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Reddened

stories, and so forth.

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、元気ないじゃん」


朝の挨拶でもしに来てくれたのだろう彼女は、憂鬱な私の心情をすぐ察知してくれた。

できた親友である。


「そんなに顔に出てる?」
「うん、なんか生気がない。月曜からそんなのでどうするのさ。また委員長絡み?」
「うん、まあ、ね」

 

最近の私の気分は彼にかき回されっぱなしだ。

 

 

 

月に1、2回、地域との交流イベントを企画する委員会がうちの学校にはあって、その委員長に度々呼ばれては参加している。
なぜなら、私は願ったらたいてい晴れにできる、晴れ女だからだ。
何かと皮肉を言ってくるヤツなんだけど、悔しいことに、私はヤツに惚れている。
彼に頼まれては日曜にイベントに参加する日々を送っていた…はずだった。

 

「もう来なくていい?って言った?」
「言った。今までありがとうな、委員会に入ってないのに来てくれて」
「ああ、いや、うん。それはいいんだけど」

 

日曜にいつもどおり天気を晴れさせて、イベントが無事終わった時だった。
いつものように、打ち上げに行く前に私のところに労いに来てくれたヤツは、突然爆弾を落としてきた。


「でも、なんで?」
「ん?ああ、考えてみたら、無理に晴れさせなくてもいいんだ、いつも雨の場合も一応考えているし。お前の休日を削ってまでしてもらうことではないなと、今さらだか気づいてな」
「ふうん…」

 

そんなふうに言われたら、私はなにも言えない。

休みにもヤツと会えて私は嬉しかったけど、やっぱりヤツにとって私は『晴れ女』という存在なだけだったってことか。

 

ポカンと、胸に大きな穴が開いた気分だ。

 

「わかった。あーもう来なくていいと思うとせいせいするわ」
「そうか。俺は楽しかったぞ」
「…!!」


もう!そういうこと言うの、ホントやめてよね!
こんな言葉ひとつで、私は喜んじゃうんだから…例えそれが形だけの言葉でも。

 

「冗談!私もそれなりに楽しかった!それじゃね!」

 

 

 

そんなやりとりがあったのが昨日だ。


「なるほどねぇ…。それで凹んでるんだ」
「不貞腐れてる、とも言うわね」
「でも、なんでなんだろうね?突然。嫌われたわけでもないんでしょ?」
「うん、たぶん…。でもさ、日曜に会えないけど、学校では今まで通り会えるわけだし。そんなに落ち込むことじゃない、かな?」
「そうだよ!むしろ学校でもっと会ったり喋ったりすればいいんじゃん!」
「うん、そうだね、私がんばる!…ん?」

 

話しながら何気なく教室のドアの方を見やると、委員会に入っている男子が私に向かって手を大きく振っている。
隣にはヤツがいて、ちょっとドキリとした。


「どうしたの?」

 

急いでドアに向かうと、男子…ええと、名前は知らないんだけど、前に私のことをヤツの彼女さんだって言ってきた彼は、「はい!」と私に缶ジュースをくれた。

 

「缶ジュース?くれるの?」
「そー!これね、昨日参加してくれたイベントの親御さんたちから貰ったんッス!みなさんにって全員分くれたから、晴れ子ちゃんにもあげる~!」
「ありがとう…って、晴れ子ちゃんって、何?」
「君のことだよ~!晴れ女だから、晴れ子ちゃん!」
「なにそれ、私にもちゃんと名前あるんですけど」

 

なんて安直なあだ名なんだろうと小さく笑っていると、唐突にヤツが「おい、時間なくなるぞ」と彼を急かした。

 

「あ、そっスね!じゃあまたね~!」

 

最後まで彼は賑やかしかったが、反対にヤツは全然会話に入ってこなかった。

なんか、なんだか、終始睨まれていたような気がする。

 

…私、なんかあいつの気に触るようなことしたっけ?

 

「ホンット、あんたって委員長に振り回されてるね」

 

戻ってきても難しい顔をしている私に、呆れながら彼女が言った。

 

「…どうしよう、日曜以外に会えても、私がんばれないかも…」

 

また気分が落ちた私を前に、彼女は大きなため息をついた。

 

 

 

そもそも、ヤツの態度が変わったのはなんでだろう?
こないだの日曜、何か言ったっけ…?

