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すると、「ぼっ」と目の前に閃光が見えました。
赤色ランプ光線を照射されたかのように、あたりが真っ赤になりました。
しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐ、真っ暗になりました。
漆黒の闇。
「!」
停電?違うか。「電気」とかいったから、電気を切りやがったか?
そして、声がしました。
「わからない」
声。闇の底からの、ひっそりした声でした。
「わからない。・・・九階? ・・・三井菱物産?・・・わからない」
それはドアの向うから聞える声でした。
「それで、あちらこちら歩いたのだ。わからない」
「・・・」
その、意外に落ち着いた相手の声に、課長はかえって動揺してしまいました。そして闇から声は課長にたずねて、
「あなたは総務課長・・・」
「・・・」
「さっき、そう、おっしゃいましたね」
「ええ」
「私に、見覚えはありませんか」
「見覚え?」
見覚えったって・・・ドアにさえぎられ、しかも今は真っ暗闇じゃないですか。
しかし相手は続けて、
「あなたに、これから、おたずねしてもいいですか」
「おたずね?」
「はい。私はわからないのですよ。何もかも」
「わからない。どういうことです。ご自身のこととか、所属部署とか、ですか」
「そうですね」
「ご記憶を喪失されましたか」
「そういうことでしょうか?」
「そんな。私にきかれても困ります・・・九階に行かれてはいかがです。それで、守衛さんに連絡してください」
「九階?なぜ?」
「だってあなた、三井菱の方じゃないのですか?三井菱様の情報システム部。そうききましたよ」
「そうですか。どなたから」
「うちの部下です」
天野調査役の顔が浮びました。舌をだしました。がせねたか?ありそうなことです。課長は不安になりました。
さらに、ドアの向うの声はいいました。
「総務課長様ですね」
「そうですよ」
「どうも気になる」
「何がです」
「あなたが」
「・・・・・・?」
・・・・・つづく
関係なきおまけ。ききたくなってしまいましたので添付。