大手町のゴースト2024 34 戦後復興期の東京駅前へ | のむりんのブログ

のむりんのブログ

私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

34

 

 

 

 

 

「ああああああ」

 

 課長。

 

小さき蛙の、いまわの際に発するがごとき、無垢な恐怖の叫び。その半開きの口から、破れ障子から漏れるスキマ風になって、ひゅー・・・、ああ、もう、だめだ!

 

課長は気を失いました。意識が暗転しました。課長は真っ暗なところへ消えてしまった・・・

 

・・・・

 

明るくなってみると、そこは東京駅の前です。

 

丸の内側の北出口をでたところ。晴れた昼前の時間、人影がない。

 

誰もいないのかと思ったら、道路端に、失われたと思っていた人々が座っていました。

 

靴磨き。

 

数人いました。みんな乞食のようないでたちで、うつむいて座り、客を待っているのです。

 

課長は靴磨きなど利用したことはありません。磨かれるような立派なピカピカの靴など履いたことがないのです。

 

しかしなぜか靴磨きのもとへ歩いていきました。客席に座って足を台のうえに載せました。

 

頭にスカーフをした靴磨きのおばさんが、うつむいたまま頭を下げ、仕事にとりかかりました。

 

そうして課長はあたりを見まわしました。そして驚きました。

 

そこは課長の知っている、あの新しい高層ビルで切り刻まれた街ではなかった。

 

ビルはまばらで空き地も多い。そのビルの背丈は十階だてぐらいに行儀よく揃っていて、さっぱりした、全然に別の街だったのです。

 

「ここは東京か、東京駅の、前か・・・」

 

驚き、ひとりで呟くと、靴磨きのおばさんが、「ええ」と相槌を打つのでした。

 

「何だか別の街みたいだ。まるで変わってしまった・・・」

 

「ええ。やられちまったですからね。負けると、みじめですね。駅の天井も、丸屋根が吹っ飛ばされて、三角屋根になっちまったね」

 

「やられちまった。負けた・・・?」

 

「でもね、復興がすすんでるよ、あのビルだって、きれいに修理したよ」

 

おばさんの指差すビルは、たしかに真っ白で綺麗。横長の十階だて。靴磨きをしながら、おばさんは言葉を続けました。

 

「復興金融公庫のおかげだね。私は、昔、あそこで働いてたのよ。でも、クビになったのよ、飛び降り自殺があってね」

 

「飛び降り自殺・・・」

 

「私たちにとっては大事件でしたが、なぜか新聞には出なかった。

 

帝銀の青酸カリ事件や国鉄の脱線事件にくらべたら、たいしたことのない、

 

一山いくらの事件だったんでしょうね」

 

  ・・・このおばさんの声。別人のように、はきはき喋るものだから、最初は気づかなかったが、課長は間違いないと思った。

 

「なぜ課長が飛び降りたのかも、私たちにはわかってる。警視庁の連中も気づいてる。もちろんGHQもね。

 

でも、でも、もう逆コースのご時勢でしょ、

 

共産党も頭を押さえられて、組合もゼネストは中止だし、

 

わかってることを、うかつにいったら、何されるかわからない。・・・

 

 

・・・・つづく

 

 

 

音楽を貼ろうとしたら

 

「エラーが発生しました。
時間を置いてからお試しください。」

 

とのメッセージが、今日もでました!

 

だから今日もノー音楽です。ノー音楽、ノーライフ。ショボーンガーン