いいや、あの日はあまり話せなくて、変わりに例の賑やかしい男子とばかり喋っていた。
帰りにようやく喋る機会がきたと思ったら、あれだもんなぁ。

 

…と、今週はこんなことばっかり考えていた。
あれから廊下とかで出くわすこともなく、もしかして避けられてたりもするのではと、いよいよ本気で憂鬱モードに入りかけている。


せっかく好きな本を借りに来た図書室でも、全然気持ちが上がらない。
駄目だ、今日は借りずに帰ろう、そう思って図書室を出た。

 

「お、いいところに」

 

ドアを抜けてすぐ、ヤツがいた。
ん?いいところに、って?

 

「なに?」
「お前、付き合ってくれないか?」
「…ッ?!!??」


一瞬訳がわからなくて、完全に固まってしまった。

 

「どうした?ゆっくり図書室から出てきたから、用事もなく帰るところかと思ったんだが」

 

…あー、あ~、はいはい、そうよね、わかってた。
コイツがそういう恋愛の付き合うとかいう話をするわけないよね。

 

「はいはいどうせ暇ですよ。何したらいいの?」
「ありがとう、助かる」

 

そう言って連れてこられたのは資料室だ。
次のイベントに使う飾り一式、段ボール二箱分を第三多目的室に運ぶらしい。

 

「私、女子なんだけど。普通女子にこういうこと頼む?」
「大丈夫だ、お前は男子並みに力仕事ができるからな」
「全然嬉しくないんですけど」

 

でもまあ、こうやって普通に話してくれるなら、力仕事の一つや二つ、喜んで手助けするんだけど。

 

てか、避けてるわけじゃなかったんだ…。
安心した気持ちと、ならなおさら何故?という疑問とが入り乱れて、もやもやした気分になった。

 

「今度は何するの?」

 

荷物を運びながら聞いた。

 

「介護施設でちょっとした見せ物をするんだ。明日はそれについて、委員会で内容を詰める予定だ」
「相変わらずがんばってますねぇ」
「…なんだ、参加できなくてひねくれているのか?」
「違いますー普通に褒めただけですー」
「そうか。委員会に参加しなくなったら暇になるから、ひねくれたのかと」

 

…まあ、あんたに会えなくて寂しいのはあるけどね。

なんて、言えるわけない。

 

「あのねえ、私いつでも日曜暇してるわけじゃないからね。あんたたちのために予定空けてたんだからね」
「ああ、それは前も聞いた。着いたぞ」

 

ヤツは多目的室の鍵を開け中に入った。
私もあとに続き、荷物を置いた。

 

「ありがとう、本来なら往復しなきゃいけないところだった。助かったよ」
「いえいえどーも」

 

いつも減らず口を叩くヤツが、こうやって優しい言葉をかけてくれると、嬉しさと恥ずかしさでごちゃごちゃになっちゃうけど、悩んでたことまでどこかへいってしまうから不思議だ。

 

「さっきの話だが」

 

彼は多目的室の鍵をかけながら言った。

 

「休日でも、例えば俺が予定を空けてくれとお願いしたら、空けてくれるのか?」
「え?まあ、うん」
「実はな、こないだ雑誌を買ったら、イベントに使えそうなところがたくさん載っていたんだ。遊び場だったりデートスポットだったりするんだが、一度は見に行っておきたいんだ」

 

さすがは委員長様だな、どんな時でも委員会のこと考えてるんだ。
しかもデートスポットまで…どこまで真面目なのよ、まったく。

 

「一緒にきてくれないか?一人よりお前とだと楽しそうだ」

 

んん~~、ホント、こういうことを素で言っちゃうんだもんな。

 

嬉しいけど、そういう対象として見られてないってことなのかな。
まあそうだとしても、これから徐々に、意識してもらったらいいか。

 

「そうでしょうよ。こないだも楽しかったでしょ」
「ああ。付き合ってくれるか?」

 

ほらまた、すぐそういう言葉を使う。

 

