製氷室のマリア109 その通りでしょう | 新庄知慧のブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

109

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に嘘はいってなかったでしょう。

 

あなたは叔母さんが恋をしているのじゃないか、とおっしゃってましたが、その通りだったじゃないですか。

 

こちらの棺の中にいる、園長さんが、恋人だったんでしょう?」

 

  美香は頷いた。

 

「…そうなんです。そうなんですよ、玖村さん。この方は、まだ、されむ町にいらっしゃったんです。

 

だから、叔母の狂気がよみがえったんじゃなくて、この方への愛が芽生えたのかもしれない、そう私が思ったのも、本当でした…。でも…」

 

「でも?」私はきいた。

 

「園長さん、独身だったんですか?」記者が割ってはいった。「老いらくの恋っていっても、女房もちじゃつらいでしょう」

 

「独身ですよ」

 

私は美香に代わって答えた。それから、美香の顔をじっと見て、いった。

 

「…でも、叔母様は、裏切られた…・」 

 

 美香は沈黙した。

 

少しの間(ま)。そして私は続けた。

 

「20年前の美人女優がよみがえった。美人女優には、子供がいた。養護施設で、彼女は育っていた。

 

園長先生は、彼女を育てていた。そして、園長は、彼女を愛していた…

 

この町に来て、去る筋から得た情報ですがね。このことは、確かだと思います。

 

そして、男と女の関係として、愛していたのを、叔母様は知った。叔母様は、逆上した。そして、薬物で殺してしまった」

 

 美香は、大きく目を見開いた。

 

「私は、この町に来た最初、園長に愛されていたその知的障害のある少女に、偶然に出会ったんですよ。

 

あだ名は「クマ」本名は「マリア」。

 

…叔母様は、きっと、狂気にとりつかれて、また狂気の映画を作る気持ちもあったが、そんな自分に嫌気がさしてもいて、いつでも死ねるように、薬物を持っていた。

 

場合によっては、死を選ぼうとした、されむ行きだったんじゃないでしょうか」

 

 美香は驚いて、いった。

 

「…・そうです。叔母は、そんな薬を、いつも持ってました。今回も、それを持って、この町に来た…」

 

 「しかし、叔母様は、施設に行って、園長とマリアの関係を知った…・。

 

狂気がよみがえり、あの日、私と別れて、吹雪の晩に、施設にまいもどった少女を、薬物で殺した…

 

それから、園長と無理心中を試みたが、果たせなかった…」

 

「そうだったのか!」署長は手を打ち、叫び、

 

「薬物を、そのお嬢さんの家にある薬物と照合すれば、物証を得るられるわけだ!マリア殺しの犯人は、美咲セツ子か!」

 

  私は苦笑し、続けた。

 

「そして、叔母様は、狂った弟子たちに、殺人芸術の完成を指示し、自分はその殺人映画の中で、園長と心中して、狂気の映画人生に、エンド・マークを打とうとした」

 

美香は、苦しそうな表情をし、うつむいた。

 

顔には、その通りでしょう…と書いてあった。

 

 

・・・・つづく