大手町のゴースト2024 6 哀愁の熱田くん登場 | 新庄知慧のブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

声をかけようか・・・・?

 

課長が迷っていると、「ううう」と呻き声が聞こえました。部屋の中から、苦しそうな声が。

 

それは助けを求めている声でした。次に、

 

「ああ!」

 

という大声。課長は腰をぬかしそうになり、思わず叫びました。

 

「大丈夫か!」

 

ドアのノブを握り、開けようとした。鍵がかかっているから当然開きません。しかし、中から苦しそうな声が続くので、課長は力をこめて引っ張ったのです。

 

さすがはあと二年で建て替え予定の老朽ビル。トイレのドアも腐りかかっていました。案外簡単に鍵は壊れました。

 

びきっ!

 

鍵はふっとびました。これでドアは開く。しかし一気に開こうとして、瞬間、鋭いためらいが課長の手を止めました。

 

開けたら何が出てくるんだ?・・・何が!?

 

閃光のような戦慄。

 

迷っていると、ドアのほうで勝手に動きました。課長は驚いて飛びのきました。ドアは、ぎいーと唸りながら開きました。

 

「・・・・・・」

 

ゆっくりぞきこむと、男が倒れていました。若い男です。首に紐を巻いていて、その紐は首に一周まきついた後、ちぎれていました。

 

課長は大きく目を見開きました。

 

熱田(あつた)くん?

 

それは業務課の新人、熱田良男くんだったのです。

 

これは・・・自殺未遂。

 

熱田君は上に通っている通気パイプに紐の一方を結んで、一方を首に巻きつけて、首つり自殺にトライしたが、なぜか紐が切れてしまい、トイレの床へと落下してしまった。そして気を失ってしまった。

 

課長にはそのように見えました。そして課長は大慌て救急車を呼びました。

 

 

・・・・・・

 

その翌朝。

 

「え」

 

 話をきいて、一瞬、驚愕したのは業務課長の朝倉晶子氏であります。

 

しかしすぐに彼女は平静の精神状態にもどりました。

 

そして総務課長をカタキでも見るような目でにらんだのです。

 

「ご迷惑、おかけしました」

 

彼女は熱田くんの上司。

 

総務課長とはえらく異なり、花形部門の課長であります。辣腕の冷酷美人。背もすらりと高く、総務課長よりか高い。一方で彼女は総務課長のずいぶん後輩でした。

 

「本当にご迷惑を」

 

そういっていますが、迷惑なのはこちらだ、とんだ新人をつかまされた、という目をしていました。

 

あんたが支店長にいって、あんな新人を私の部下に配置させたんじゃないのかしら、という顔をしていました。課長は朝倉氏に、

 

「昨夜、朝倉課長に連絡し申し上げようと思ったんですが、遅かったし。大事にはいたらなかったし。まあ、今日は休むようにいっておきました」

 

 

 

・・・・つづく