「そうね、仕方ない、付き合ってあげるよ」
「よろしく」

 

彼のにこやかな表情に、色々と思うところはあるけれど、私の憂鬱な気分は晴れやかになった。

 

 

 

「あ、晴れ子ちゃん、久しぶりだね~!委員会で会えないと思うと寂しいよ~~」
「そんな大袈裟な…」

 

未だに名前を知らない彼は、廊下で会うとしょっちゅう声をかけてくれるようになった。

 

「来なくていいって、委員長が言ったんでしょ?」
「うん、前のイベントの後に」
「も~、俺が晴れ子ちゃんと話してると、すげー睨んでくるんだよぉ。んで、俺から離すために、イベントに来させないようにしたみたい」
「えっ、そうなの?」

 

なんだか、私が危惧していたこととは違ったようだ。
でも、えーっと、ヤツはなんでそんなことを?

 

「なんかね、小言まで言ってくるもん。お前はあいつに絶対近づくな~とか。彼氏でもないのにおかしいよねぇ?!」

 

あ、彼氏彼女の関係じゃないって認識はようやくしてくれたんだ。

 

や、でも『彼女さん』って言われるの、ちょっと嬉しかったんだけどなぁ、残念。
・・・って、今はそんな話じゃなかった!

 

「でもね、俺そんな指図は受けないんだ。だってかわいい子には会いに行きたくなっちゃうものでしょ?!」
「え、え~…?」
「だから、お前は駄目だ」

 

両肩に手を置いて熱弁されていたのを、突然現れたヤツの手が払いのけた。

 

「あっ、噂をすればいいんちょ~!」
「お前は不特定多数の女子に愛想を振りまきすぎなんだ」
「ええ~!でもだからって、晴れ子ちゃんだけ邪魔するっておかしくないッスかぁ?付き合ってもいないのに!」
「いや、付き合ってるぞ?」
「えーっ?!」
「はぁぁああ?!なにそれ!」

 

ヤツの発言に驚かされたのは彼だけじゃない。

 

というか、いやいやいや、何言ってんのこいつは?!?

 

「なにそれってお前…。こないだ付き合うって言っただろう」
「なっ、あれはっ、いや、言ったけどさ!」
「言ったの晴れ子ちゃん?!なんだぁ~~、じゃあホントに委員長の彼女さんになっちゃったんだぁ…」

 

いや、なった気はなかったけどね?!

 

「え、なんか俺当て馬みたいじゃん!なんかヤだ!帰る!じゃね!」

 

そう言うと彼はぷいとどこかへ行ってしまった。
私はヤツの腕を引いて、ひと気のない所に移動した。

 

「どういうこと!?」
「…すまん、嫌だったか?」


ううーっ、この質問はずるい。

嫌なわけないけど、嫌じゃないって言ったら、好きなことバレちゃうじゃん。

 

私が何も返せず俯いていると、ヤツは私の頭をポンポンと撫で、「ごめん」と小さく言った。

 

「あいつはああでも言わないと、また構いに来るからな」

 

・・・え、それだけの理由?

 

彼氏彼女のふりをしただけってこと?

 

ああ、そうなんだ・・。

 

思いのほか、さっき気持ちが驚きと嬉しさで跳ね上がった分、今度はどん底まで気持ちが落ちてショックが大きい。

 

「…っていう建前だ」

 

・・・ん?

 

え、たてまえ??

 

ばっと見上げると、ヤツは片手で口もとを隠すようにしていて、よくは見えないけど、でも、赤くなっている…?

 

唐突に、廊下にチャイムが鳴り響く。

 

「あ、ほら、予鈴だ。俺も教室戻るから。じゃ」
「あっ、ちょっと!」

 

逃げるように去っていく彼の後ろ姿を、しばらく呆然と見つめていた。

 

建前って…建前ってことは…つまり…?
私、期待してもいいのかな??

 

「…あれ、こんなとこで何してんの?教室入ろうよ…ってどしたの?!顔真っ赤じゃん!」

 

親友は驚きと困惑の混じった表情で聞いてきたが、私はまだ思考の渦の中にいて何も返すことができなかった。

 

 

 

 

 

2522017