、弟さん、かわいいね」
「つきあってやる俺も俺だがな。でも、久しぶりだが雨も良いもんだな」
「え、なんで?」
「こうやって相合い傘ができる」
「なっに言ってんの!バカじゃない?!ふん、こんな雨なんて私がすぐ晴らしてやるわよ!で、まずどこ行くの?!」
「ちょ、なんで先歩くんだ、俺も傘に入れてくれ」
 
雨雲が程なくして空からなくなり快晴になったのはいうまでもない。
 
 
 
 
02022017