「―――はっ」
小さな吐息を漏らし、ベッドの上の人間は徐に上体を起こした。
「‥‥あ…」
その人物はベッドの傍に居たわたしの存在に気づくと、また一つ声を漏らした。しかし先程のそれとは違い、安心の色がみえる。
「今、何時?えらく真っ暗だけど…」
「深夜だからね。君がうなされているようだったから、気になって見に来たんだ」
「そう・・」
今はその暗さでお互いの表情すら窺えない。ただ人型の陰だけが、わずかな光でその存在を示している。
状況を把握して落ち着いたのか、ベッドの上の陰はまた身体を倒し枕に顔を埋めた。
「なにか・・・」
「ん?」
聞き取れないくらいのか細い声で呟かれ、わたしは腰を浮かせて近づき耳を傾けた。
「…なんだか、とてつもなく恐ろしいことが起こったような気がしたんだ」
「とてつもなく、恐ろしいこと?」
「そう」
先程よりしっかりしたその声で、声の主がベッドに横たわりながらもこちらを見つめている感覚が身に取れた。
「まず最初に、世界を大地震が襲うんだ。人々は逃げ惑うんだけど、地震と共に火災が発生するなか今度は有り得ないような異常気象がやってくる。夏なのに豪雪が降って、各地で竜巻や雷が起こる。誰かが『世界の終わりだ』とかなんとか叫んだら、夜でもないのに空がどんどん暗くなっていったんだ」
ここまで一気に言うと、声は切れ呼吸を整える気配を感じた。自分の言ったことでその様を思い出したのか、いくらか怯えているようだ。影を探ってその手に触れれば、震えているのかもしれない。
「空が暗くなったら全然周りが見えなくなって、もう何が起こってるのかさえ判らなくなってしまった。地震は幾度も起こっていたし、電気なんてもう機能していなかった。どうすればいいか全く判らなかったから、ずっと暗闇の中で小さくなって震えていたんだ」
声は次第に弱くなっていって途切れた。それから次の言葉が発せられるまで、いくらか間があった。
「そうしていた筈なのに、気づいたらこのベッドに横たわっていた。あんなに色んなことが起こった記憶と感覚は怖ろしい程に残っているのに、なぜ自分はこんな所でゆったりと寝ていて、こうしてあなたと一緒に居るんだろう」
言葉を求められて、わたしは決まり文句のように平坦に言った。
「君がみたのはたぶん夢なんだよ。疲れてるみたいだね、もう少しお休み」
「‥‥うん」
返事をした影は、寝返りをうって再び眠りに入った。もう来ることも無い朝を待ちながら。
07042007