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声をかけようか・・・・?
課長が迷っていると、「ううう」と呻き声が聞こえました。部屋の中から、苦しそうな声が。
それは助けを求めている声でした。次に、
「ああ!」
という大声。課長は腰をぬかしそうになり、思わず叫びました。
「大丈夫か!」
ドアのノブを握り、開けようとした。鍵がかかっているから当然開きません。しかし、中から苦しそうな声が続くので、課長は力をこめて引っ張ったのです。
さすがはあと二年で建て替え予定の老朽ビル。トイレのドアも腐りかかっていました。案外簡単に鍵は壊れました。
びきっ!
鍵はふっとびました。これでドアは開く。しかし一気に開こうとして、瞬間、鋭いためらいが課長の手を止めました。
開けたら何が出てくるんだ?・・・何が!?
閃光のような戦慄。
迷っていると、ドアのほうで勝手に動きました。課長は驚いて飛びのきました。ドアは、ぎいーと唸りながら開きました。
「・・・・・・」
ゆっくりぞきこむと、男が倒れていました。若い男です。首に紐を巻いていて、その紐は首に一周まきついた後、ちぎれていました。
課長は大きく目を見開きました。
熱田(あつた)くん?
それは業務課の新人、熱田良男くんだったのです。
これは・・・自殺未遂。
熱田君は上に通っている通気パイプに紐の一方を結んで、一方を首に巻きつけて、首つり自殺にトライしたが、なぜか紐が切れてしまい、トイレの床へと落下してしまった。そして気を失ってしまった。
課長にはそのように見えました。そして課長は大慌て救急車を呼びました。
・・・・・・
その翌朝。
「え」
話をきいて、一瞬、驚愕したのは業務課長の朝倉晶子氏であります。
しかしすぐに彼女は平静の精神状態にもどりました。
そして総務課長をカタキでも見るような目でにらんだのです。
「ご迷惑、おかけしました」
彼女は熱田くんの上司。
総務課長とはえらく異なり、花形部門の課長であります。辣腕の冷酷美人。背もすらりと高く、総務課長よりか高い。一方で彼女は総務課長のずいぶん後輩でした。
「本当にご迷惑を」
そういっていますが、迷惑なのはこちらだ、とんだ新人をつかまされた、という目をしていました。
あんたが支店長にいって、あんな新人を私の部下に配置させたんじゃないのかしら、という顔をしていました。課長は朝倉氏に、
「昨夜、朝倉課長に連絡し申し上げようと思ったんですが、遅かったし。大事にはいたらなかったし。まあ、今日は休むようにいっておきました」
・・・・つづく