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Reddened

stories, and so forth.

 
 
 
 
 
 
 
気づいたら、彼女の頬がほのかに赤く染まっていた。

 

 

それに気づかないふりをしたまま、そんなに会話したことのない彼女との他愛もない会話をそつなくこなし、俺は席に戻った。

 

授業の合間の、短い休憩時間。

 

同じ図書委員なので、先生から言われた委員会からの伝達事項を伝えに行って、それから世間話を少しした。

ちょっと盛り上がって笑いあったりした。

 

そのときだ。

彼女の頬の赤みに気づいたのは。

 

 

あれはどういう意味だろう。

 

 

いや、意味なんて考える必要なんてないんじゃないか。

女子が男子と話してて頬を赤らめるなんて、理由は一つしかないだろう。

 

 

・・・ええ?

ホントに?

 

いや~、モテる男はつらいねぇ。

 

 

そんなことを延々考えていたら、次の授業が終わっていた。

 

 

 

午後の最後の授業中、二人組になって英語の会話を練習するよう先生が指示した。

 

こういう場合は席が近くて、でもいつも一緒にいるような友達ではない人を選ぶことが多い。

親しい友人だと、英語を発音よく言おうとする自分が恥ずかしく感じるからだ。

 

「な~一緒にやろうぜー」

 

そう思ったそばから、仲のいい奴が誘ってくる。

 

しかしこれは断れない。

断ったら、後々の友達事情が面倒なことになるかもしれないからだ。

 

俺はそいつと向かい合って、慣れない英語を言い合った。

 

 

途中、ふと彼女が視界に入ってきた。

 

まぁ女子と一緒にやってるんだろうと思ったら、通路を挟んだ隣りの男子と会話していた。

 

そしてなにより一番驚いたのが、彼女の少し赤らんだ頬だった。

 

 

・・・・なんだよ、それ。

 

俺が、特別じゃなかったってことか。

 

 

一気にやる気をなくした俺は、そこから棒読みの英語になった。

向かいの奴も真似しだして、二人して棒読みしていたら、いつの間にか先生が傍に立っていて、怒られた。

 

みんなに笑われてしまった。

でも、彼女も笑っていたからいいか。

 

 

 

放課後、先生に言われた通り委員会で集まって、ぼーっとしているうちに先輩方の発言で今後の流れが決まった。

それで、図書室の当番を二人一組で、同じクラスの男女の組み合わせでやることが決定した。

 

俺にとっては重要事項だった。

 

これから、彼女と一緒にいることが多くなるのか。

 

さて、どうしよう。

 

 

 

「せきめんしょう?」

 

俺はとっさに変換できなくて、聞き返してしまった。

 

今も彼女の頬はほのかに赤い。

 

「そう。赤面、しちゃうの。異性と話したり緊張したりするとよく。なんでもない時も赤くなったりして、すごく困るの」

 

彼女は赤面しながら赤面してしまう話をするのが恥ずかしいのだろう、頬を両手で覆いながら話す。

 

「それで?なんで俺にそのことを?」

「練習させてくれないかなって。男の子と話すのに、赤くならないように。橘くん、同じ図書委員だし、話す機会多いかなって」

 

ああ、ただ、それだけか。

 

チクリと胸が痛む。

 

「いいよ!協力する。じゃ俺、積極的に井上に話しかけるようにするよ」

「ごめんね、ありがとう」

 

俺は笑顔を返したが、内心は落ち込みまくっていた。

 

 

 

そもそも勘違いをしたのは俺だ。

 

赤面している、好かれているかもしれない、そう勝手に思考が進んで、それが思いのほか嬉しかったんだ。

 

だって井上、かわいいし。

 

つまりは、今は俺の方が彼女を好きなんだ。

 

でも、協力するって言っちゃったからなぁ…。

普通の男子として、たくさん話しかけていかなきゃ、なんだなぁ。

 

なんだか難しい役を受けちゃった。

大丈夫かな、俺。

 

 

 

「私、赤い?」

「んー、ちょっと」

「まだダメかぁ。けっこう慣れたと思ったんだけどな」

 

俺たちは今、図書室の当番だ。

でも、誰も利用してる生徒はいなくて、俺たちのおしゃべり場と化している。

 

俺はあれから、ホントによく話しかけた。

 

クラスの男子は、そんな俺らに「付き合ってんじゃねーの?!」とか言ってきた。

 

も~、そういうこと言うと、井上がまた赤面発動しちゃうじゃん!

