「おう、いらっしゃい。こないだはありがとうね」
いつもの喫茶店にいつもの時間に立ち寄ったら、いつもの息子さんじゃなくて親父さんが出迎えてくれた。
「おはようございます。こちらこそありがとうございました」
「やだー!隆行さんかっこいいー!惚れるー!」
奥から甲高い声が聞こえてきて、ビックリしてそちらを覗いてしまった。
奥のカウンター席には若い女性が座っていて、隆行さんと何やら親しげに会話している。
「隆行、あのお客さんに気に入られてて、捕まっちゃうと長いんだよ」
親父さんはこっそり耳打ちしてウインクした。
「そうですか」
ウインクなんてお茶目だなぁと思いつつ、なんだか、なぜだか、胸のあたりがチクリと痛んだ。
「今日はブレンドにする?それとも隆行がこないだ淹れたのにするかい?」
「あ、えっと、仕事の時はブレンドにします。こないだのは休日の特別ってことにしようかと」
「おや、また来てくれるってのかい?ありがたいね」
「ふふ、だって私のお気に入りなんですもん、ここ」
「照れるな~。若いお姉ちゃんにそう言われると舞い上がっちゃうね」
パンも頼んで受け取って、お店を出る前にちらと奥を見てみた。
隆行さんは未だお客さんと談笑中で、笑顔を絶やさない。
――でも、違う。
私が見たい、目が覚めるような眩しい笑顔じゃない。
朝のどんよりとした気持ちを引きずるようにして、私はお店を後にした。
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19061720