俺の店は、表通りから北へ少し入ったところにある。
表通りをもうちょっと先へ行くとオフィス街なので、朝は駅からそちらに向かうビジネスマンの行列が出来る。
俺の想い人も同じ道を通りつつ、毎朝列を抜けてうちに来てくれているのだろう。
だとしたら、帰りも同じく表通りを通っていくのではないか。
今までなぜ俺はこんな簡単なことに気づかなかったんだろう、そう思いながら、掃除用具を持って外へ出たのがさっきだ。
なにせ今朝は、せっかく彼女が来店してくれたのに、常連さんの相手で全く顔も見れなかった。
ただ、親父と何やら楽しそうに会話しているのだけはわかった。
実の父親にジェラシーを覚えるなんて、そうないことだろう。
そういうわけで、帰り間際の彼女を見かけられないかと、掃除を口実に表に出ている。
だがしかし。
彼女が何時に仕事を終えるかなんて、全く知らない。
ましてや同じ道を帰る保証もない。
もしこの、俺が掃除している間に会えたら、それはもう運命といっても過言ではないんじゃないか。
そんなことを考えつつ手を動かしていると、店の前はすっかりきれいになってしまった。
ああ・・残念だ・・・と、俺は一つため息をついた。
もう店に入ろうと、名残惜しく表通りを見たその時だった。
彼女だ!!!
彼女が笑いながら表通りを歩いている…!
――隣りに、男性を連れて。
とても親しげに見える彼女らは、腕は組んではいないものの、笑い合う声がこちらにも聞こえてきそうなくらい楽しげだった。
そうだ、俺は何を思い上がっていたのだろう。
彼女には彼女の職場なりプライベートなり世界があるし、ただの“店員”と“客”という関係の、それ以上何があるというのか。
親父の、彼女が今朝俺に会えなくて寂しそうだった、なんて言葉を真に受けなければよかった。
運命だなんて、おこがましい。
ああ、今日は厄日だ。
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19061720