ガキかよー。

 

そう思いつつ否定したけど、もしかしたら俺も赤面してたかも?と思うと恥ずかしい。

 

「橘くん、本読むんだね。図書委員に立候補したとき意外だった」

 

俺が暇で取ってきた本を読んでいると、彼女が言う。

 

「読むよ!超読むよ!でもお金ないから、図書室でばっか借りてる」

「ふふ、うん、私も一緒」

 

彼女と図書室の当番をしたりよく話すようになって、彼女のことをいろいろ知ることができた。

 

本が好きなこと。

小学校から図書委員ばっかりやってること。

逆に運動は苦手なこと。

笑うととってもかわいいこと。

 

「俺、あれ読みたいんだよ!山上秋樹の新刊!でも、すぐには図書室に入らないよなぁ~」

「あっ、私も!でも出たばっかりだしね。先生に言ったら入れてくれるかも、話題だし」

「そだな!今度お願いしてみよーっと。井上も山上秋樹読むんだ?」

「うん、世界観が毎回面白くて好き」

「だよなぁ!俺いちばん好きなのあれ、『ハイウェイ・ラプソディ』!」

「あ~いいよね!私は『海の番人』かな」

「ああ、番人シリーズ!あれも好き!」

「シリーズだと、地底探偵社シリーズも好きだよ」

「わかるー!…あ」

「ん、なに?」

「井上、顔、全然赤くない!」

「えっ、ほんと?!」

 

そうか、盛り上がったり勢いで喋ってると、赤くならないのかな。

でもこれ、すごい進歩だ!

 

「やったじゃん!」

 

俺は思わず、彼女の両手を取って一緒にバンザイした。

 

すると、彼女の顔は一気に赤くなった。

 

「…ごめん、ダメみたい」

「そだな、なんかゴメン」

 

その後生徒が図書室に入ってきたこともあって、俺はしぼんだ風船のようにしょぼくれながら静かにした。

 

 

 

このことがきっかけかはわからないけれど、クラスで彼女が男子と話してても、赤くなってないような気がした。

 

なんか、赤くなるな、とかそういうことを意識せずに話に集中すると、割と大丈夫になってきたらしい。

 

「橘くんのおかげだよ、ありがとう」

「いいって!これも同じ図書委員のよしみだろ!」

 

そう自分で言っておいて、図書委員だからなだけかぁと、井上との繋がりの少なさにちょっと凹んだ。

 

 

 

井上に練習をお願いされてから月日が経ち、彼女は誰と話してもあまり赤面しなくなった。

まだ、みんなの前で発表するときなんかは赤くなっちゃうそうだが、そんなのみんな同じだ。

 

そろそろ、俺もお役御免となる日が近づいているのかもな、と、少し寂しく感じている今日この頃である。

 

「先生から聞いた?山上秋樹の新刊、入れてくれるって」

 

俺たちは、今日も今日とて図書委員の真っ最中だ。

受付で、こそこそとおしゃべりをする。

 

「聞いた聞いた!俺が何回もお願いしたからかな~嬉しいな~。あ、でも、入ったら井上が先に読んでね」

「え、なんで?」

「だって俺、読んだら内容について話したくなっちゃうもん」

「ふふ、わかった。じゃ、なるべく早く読むね」

「いやいやいや!じっくり読んで!山上秋樹はゆっくりじっくり読まないと」

「あの、借りたいんですけど」

 

気がついたら本を借りるために男子生徒が目の前に来ていた。

やばいやばい、仕事シゴト。

 

手筈を終えて彼が出ていくのを見送り、ふうとため息をついた。

 

「今の人、俺と気が合うかも。良い本のチョイスだった」

 

にかっと笑いながら隣を見ると、彼女はなんだかぽおっとしていた。

頬も、心なしか、なんだか赤い。

 

「井上?」

「あっ、ごめん!なに?」

「今の人の本、見てた?」

「…見てなかった・・・ごめん」

 

ん?

借りてった本を見て物思いにふけってたのかと思ったけど、違うのか。

 

じゃあ、借りた生徒に、見とれてた…とか?

 

またチクリと胸が痛む。

 

「今の人が借りていった本がね、俺と趣味が合う感じだったなって。知ってる人?」

「えーと、誰なのかも見てなかった…ははは」

 

見てなかったんだ。

 

ん?てことは井上、何に見とれて赤くなってたんだ?

 

本じゃなく、彼でもないとしたら…。

 

 

・・・ええ?

ホントに?

 

いやいや、また俺の思い違いとかなんじゃないの?

 

 

「あれ?橘くん…」

「えっ、あっ、なに?!」

 

動揺して変な反応をしてしまった俺を、覗きこむように見てきた彼女は、ふふっと笑った。

 

「顔、赤いよ。私と一緒だね」

「えええっ?!?」

 

俺は思わず、以前彼女がしていたように、両手で頬を覆った。

 

「うう~、これ、恥ずかしいもんだね」

「ふふ、でしょ?でもなんで赤くなったの…?」

「…俺もわからない……」

 

ウソだ。

 

俺はいま、井上に好かれてるかもと考えて、嬉しかったんだ。

それで、照れたんだ。

 

 

「俺、井上専門の赤面症になっちゃったのかも」

「…え?」

 

きょとんとした顔で、彼女は首を傾げた。

 

その直後、チャイムが鳴る。

 

「あ、下校時間だ!片づけよ!」

 

そう勢いよく言いながら受付カウンターを飛び出し、赤い顔が引くまで彼女と離れた場所を片づける俺であった。

 

 

 

 

 

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