「これは夢の話なんだけどもね」
「ああ、なんだい突然」
「まぁ聞いてくれよ。その夢の中で、僕と瓜二つの人間が目の前に現れるんだ」
「へぇ、君は確か、ひとりっ子だったよね」
「ああそうだよ。しかし本当に、どこを取っても僕と全く同じなんだ」
「まぁ、夢ってのは往々にして不可思議なものさ」
「確かにそうだ。それで彼が言うにはね、『同じ人間はあともう一人居る』」
「ほう、さらにもう一人か」
「続けて彼はこう言ったよ。『僕という存在は、一人だけでいい』」
「まぁ確かに、正論だな」
「いやしかし、次の彼の言葉が問題なんだ。『だから、君を殺す』」
「おやおや、それはなんとも物騒な話だね」
「だろう?そこで目が覚めたから夢はそれで終わりなんだけれど、妙にリアルな夢でね」
「しかし君、夢は夢だよ。君と全く同じ人間が居るだなんて、心底有り得ない話だ。そうだろう?」
「ああ、そう、そうなんだが…」
「なんだい君、突然夢の話をしたり、夢に怯えているようだったり、なんだか今日の君は変だな」
「そう見えるかい?そうだよ、確かに僕は今、自分がみた夢に怯えているんだ」
「いったい、どうしたっていうんだい?」
「君は昨日のあのニュースを知らないかい?ある男が、頭をかち割られて殺された事件さ」
「いや、生憎知らないな。僕はあまり新聞やテレビを見ない主義だからね。その事件が何か?」
「実は、それで殺された男っていうのが、僕なんだ」
「ん?どういうことだ?ということは僕は今、幽霊と話しているとでも言うのかい?」
「いや、そうではなくて…すまない、僕自身動揺していて、言葉まで可笑しくなってしまっているようだ。つまり、その男の顔は僕そのものだったし、名前だって全く同じだったってことさ」
「なんと…!」
「名前のほうは、よくある名前だからという理由で理解できる。しかし、ニュースで出ていた男の顔まで、僕が自分だと思ってしまう程に同じだったとなると、少し前にみた夢を思い出さざるをえないじゃないか」
「そうだね…いやしかし、夢は夢だ。だが…」
「信じられないだろう?いや、僕だって信じたくもない。しかし、信じろといわんばかりの状況だと思わないか?」
「まことにその通りだ。ということはだ、君は今、自分と全く同じ人間に命を狙われている、そうだね?」
「ああ、まるで鏡に追われているようだよ」
「鏡か…そういえば君の斜め後ろの方にある鏡に君がずっと映っているが…よく考えると、あれに君の姿が映っているのはおかしいな、角度的に無理なはずだ。ええと…」
「どうしたんだい、ぼそぼそと独り言を言って。ん?今度はなんだ、目をそんなに大きく見開いて。まるでこの世のものとは思えないものが近寄ってくるみたいに。ああ、僕をからかおうっていうのかい?僕はそんなものじゃ脅かされないよ。実はね、さっきの夢の話は全部僕の冗談だよ。だって君、この世に自分と全く同じ人間なんて居るわけないじゃないか。だから僕は、僕に殺されたりなんかしないんだよ‥‥」
03302009