梟塚妖奇譚 ・ 火車 【拾六】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

廊下


廊下の角にトイレがあり、その角を曲がると右手にはドア、左手には襖がずらりと並ぶ長い廊下がある。

その突き当りにあるのが祖父の部屋だ。

祖父の部屋の床には芝生のような緑の絨毯が敷かれている。

大きな窓があって、その前には大きな机と古い椅子。

本がぎっしり詰まっている天井に届くくらいの大きな本棚もあって、その前には安楽椅子が置いてあった。

祖父はよくその安楽椅子に深々と腰掛け、ゆらゆら揺られながら本を読んでいた。


「寒い」


微かに聞こえる雨風の音にまぎれて葛城の声が聞こえ、ぼくは我に返った。

彼女は腕をこすりながらぼくの後ろを歩いていた。


「なにもないのに急に鳥肌が立ったり、背筋が寒くなったりすること、あるでしょ」


柚原は先頭を歩いている。


「それはね、霊が近くに感じているときなんだよ。

 今は特に潮見くんも葛城さんもぼくの雰囲気に呑まれてるから、感覚がいつも以上に研ぎ澄まされてる」


普段はからっきし存在感がない。

変な噂があり、得体も知れない。

ぼくらは柚原のことを避けていた。

そんな彼にぼくは呑まれていた。

いつの間にか、自分ではどうしようもないこの状況を、彼に頼っていた。

先の死番虫の件でぼくは柚原のことを信頼していた。


柚原が無言で祖父の部屋の前で立ち止まり、ドアノブに手を掛けた。

あの独特な音が聞こえた。

ラッチボルトがストライクから外れる金属音だ。

普段聞き慣れたその音も、奇妙な雰囲気に呑まれたぼくにとっては特別な音になる。


ノブを半分ほど回しかけたときだった。

柚原は手を止めた。

それを後ろから見ていたぼくは思わず体が跳ね、一歩下がっていた。

何かにぶつかってさらに慌てて振り返った。


「ちょっと」


葛城だった。

顎をわずかに上にあげ、ぼくを睨む。

この癖は、かわいくない。

それにしても、ぼくは情けない。


「ごめん。開けていいよね」


前を向くと作り笑いの柚原がいた。

ぼくたち二人とは違った緊張感が柚原にはあるようだった。

ぼくは必要以上に首を縦に振って、
OKの意思を示した。

再びストライクからラッチボルトが外れ、戸が奥に開けた。



梟印1