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「いや、気になるのはあなたの会社か。私は私がまったくわからないのに、そんなことが、なんで気になるのか不思議だ」
「いや、もうとにかく、呼んでください、守衛・・・」
「開きますよすぐ、ドアなんて。すぐに開けますから、またお邪魔していいですか」
「いいですよ。ちょっと、きちんと話合いましょう。
うちも、はっきりいって、気味悪がってる人もいるんですよ、あなたのこと。
いや、大変に失礼な言い方で申し訳ない。しかし、この際、きっちり話し合って決めましょう、職場どうしで」
「まあ、職場はわからないですが、またお邪魔することにして、いいですか」
「いいですよ、さあ、開けてください、この場で、話し合えるだけのことは話し合っておきましょう。電気もつけてください」
すると、パッと明かりがついた。
何事もなかったように白色のクールな光に全身が包まれた。ドアを押す。難なく開いた。
「?」
そしてそこには誰もいなかった・・・
・・・・・・
「今夜だけは、残業してくれませんか!?」
総務課長は、天野調査役に詰め寄った。
「どうにも仕事が終りそうにない」
天野調査役は、総務課長に対して衷心の同情を示す表情ながら、体は「いやいや」の仕草をした。
「私なんか、お役にたたないわ」
そういっているのだ。
そして、天野氏は萩野職員の方を見た。
こっちに手伝ってもらえといってるのだろう。しかし、萩野さんは、課長と調査役の話じたいを聞いていなかった。
エジプトの痴呆みたいな顔をしていた。
悪意はないのだ。
本当に何も聞いてないのだ。きっと頭の中が古代文明なのだ。
萩野さんに残業してもらっても、これは真実、役に立たぬ。
持病のヘルペスを悪化させるだけだろう。(彼女は一か月前にヘルペスになった。そのときのお岩さんのような顔を思い出すと気の毒で耐えられない。)
「熱田くんよ、熱田くんの出番よ、ねえ課長!」
アカネ職員が、これぞグッドアイデアだというように叫んだ。
総務課長は、実はそうしようかと考えかけていた。しかし、それをこのアカネにいわれてしまうと、意地でもそうしたくないという気持になった。
「熱田くんは、まだ、そのね・・・」
だめなんだ、というニュアンスを伝えようとすると、アカネの表情は豹変し、それは悪党の顔になった。
そして課長を見返した。
その顔は、この世の何も受けつけないという険悪で堅固な意志をもつ悪党の顔だった。
うすら笑いさえ浮べていた。
あとの職員(宮坂さんほか一、二名)はみんなアカネ派閥に属している。すべては絶望である。
それ以上、課長は誰にも何もいいたくなくなった。
・・・・つづく