大手町のゴースト2024 4 妖怪おてあらい | のむりんのブログ

のむりんのブログ

私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

「そしてすぐに消えた」

 

天野調査役が言葉を接ぎました。

 

「ええ」総務課長はうなずきました。

 

「課長の後ろに立ってたんでしょう、そいつは」

 

「いや、そうではない。私はいなかった。鏡にうつってたのは、そいつだけです」

 

「疲れてたんですよ、きっと」

 

天野氏は気の毒そうな顔をしました。

 

「いや、違う」

 

 課長は首を横にふったのですが、相手に馬鹿にされているようで、腹がたちました。

 

誰かに話したくて喋ってしまったが、こんな奴に話したのは間違いだった。不快な思いをしただけだと思いました。

 

そういう課長の表情を察してか、天野調査役は急に態度を変えた。神妙に、

 

「そうですか」

 

といって食後の茶を一口すすり、

 

「でたんですな、やっぱり。なんと申してよいか。実に奇怪がやってきましたな。どうしましょうか、わが総務課としては」

 

手のひらをかえしたような言い方は、かえって不信で不快になります。総務課長は返事しませんでした。

 

天野調査役は焦って言葉を続け、

 

「職場の安心のために、お化け捜査に取り組みますか」

 

どうも馬鹿にしているとしか思えない。課長は横をむいて言いました。

 

「そうですな」

 

「そうですな、って、そっけないですよ課長。わかりました、白状します」

 

「白状?」

 

「みました。私も」

 

天野調査役は身を乗り出した。総務課長に顔面が巨大に迫りました!

 

「みた?何を?」

 

「何をって、お化けです」

 

調査役は眉間に皺をよせました。そして続けました。

 

「私だけじゃない、何人か見ている。みんな、あまりいいたがらないですが。

 

そいつはね、妖怪お手洗いです」

 

「・・・・」

 

「課長、転勤してきたばかりだからご存知なかったでしょうが、もう十年以上も前から、このビルに出るんです。

 

便所で、ながなが手を洗って、鏡をのぞき、また手を洗って、じいっと、じいっとして・・・」

 

天野調査役は手を洗うしぐさしつつ熱弁したのです!

 

「トイレのペーパータオルで手を拭いて、また手を洗って、また拭いて、また鏡をみて、

 

それをくりかえすんです。

 

そうです。背の高い、ひょろりとした奴で、鼻がでかくて、髪の毛はモジャモジャしている・・・そいつでしょう」

 

「はあ」

 

「そうでしょう」

 

「ええ・・・」

 

総務課長がうなずくと、天野調査役は口を閉じてへの字にまげ、やや深刻な顔をしました。

 

・・・・つづく

 

 

 

これは・・・こんなスゴイ歌を今頃知りました。↓

カネコアヤノさんは、私と同じ横浜市ご出身だそうです。推しです、推し!